Moronoboideae は中南米, アフリカ, マダガスカル, ニュー•カレドニアの熱帯に局所的分布域をもつ小さな7属よりなるオトギリソウ科 (Guttiferae) (広義) の一亜科である. この亜科に属する植物はいずれも向軸性で0.8-3cmに達する細長い線型の葯室をもち, 葯隔の柔組織の非常に発達した束生雄性花をつけることで特徴づけられる. この雄性花の非常に特異な形態からしても, 他のオトギリソウ科植物の形態的特徴を考える時, Moronoboideae に属する植物を広義の Guttiferae に一括して入れておくのは問題である
3,5). 本研究では Moronoboideae 7属中の4属に属する6種
Montrouziera sphaeroidea, M. cauliflora,
Moronobea riparia, M. pataritepuiana ssp.
neblinae, Thysanostemon pakaraimae, Symphoniaglobulifera の雄性花の解剖学的特徴をしらべた. これらの4属に属する植物はいずれも花托にて花弁, 雄性花へ維管束が分離, 移行の際, 中心柱から直接にいわゆる枝隙と非常に似た型をとり, 5個の外篩管状中心柱を形成する. これらから花弁への維管束が分離した後でも, 基本的に同じ管状中心柱状を示し, さらにそれぞれの雄ずいへの維管束群を分離する. その数は
Montrouziera sphaeroidea では7,
M. caulifloraで11,
Moronobea riparia で 4,
M. pataritepuiana ssp.
neblinae で3または4,
Thysanostemonpakaraimaeで4または5,
Symphonia globulifera で3または4とそれぞれの種の雄ずいの数によって一定している. 葯隔の柔組織を走る維管束の排列は基本的にはすべて類似しているが, 種によってはめいりょうな相違を示す.
Montrouziera, Thysanostemon では花弁への維管束が分離した後でも管状に排列した構造を保ち, 葯隔の先端部に移行するにしたがい, ゆるく散開する.
Moronobea は上記のものの変型とみなされ不規則な型の外篩包囲維管束状を示し, 葯隔の先端部に移行すると10-12個の小さな不規則に排列した管束系となる.
Symphonia 属はこれら4属中では最も特殊化したものとみなされ, 雄性花の横?108 Bot. Mag. Tokyo Vol. 78断面に見られるとおり, 3または4個の雄ずいが完全に癒合した形態を示す. また葯隔部も完全に癒合し筒状となり, 横断面でみると環状である. 雄ずいへの維管束は花弁への管束が分離した後, やや不規則な分裂をくり返し, 先端部に進むに従い二列に並立した型となる.ここに記載された4属の植物の束性雄性花の維管束系は Wilson によって報告されたDillenales に属する植物のものと基本的に同じ構造を示し, Mosley, Canright (cf. Eames) らにより観察された Ranalesの
Magnolia, Nymphaea, Nelumbo などの雄性花の維管束系とは対照的な違いを示す. 雄性花の起源は-Wilson らがいうように葯室をもった原始的な二又分枝より由来するものであるか, またらEamesの主張するように葉類より由来するものであるのか, それともまた, 現在未だ化石が発見されていないような形態をもつものを通じていろいろな型を示すものが放散的に分化してきたものであるのか-いずれにせよ今後, 化石および現存する植物の比較解剖学的研究を待たねばなるまい.
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