視覚障がい者だけでなく晴眼者でも聴覚を用いることで,音を発しない物体の存在又は特徴を感じることができるとされている。しかし,その現象又はメカニズムは詳細には明らかになってはいない。本研究では,その能力を探るための第一歩として,ある非発音物体が空間中に存在する状況を設定し,音源から耳までの音響伝達関数をダミーヘッドマイクロホンによって測定し,分析した。非発音物体の有無で音響伝達関数を比較したところ,非発音物体の存在によって,耳の位置での音響特性が変化することが確認された。特に1kHz以上の周波数帯域における,非発音物体の有無でのゲイン変化,非発音物体による反射音などの影響で生じるスペクトルの変調(スペクトルリプル)変化,及び両耳間レベル差の変化は知覚されうる大きさであり,これらが非発音物体の知覚の手がかりとなることが示唆された。また,これらの手がかりは,音源が正面よりも側方に配置されていたときの方が大きいことが示された。
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