日本畜産学会報
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94 巻, 2 号
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総説
  • 今田 彩音
    2023 年 94 巻 2 号 p. 125-132
    発行日: 2023/05/25
    公開日: 2023/06/16
    ジャーナル フリー

    ブタの生存産子数を効率的に改良する手法として,まず,生存産子数に適した遺伝的パラメーター推定モデルについて検討した.生存産子数では,異なる産次間における遺伝相関は1より小さい値が報告されている.そこで,初産と2産以降の生存産子数を遺伝的に異なる形質とした2形質モデルについて検討した.次に,生存産子数と遺伝的関連性の高い形質を選抜指標とする方法について検討した.初産と2産以降を異なる形質とした遺伝的パラメーターの推定モデルを用いると,両形質に共通な永続的環境効果により相加的遺伝分散や永続的環境分散の推定値は偏ると考えられた.また,生存産子数との遺伝的関連性を調べ,生存産子数の選抜指標となる形質について検討した結果,分娩時繁殖形質については一腹総体重の利用が考えられた.乳頭数については,雌系純粋種では利用可能性は限定的であるが,雄系純粋種では利用可能性があると考えられた.

  • 川口 芙岐
    2023 年 94 巻 2 号 p. 133-141
    発行日: 2023/05/25
    公開日: 2023/06/16
    ジャーナル フリー

    黒毛和種の筋肉内脂肪における脂肪酸組成は牛肉の柔らかさや風味に影響する重要な要因の一つである.その遺伝的育種改良に向けた選抜マーカーの開発が進められており,SCDFASN遺伝子内には責任多型として有力な多型が同定されている.一方で,脂肪酸組成を制御するその他の遺伝子について,多くは依然として未解明なままである.そこで筆者らは多型網羅的な手法を中心に,いくつかのQTL領域および候補多型を検出してきた.しかしながら黒毛和種においては近交度が高まっていることから多型間の連鎖不平衡が強く,統計解析によって脂肪酸組成に非常に似た効果を示す多型が多い.このことから責任多型を特定するのは容易ではない.今後は,in vitroおよびin vivoによる検証を進めることで多型の分子的な作用機序について明らかにし,責任多型の特定を進めることで選抜マーカーの実用化を推進することが重要であると考えられる.

  • 杜 珠梅, 蔡 義民
    2023 年 94 巻 2 号 p. 143-160
    発行日: 2023/05/25
    公開日: 2023/06/16
    ジャーナル フリー

    熱帯・亜熱帯地域においては,乾季における飼料不足が,家畜生産を制限する大きな要因となっている.アフリカで生産された作物副産物の潜在量は膨大であるにも関わらず,サイレージとしての飼料調製は進まず,引き続き飼料不足が問題であり続けている.我々はアフリカで毎年多量に生産される各種作物副産物や牧草のサイレージの発酵への影響要因を解析し,微生物製剤の添加処理により高品質の調製技術を確立した.また牧草や作物副産物などの地域飼料資源を利用して調製した発酵TMR(Total Mixed Ration,混合飼料)は,乳牛の採食量,乾物消化率,乳量および収益性を改善した.さらに木本植物の共生微生物ネットワークと発酵メカニズムの複合関係や,微生物群集構造と代謝物との相互作用に対する各種添加剤の影響を探求することにより,サイレージの発酵制御につながる基礎的で重要な知見を明らかにした.これらの一連研究は,熱帯・亜熱帯地域における持続的畜産業を構築するための基礎および応用研究として貢献するものである.

  • 佐藤 元映
    2023 年 94 巻 2 号 p. 161-168
    発行日: 2023/05/25
    公開日: 2023/06/16
    ジャーナル フリー

    近年,反芻家畜の生産において「人間の食料と飼料との競合」や「ルーメン由来のメタンの排出」が問題となっている.これらの課題の解決は,持続可能な畜産を実現するために必要不可欠である.本総説ではその解決策の一つとして考えられる,食品製造副産物の飼料化やメタン抑制効果のある飼料について概説をした.食品製造副産物は高い栄養価を含むものが多く,家畜飼料として有用である.さらに,食品製造副産物の利用は廃棄する予定だった大量の副産物を再利用することができるため,廃棄にかかる処理費の削減や,環境負荷の軽減にもつながる.メタン抑制効果のある飼料として油脂や脂肪酸の給与は有用であり,様々な研究が行われている.ただし,ルーメン微生物叢へ影響を及ぼすため,メタン低減と同時に生産性へ影響してしまう可能性もあり,給与量や脂肪酸の種類などに注意して利用しなければならない.

