インドネシア産家畜牛289個体について血液試料が採取され,これらは(1) バリ牛62個体,(2) マズラ牛46個体,(3) グラティ種61個体,(4) フィリアル•オンゴール種55個体,(5) 一般地方種52個体および(6) バリ牛に特徴的な毛色を部分的に示す牛13個体の計6群に分類されて調査された.得られた試料はヘモグロビン型(Hb型),および血清アルブミン型(Alb型)について,電気泳動法により分析された.Hb型表現型にはHb-A,AB,B,AX,BX,およびX,Alb型にはAlb-A,AB,B,ACおよびBCの各型が出現した.Hb-Xはベータ鎖においてHb-AおよびHb-Bと区別されることが証明され,これらの変異が同一遺伝子座によって支配されていると結論された.HbX遺伝子はバリ牛において最も高い頻度(80,65%)で出現した.東南アジアの在来牛集団において,5.7∼20.1%の頻度でHb
X遺伝子が存在することが報告されている.今回調査されたインドネシアの5つの型の牛集団において,Hb
X遺伝子が約3∼23%の頻度で存在した.これらの地域に広く存在するHb
X遺伝子が,バリ牛からのgene-flowによるものであり,バリ牛もゼブ系牛によって,ある程度雑種化されていることが本調査により示唆された.Hb型およびAlb型における各々のインドネシア産家畜牛の遺伝子構成は,それらの来歴に一致していると考えられ,移入されたインド牛品種とともに,バリ牛が東南アジアの牛の成立過程において,無視し得ない一要素となっていると考えられた.
抄録全体を表示