本論文では, 高次高調波成分のみからなる複合音について, スペクトルの構造を様々に変化させた刺激音を用いて音色の類似度に関する実験を行った。その結果から多次元尺度構成法により, 3次元の音色知覚空間を得た。この実験結果と刺激音のスペクトルの関係を明らかにするため, 四つのモデルを仮定して音色知覚空間を表現することを試みた。これらのモデルは, 1)刺激音の物理スペクトルに基づくモデル, 2)刺激音の1/3オクターブバンドレベルに基づくモデル, 3)ヒトの聴覚フィルタを模擬したフィルタ(ROEXフィルタ)の出力に基づくモデル, 及び 4)聴覚フィルタモデル(ROEXフィルタ)に側方抑制を考慮したモデルである。それぞれのモデルから音色知覚空間を算出し, 聴取実験の結果と比較したところ, 聴覚フィルタモデルに側方抑制を考慮したモデルを用いた場合に, 最もよく実験結果に一致した。この結果から, 音色の知覚過程には, 聴覚系のフィルタリング処理, 及び側方抑制が大きく寄与していると考えられる。
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