日本畜産学会報
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84 巻, 1 号
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一般論文(原著)
  • 佐々木 修, 相原 光夫, 西浦 明子, 武田 尚人, 佐藤 正寛
    2013 年 84 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2013/02/25
    公開日: 2013/08/25
    ジャーナル フリー
    牛群管理の指標として,環境要因を補正した標準乳量の算出モデルを検討した.2007年∼2009年のホルスタイン種の検定日記録13,119,566件を解析に用いた.標準乳量算出の基準点を,北海道の5月分娩における2産目の分娩後120日目とした.泌乳曲線モデルから算出した期待乳量および期待標準偏差を用いて,検定日乳量を基準点の乳量に補正したものを標準乳量とした.泌乳曲線モデルとして6次のLegendre多項式(L6),および3次から6次までのLegendre多項式とWilminkモデルを組み合わせたモデル式(L3W, L4W, L5W, L6W)の5つを比較した.期待乳量および期待標準偏差のいずれにおいても,L5WおよびL6WのAIC,BICおよび標準誤差が他のモデルよりも小さく,最も適切なモデルと考えられた.標準乳量は農家ごとの平均値を中心として±2.37 kgの範囲に,その90%が含まれることが期待できることから,この値を牛群管理の変化を考えるときの一つの基準にできる.
  • 山崎 武志, 萩谷 功一, 長嶺 慶隆, 武田 尚人, 山口 諭, 曽我部 道彦, 齊藤 祐介, 中川 智史, 富樫 研治, 鈴木 啓一
    2013 年 84 巻 1 号 p. 11-18
    発行日: 2013/02/25
    公開日: 2013/08/25
    ジャーナル フリー
    北海道の初産および2産の牛群検定記録を用い,泌乳ステージごとの日乳量に対する体細胞スコア(SCS)効果を推定する最適なモデルを検討した.SCS効果は分娩後60日以内(前期),61-150日(中期),151-240日(後期)および241-305日(末期)の各泌乳ステージにSCSをクラス化したモデル,およびSCSに対する1次-6次回帰を当てはめたモデルについて,産次別に単形質変量回帰アニマルモデルを使用して検討した.4次以上の回帰を当てはめたモデルの適合度が高かったが,SCSの高い範囲で推定精度が低下したため,クラス化したモデルによる推定が妥当と判断した.SCSの上昇に伴う日乳量の低下量は初産よりも2産のほうが大きく,さらに,泌乳ステージの進行に伴い増加した.日乳量に対するSCS効果の推定値は,初産および2産ともに前-中期,後期および末期で異なるため,それぞれ区分して当てはめることが望ましい.
  • 佐藤 洋一, 米澤 智恵美, 熊谷 光洋, 鈴木 啓一
    2013 年 84 巻 1 号 p. 19-25
    発行日: 2013/02/25
    公開日: 2013/08/25
    ジャーナル フリー
    日本短角種は岩手県などで飼養されている和牛の一品種であるが,近年は生産頭数が減少しており,消費者ニーズに合った改良が急務である.そこで,今後の改良方針を検討するために,近年の枝肉成績と血統の記録を用いて遺伝的パラメータ,遺伝的趨勢,年当り遺伝的改良量を分析した.遺伝率は肉量に関する形質は中程度であったが,肉質に関する形質は低く,脂肪交雑基準は0.14と過去の報告に比べ低い遺伝率であった.近年の遺伝的趨勢は全体的に上昇傾向であるが,ロース芯面積(LMA)とバラの厚さ(RT)は2000年以降停滞していた.年当り遺伝的改良量は,1990年代まではほとんどの形質で増大傾向であったが,2000年以降はLMA, RT, 皮下脂肪厚(SFT)では明確な傾向が認められなかった.各形質の関係は,LMAとしまり,きめが負の遺伝相関を示し,負の改良方向であるSFTが枝肉重量,RTと正の遺伝相関を示すなど複雑であるため,各形質のバランスを重視した改良が必要であると思われた.
  • 佐藤 洋一, 笹子 奈々恵, 上本 吉伸, 長谷部 浩行, 阿部 剛, 安田 潤平, 小林 栄治, 熊谷 光洋, 鈴木 啓一
    2013 年 84 巻 1 号 p. 27-33
    発行日: 2013/02/25
    公開日: 2013/08/25
    ジャーナル フリー
    近年,脂肪酸組成が新たな牛肉の評価形質として注目されている.赤身主体である日本短角種の牛肉中にも一定の脂肪交雑は認められるものの,脂肪酸組成に関する知見は少ない.そのため,日本短角種279頭を材料にSCD, FASN, SREBP-1, GHの各遺伝子型が枝肉皮下脂肪の脂肪酸割合と枝肉形質に与える影響について混合モデルにより解析し,改良指標として検討した.脂肪酸割合の遺伝率は0.39-0.51であり,黒毛和種の報告と同様にC18:2の遺伝率が最も低かった.C14:0,C14:1でFASNSCD, C16:1とC18:1でFASN, C18:0,C18:2,SFA, MUFAでSCDの遺伝子型の有意な効果があった.一方,GH遺伝子型の効果は認められず,SREBP-1は多型が確認できなかった.材料を蓄積して引き続き検証が必要であるものの,相加的遺伝分散に占める1遺伝子型の効果は10-40%とおおむね高い値が推定された.日本短角種においても枝肉中の脂肪酸組成は黒毛和種と同様に遺伝的要因が強く,SCDFASNの遺伝子型が改良マーカーとして活用できることが示唆された.
