聴取者が他の雑音に悩まされていらいらすることなく, 関心のある音声信号の聴取に専念できる快適な音環境を実現することは重要である。音声信号と雑音との関係についてはこれまで多くの研究者によって考察されその成果も蓄積されている。これらの研究は例えばマスキング効果や明瞭度特性などのように, 音声の感知と理解といった立場からの, どちらかと言えば, 音声信号の方に考察の力点が置かれたものが多い。我々はこれまで, 上記の研究とは異なった観点から若干の考察を行ってきた。すなわち, 音声聴取時の外来雑音に対する感覚的評価の立場から, 音声信号と外来雑音との関係を, 特に主観量としての心理的側面を加味しながら考察した。具体的には, 音声信号として間断なく話し続けている(いわゆる「間」が短い)連続的な音声を採り上げて, ファジィ理論を用いて聴取者の雑音に対する心理的応答を予測する手法を提案した。本論文はこの研究内容を更に発展させ, ごく自然な(いわゆる「間」が比較的長い)断続的音声を聴取しているとき外来雑音としてこれとは異なる別の異種音声雑音が侵入してきた場合, その雑音に対する心理的応答の予測を試みたものである。予測結果と心理実験による実測データとの比較を行ったところ,「間」の短い連続的音声信号の場合の手法をそのまま適用しても, 理論的予測値と実測値との間のほぼ良い一致が見られた。また, 本論文におけるような短時間スケールでの心理的評価値を予測するためには, 短時区間におけるSN比の分布情報が重要な役割を果たすことが認められた。
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