本論文では,大型擦弦楽器において特定の音高を演奏した際に生じるウルフトーンを技術的に抑圧するための指針を示すため,擦弦条件(弓の速度や圧力の組み合わせ)と発生範囲の関係を数値計算により求めることを目的とする。まず楽器の等価モデルを用いてウルフトーンを再現した後,弓の速度や圧力を網羅的に変化させウルフトーン発生状態マップを作成し,これと実験結果を比較することでモデルの妥当性を検証した。その結果,弓の速度変化によるウルフトーンの周期変化の傾向や,圧力を維持したまま弓の速度を減速することで抑圧されるといった傾向が実験結果と定性的に一致し,本モデルの妥当性が示された。