  • 赤上 正貴, 脇本 亘, 山口 大輔, 渡辺 晃行, 足立 憲隆
    2013 年 84 巻 1 号 p. 35-41
    発行日: 2013/02/25
    公開日: 2013/08/25
    ジャーナル フリー
    アルミプレートガラス化(APV)法によるウシ体外操作胚盤胞の超低温保存法の有効性を検討するとともに移植試験を行った.体内受精胚,OPUもしくは食肉処理場由来の未成熟卵由来の体外受精胚(IVF胚)および胚の一部を切断した体内受精胚(バイオプシー胚)をAPV法ならびに緩慢凍結保存法により超低温保存した.これらの各胚の加温もしくは融解後の生存率を比較したところ,バイオプシー胚で95.0%とAPV法で生存率が高く(P<0.01),IVF胚においても89.2%とAPV法で生存率が高かった(P<0.05).移植試験では,APV法で保存したIVF胚のダイレクト移植により17.4%が受胎したが,ストロー外希釈加温の受胎率(46.7%)に比べて受胎率が低下した(P<0.01).以上より,APV法はウシ体外操作胚の超低温保存法として適していると考えられたが,ダイレクト移植にはストロー内希釈加温方法の改善が求められる.
  • 小渕 智子, 長田 雅宏, 牛島 仁, 小澤 壯行
    2013 年 84 巻 1 号 p. 43-50
    発行日: 2013/02/25
    公開日: 2013/08/25
    ジャーナル フリー
    酪農経営の収益性を規定する要因の1つに繁殖技術があげられるが,その経済的価値は酪農家に要され営農の場で利用された時に初めて生じる.本研究は性判別受精卵の利用を希望する酪農家層の経営特性および技術普及に必要な諸条件を明らかにすることを目的に,アンケートと聞き取り調査を実施した.これらの結果から性判別受精卵を「利用したい」,「既に利用している」と回答した酪農家は①多頭飼養,②後継者を確保,③性判別精液または受精卵移植の利用率が高い特性を有していた.したがって「性判別受精卵の利用に積極的な酪農家層」は「今後も酪農を永続させるため優良な後継牛の確保や牛群改良を志向し,先進技術の導入や利用に積極的な酪農家層」と推察される.また①繁殖技術の向上,②受精卵の価値に適した価格の設定,③酪農経営への収益性を明確化,④各種研究機関や育成牧場などによる利用推進の働きかけが利用普及に必要な諸要件として示唆された.
  • 水間 恵, 岡村 俊宏, 鈴木 英作, 須田 義人, 平山 琢二, 小川 智子, 鈴木 啓一
    2013 年 84 巻 1 号 p. 51-57
    発行日: 2013/02/25
    公開日: 2013/08/25
    ジャーナル フリー
    海藻と海苔の飼料添加給与がブタの免疫能に及ぼす影響を検討した.試験1では,体重20 kgのランドレース種去勢雄20頭を半数ずつ対照区と試験区に分けて群飼し,試験区には海藻を0.8%添加した飼料を給与した.試験開始時(0日),羊赤血球(SRBC)の一次(21日)と二次接種時(28日),その翌日(29日),さらにその一週間後(35日)に採血と唾液を採取し,免疫能を測定した. SRBC二次接種の翌日,食細胞活性は両区とも低下したが海藻区が有意に高かった(P<0.05).SRBC二次接種後,唾液中IgA濃度は海藻区が対照区と比べ有意に高い値(P<0.01)を示し,SRBC特異的IgG濃度も海藻区の値が高かったが有意差は認められなかった.試験2では肥育後期のブタに海苔を2.0%飼料添加し,各免疫形質について対照区と比較したが,いずれの免疫形質についても海苔添加の有意な効果は認められなかった.
