受聴者がその正中面を壁と平行にして壁の近くに座り,頭部の前を壁に垂直な直線上を壁に接近する移動音を聴くと,音源が壁に接近したときに音像は頭部に沿って曲がって動く。この現象の成因を解明するために,壁に対して垂直に接近する1/3 オクターブ帯域雑音の音像軌跡を測定すると共に,音源から両耳までのインパルス応答を測定し,解析した。その結果,音源が壁に接近したときに音像が頭部に沿って曲がるのは中心周波数が750 Hz以下の帯域雑音だけであった。また,インパルス応答の解析結果からは,この音像知覚現象には,直接波同士による両耳間時間差よりも長い,音源からの直接波と壁からの反射波による両耳間時間差が重要な役割を果たしていることが示唆された。