本稿は風雑音に見られる低周波帯域の相関から,マイクロホンアレイに到来する風の風向と風速を推定し,風向風速計の実現可能性を検討した。まずマイクロホンアレイが収録する風雑音をシミュレーションで作り,風向風速の推定が可能なことを示した。次に三つの近接マイクロホンで扇風機の風雑音を収録し風向風速を推定した。結果,推定値は風向に依存した。そこで推定値と真値の組を用いて誤差の低減を試みた結果,風向の誤差は約6.64°風速の相対誤差は約5.4%まで低減した。また,マイクロホンが収録する周囲の雑音の影響を検討し,風速3.5m/sに対しA騒音レベルが70dB程度の雑音では推定に影響がないことが分かった。
エレクトロパラトグラフィ(EPG)は,調音動態を継時的に測定できる生理学的検査機器の一種である。継時的調音動態の測定方法にはMRIをはじめとして様々な手法があるが,その中でEPGは,侵襲性が少ないこと,測定結果をリアルタイムに視覚化可能であること,可搬性に優れていること,舌縁による側面狭窄が観察可能であるといった利点を持つ。一方で,測定範囲が限られること,動的な調音器官である舌の運動を直接測定することができないといった欠点もある。本稿では,EPGの長所と短所を述べると共に,日本語音声に関する幾つかの例を元に,EPGの利点を活かした研究について簡単な紹介を行う。
音源信号分離は,その幅広い用途により長年にわたり研究されてきた。近年のプロセッサの計算能力の向上に伴い,多様な外乱にさらされる実環境下においても効果的な信号分離を実現するための研究がなされている。古典的なビームフォーミングの後段にウィナーフィルタのようなポストフィルタを適用して信号のスペクトルを操作する方式は,実用上高い効果が得られることが知られている。しかし,ポストフィルタを計算するためには,目的音と雑音のパワースペクトル密度(PSD)を観測信号から推定することが必要である。本稿では,信号源の空間的な特性を利用し,目的音と雑音のPSDを推定する方式について概説する。また,推定したPSDを利用した幾つかの実用的なアプリケーションとその概説的な実験結果を示す。