気柱共鳴管に温度勾配をつけ内部の気体を平衡状態から遠ざけていくと,管内の気柱は不安定となり自発的に振動しだす。熱音響自励振動としてよく知られた現象である。本論文では温度勾配のある共鳴管にスピーカのような可動部を取り付けた場合,内部の気柱が自励発振するための温度勾配と周波数を実験的に予測する方法が示されている。従来用いられてきた共鳴管のQ値による手法の妥当性が検証され,共振周波数以外の周波数でもQ値は発振を意味する無限大や負の値をとり,しかもその温度勾配は発振周波数の閾値より小さい領域があることが分かった。実際に観測される発振条件は音響インピーダンスの整合によって決定されることが実験的に示されている。
超音波デバイスの小型化・高出力化に適した圧電材料を探索する目的で,電気的過渡応答法を用いてLiNbO3結晶(LN)の諸特性の振動レベル依存性が測定された。そしてPZT系圧電セラミックスやPb(Mg1/3, Nb2/3)O3電歪セラミックス(PMN)との比較で主に振動損失パワー密度の側面からハイパワー特性が論じられた。その結果LNはPMNやPZTと比較して格段にハイパワー特性に優れていることが明らかにされた。その理由として,LNは結晶構造や強誘電性分域壁の不安定性,また結晶粒界に起因した振動損失が他の材料と比較して無視できる程度に少ないことが挙げられた。
本論文では,時間チャネル領域の非負値行列因子分解(NMF)による,非同期分散型録音の目的音強調手法について述べる。複数の録音機器による多チャネル信号は,機器ごとのサンプリング周波数の微小なずれが引き起こす位相差のドリフトのため,位相情報を用いるアレー信号処理は適さない。位相に比べると振幅の分析はドリフトの影響を大きく受けないことに着目し,戸上らが提案した時間チャネル領域のNMFによるチャネル間ゲイン差の分析(伝達関数ゲイン基底NMF)に基づく時間周波数マスクを用いる。また,基底数よりも十分大きなチャネル数が得られない条件の音声強調のための,基底を事前に学習する教師ありNMFについて議論する。