  • 高橋 俊浩, 大中 望, 堀之内 正次郎, 岩切 正芳, 入江 正和
    2013 年 84 巻 1 号 p. 59-66
    発行日: 2013/02/25
    公開日: 2013/08/25
    ジャーナル フリー
    パン主体エコフィードによる脂肪交雑豚肉生産法を検討した.LWD交雑豚40頭を対照区とパン利用でタンパク質含量(高16.3%,低12.9%)とリジン含量(中0.55%,低0.43%)を組合せた4試験区に割当てた.体重約70 kgから試験を開始し105 kg到達時点で発育と肉質を調査した.試験期間は低タンパク・低リジン試験区で対照区より延長した.肉色,脂肪色に大きな変化はなく,試験区のマーブリング,筋内粗脂肪含量は対照区より高かった.筋内脂肪含量に対し飼料中リジン含量の主効果は有意で,タンパク質×リジン含量の交互作用が見られ,リジン/タンパク比率が低ければ高タンパクや中リジンでも脂肪交雑豚肉が作出できた.脂肪の融点に有意な影響は見られず,試験区ではC18:1含量が増加し,C18:2含量が低下した.以上からパン多給型脂肪交雑豚肉の機序は,低タンパク質ではなくリジン含量が影響し,特にリジン/タンパク質比率が重要であった.
  • 中川 靖浩, 大石 風人, 前野 宏倫, 平野 幹典, 吉岡 正行, 熊谷 元, 飛岡 久弥, 広岡 博之
    2013 年 84 巻 1 号 p. 67-76
    発行日: 2013/02/25
    公開日: 2013/08/25
    ジャーナル フリー
    放牧牛の心拍数(HR)と行動データを数日間,継続的に測定して,GPSによる移動情報から推定したエネルギー消費量(EEGPS)と従来のHRを用いて推定したエネルギー消費量(EEHR)とを比較した.放牧牛の首にGPS, 脚部にIceTagTM Sensor, 胸に心拍計を装着し,歩行速度,移動傾斜角度,歩数,佇立時間,HRを取得し,また気象庁より気温データを収集した. EEGPS の推定には歩行速度と移動傾斜角度を用い,EEHR の推定にはHRを用いた.その結果EEGPS とEEHR は,それぞれ518∼546,667∼867(kJ/BW0.75・日)であり,EEGPS とEEHR の相関係数は0.412∼0.646と中程度であった.また,放牧時にEEHR に影響を与える主要因は歩数,気温,佇立時間である一方,EEGPS には歩行以外の要因によるエネルギー消費量の変化が反映されないことが示された.
技術報告
  • 阿部 啓之, 矢ヶ部 陽子, 甘利 雅拡
    2013 年 84 巻 1 号 p. 77-80
    発行日: 2013/02/25
    公開日: 2013/08/25
    ジャーナル フリー
    近赤外分光分析法による非破壊的な鶏卵中のコレステロール測定法を検討した.酵素法を使って測定した卵黄中のコレステロール分析値と,近赤外分光分析装置を用いて得た可視光線領域から近赤外領域(400∼1100 nm)の近赤外スペクトルデータの1次微分の値を使いPLS(Partial least square)回帰分析法で検量線を作成し,クロスバリデーション法で推定を行った.卵黄100 gあたりのコレステロール含有量(mg/100 g卵黄)および鶏卵1個あたりのコレステロール量(mg/鶏卵)ともに近赤外分析法における精度の指標となるRPD(Ratio of standard deviation of reference data in prediction sample set to standard error of prediction)値が3.0を上回り,非破壊的に鶏卵に含まれるコレステロールが高精度スクリーニングレベルで推定可能であることがわかった.
  • 髙山 耕二, 吉田 美代, 石井 大介, 廣瀬 潤, 大島 一郎, 赤井 克己, 中西 良孝
    2013 年 84 巻 1 号 p. 81-88
    発行日: 2013/02/25
    公開日: 2013/08/25
    ジャーナル フリー
    採草地におけるシカ侵入防止法を確立するために,3段および4段張り電気柵(以下,3WFおよび4WF)を提示した場合の飼育シカの行動反応を解明し,採草地での野生シカに対する侵入防止効果を比較検討した.1)24時間絶食させたシカと飼槽を隔てる形で4WF(高さ140 cm)を設置した.シカは試験開始直後に口唇で30および60 cmの電線に接触し,感電により60∼100 cmの電線間に向かって飛び込み,飼槽側に侵入したものの,忌避学習成立後の侵入は皆無であった.一方,3WF (高さ100 cm)に対し,シカは最上段の電線を飛び越え,飼槽側に侵入した.2)採草地では,4WFを設置した区(1 ha)ではシカの侵入が皆無であったのに対し,3WFを設置した区(1 ha)へのシカ侵入頭数が多く,植物現存量は後者に比べ前者で有意に高い値を示した(P<0.05).以上より, 4WFは3WFに比べ高い侵入防止効果を示し,とくに140 cmの高さに張った電線は飛び越えによる侵入を防ぐ視覚的な効果を持つ可能性が示された.
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