適応アルゴリズムを用いてディジタルフィルタ係数の推定を行う場合, 適応アルゴリズムには少ない演算量と優れた収束特性が要求される。その中で, LMSアルゴリズム, 学習同定法などは, 簡潔で実現が容易であるため, 多くの適応処理に用いられている。しかし, これらのアルゴリズムには, 推定時間や推定誤差に影響を与える重要なパラメータであるステップゲインが固定値で扱われているため, 推定時間の短縮と推定誤差の低減を同時に要求できない問題がある。この解決法として, ステップゲインを逐次変化させる可変ステップアルゴリズムがある。ステップゲイン修正法として, 様々な方法が提案されているが, 相関係数と2乗誤差変化量からファジィ制御ステップゲインを修正する方法は, 他の方法に比べ, 推定時間を短縮することが可能であると報告されている。しかしながら, このアルゴリズムでは, ステップゲイン推定に用いる情報に入力信号と残差信号の相関係数と誤差の変化量を利用しており, 系のインパルス応答の特性によっては, インパルス応答の変化が相関係数に反映されず, 推定時間の短縮が図れない欠点がある。本論文では, 2乗残差信号の大きさと, その変化量から, ファジィ制御でステップゲインを修正する学習同定法を提案し, 推定時間の短縮と推定誤差の低減を図る。シミュレーションの結果, 2乗残差信号を用いてファジィ制御でステップゲインを修正することの有効性が示された。特に, 本方法が, インパルス応答の特性に依存せず, 推定時間の短縮を図るのに適していることを確認している。
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