音場において観測された信号のエコーを除去し, 原音を推定する研究は以前から数多くなされている. しかし音場のインパルス応答が非最小位相系である場合に, 雑音環境下において単一センサにより観測された信号から, 原音を安定に推定することは困難である. 本論文では, すでに前報で提案した反復法によるエコー除去法を拡張し, 原音をオンラインで安定に推定する手法を提案する. 提案する手法は, 周波数領域の反復型エコー除去法を拡張し, 反復を行わず原信号をオンライン推定するものである. 具体的には, 観測雑音が推定信号へ及ぼす影響への対応方法により, 推定精度を重視した手法(a)と, 処理速度を重視した手法(b)の二つを提案している. シミュレーション及び実環境下において収録した音声及び音楽を用いた実験によりその有効性を検討した. SNR=35dBの観測信号から原音の推定を行った結果, 原音に対する観測雑音及びエコーの比は, 手法(a)の場合-4.0dBから13.5dBへ, 手法(b)の場合15.3dBへ回復し, SNR=20dBの場合は9.0dBと6.6dBへ回復した. 手法(b)は計算機への負荷軽減に有効であるが, SNRが低下するに従い手法(a)が有効であることが明らかとなった.
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