家畜個体の内在性原因に由来する低受胎性(早期胚死亡を含む)および早期流産に関する問題点は遂次解明されているが,現在なお未解決の問題が少なくない.牛において,受精卵(胚)の死亡の54%~65%は妊娠の第34日までに生ずる28).HAWKら14)はさらに詳細に調査し,胚死亡の52%は妊娠の16日から34日の間に発現することを明らかにした.この他,胎児死亡率が妊娠の初期(妊娠のおよそ第1月と第2月)に高いことを示す多くの実績が示されている.
胚が子宮に附着する時期について,個々の結果は幅広く変動し,第12日から第3月に及んでいる.子宮腔に浮遊して生存するblastocystにとって,栄養供給の良否は着床の成立およびその後の発育を支配する重大な要因である.従って,この時期は胎児の生存と発育に対するcritical periodであろうと考えられる.
WINTERSら32)によれば,牛の受精卵は交尾後第5日に32-細胞期の段階で子宮に到着し,13日14時間で子宮壁に軽く附着する.一方,KINGMAN17)は妊娠の50日から90日の期間を着床の時期と考えた.牛において,妊娠の16日から33日の間は胎児自身にとって急速な発育と分化の時期であるだけでなく,同様にextraembryonicmembraneにとっても発育と分化の重要な時期で,ここを無事に経過しないと着床の遅滞を引き起すといわれる10).
妊娠中の胎児に対する栄養(embryotrophe)供給の機構についてはGROSSER11)およびAMOROSO1)によって体系づけられている.胎盤が確立されるまでの期間の胎児にとって組織栄養(histotrophe)は唯一の供給源である.組織栄養はさらに,内膜組織から産生された物質(histopoietic material)と内膜組織の崩解に由来する物質(histolytic material)とに大別される.牛胎盤に関して多数の形態学的研究が今日までに報告されているが,ここに述べた観点からparaplacentaの形態と意義を論じたものは少ない.
妊娠の進行とともに胎児は発育し,同時にconceptusの形は変化する.GILLESPIEら9)およびREYNOLDS25)はconceptusに対する子宮の適応機構を報告した.適応は胎児への栄養を効果的に供給することを目的とするもので,血管系の再編成をも包括する大規模な過程である.子宮の適応はすべての動物について認められると示唆されているが,その様式ならびに出現の時期は個々の動物種に固有のものであろうといわれる25).
著者らは上述の問題点に留意しながら和牛における胎盤形成の意義を明らかにするため表記の研究を行なった.ここに,第I報として妊娠中の子宮小丘間領域の粘膜(子宮腺については第II報に報告予定)について得られた成果を発表する.
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