ビームフォーミングなどの従来のアレー信号処理による雑音抑圧手法は,位相情報を活用した指向性制御に基づいており,特定方向から到来する雑音に対しては指向性の零点を向けることで高い効果が得られる。しかし,到来方向が特定できないような,いわゆる背景雑音の抑圧は,一般に難しかった。本論文では,伝達関数ゲイン基底NMFにより,遠方から到来する雑音を複数マイクを用いて効果的に抑圧する手法を提案する。提案手法では,背景雑音が遠方から到来することを仮定し,時間周波数領域における振幅情報のみに着目することで,様々な方向から到来する遠方音源を一つの混合音源としてモデル化する。次にこの振幅の混合モデルを従来提案されている制約付き伝達関数ゲイン基底NMFに適用し,遠方音源の抑圧を行う。更に,半教師あり伝達関数ゲイン基底NMFを適用し,遠方音源の抑圧を行う。本手法は振幅情報のみを用いているため,非同期録音機器を用いることができる利点も有する。シミュレーション実験により,様々な方向から到来する複数の遠方音源や移動する遠方音源が,提案手法により効果的に抑圧できることを確認した。
ディジタル信号処理を行うデバイスとしてPC,DSP,FPGA,スマホ(RISC型CPU)など多様化が進んでいる。ここでは特にディジタル信号のリアルタイム制御に着目し,様々なハードウェア・ソフトウェア形態での処理能力や遅延時間を考慮しながら実現した音場共有システムを実例に挙げながら,現在可能なリアルタイム音響信号処理技術の全体像を俯瞰する。