  • 広岡 博之, 三輪 雅史, 兒嶋 朋貴
    2023 年 94 巻 2 号 p. 169-183
    発行日: 2023/05/25
    公開日: 2023/06/16
    ジャーナル フリー

    システムアプローチは,複雑な動物生産システムに対してモデル開発の段階で重要な要因とその関係を統合し,シミュレーションによって予測と政策提言を行うために用いられてきた.他方,精密畜産(スマート畜産)はこの20年間に発展し,センシング技術などを用いて家畜生産の定量化と予測を行うことに用いられてきた.本総説では,畜産学におけるこれら2つのアプローチを統合して用いることの可能性を述べることを目的とし,例としてGPS首輪や加速度センサから得られるセンシングデータを用いた放牧家畜におけるエネルギー消費量の推定法とその利用について説明することとする.このようなシステムアプローチと精密畜産のアプローチの統合は畜産学に新しい知見と将来の成果をもたらすと期待できる.

一般論文(原著)
  • 造田 篤, 香川 梨乃, 大日方 塁, 浦川 真実, 大野 喜雄, 小川 伸一郎, 上本 吉伸, 佐藤 正寛
    2023 年 94 巻 2 号 p. 185-191
    発行日: 2023/05/25
    公開日: 2023/06/16
    ジャーナル フリー

    黒毛和種雌牛における採卵性形質と体型審査形質の遺伝相関を推定し,採卵性形質に関する育種価の多形質モデル評価における体型審査形質の有用性について検討した.2008年から2018年に雌牛1,532頭から収集された19,155回分の総回収卵数および高品質胚数の記録ならびに2014年以降に審査された雌牛372頭に関する体型審査記録を分析に用いた.遺伝率および遺伝相関の推定には単形質および2形質アニマルモデルREML法を用いた.体尺測定項目および審査形質のうち体積項目では中程度以上の,種牛性に関わる項目では低い遺伝率が推定された.いくつかの体型審査形質では,採卵性形質との間に好ましい遺伝相関が推定されたが標準誤差は大きかった.多形質モデル評価に関する数値シミュレーションから,採卵性形質の遺伝的改良には,遺伝率が中程度以上かつ採卵性形質との遺伝相関の絶対値が大きい補助形質が有効であると推察された.

  • 小川 伸一郎, 岡村 俊宏, 福澤 陽生, 西尾 元秀, 石井 和雄, 木全 誠, 富山 雅光, 佐藤 正寛
    2023 年 94 巻 2 号 p. 193-198
    発行日: 2023/05/25
    公開日: 2023/06/16
    ジャーナル フリー

    暑熱負荷の頑健なモデリングを目指し,2007年から2022年の間に得られたブタランドレース種10,320頭の分娩成績52,668件を対象に,気象庁気温データを用いたプラトー線形折れ線回帰分析を行い,分割点である閾値気温を探索した.対象形質は,分娩時の一腹総産子数(TNB),生存産子数(NBA),死産子豚数(NSB),総産子体重(LWB),平均産子体重(MWB)および産子生存率(SVB)である.TNB,NBA,LWBは種付日,NSB,MWBおよびSVBは分娩日最高気温を用いた.10.0°Cから25.0°Cまで0.1°C刻みで閾値気温を変えたとき,モデルの決定係数が最大となったのは,TNB,NBA,NSB,LWB,MWB,SVBでそれぞれ17.7°C,16.6°C,22.9°C,17.1°C,10.0°C,22.9°Cであった.本結果は,気象データを活用したブタ育種価評価法の開発において有用と期待される.

  • 安部 亜津子, 森 愛華, 桑原 賢治, 渡邊 源哉, 佐々木 啓介
    2023 年 94 巻 2 号 p. 199-207
    発行日: 2023/05/25
    公開日: 2023/06/16
    ジャーナル フリー

    一般消費者の鶏肉に対する「好ましさ」および「地鶏らしさ」の認識に寄与する香り,食感および味に関する特性を明らかにするため,肉団子モデルでの嗜好型官能評価を行った.地鶏2鶏種とブロイラーのムネ肉およびモモ肉のミンチを直径3.5 cm×厚さ1 cmの円盤状に成型し,焼き調理したサンプルを,34名の訓練と選抜を施さない一般パネルに評価させた.「全体の好ましさ」は,鶏種によらずムネ肉の方がモモ肉よりも低かった(P<0.05).「地鶏らしさ」では鶏種および部位による効果が認められ(P<0.05),モモ肉の評点はムネ肉に比べて高く(P<0.05),地鶏のモモ肉は一般パネルに地鶏らしいと認識されることが示唆された.嗜好調査と同時にCATA法を実施することで,鶏肉の「好ましさ」を低下させる因子(香り2語,食感1語,味1語)や,「地鶏らしさ」を特徴付ける因子(香り2語,食感3語,味2語)の候補が得られた.

  • 山根 百合奈, 瀬尾 哲也
    2023 年 94 巻 2 号 p. 209-218
    発行日: 2023/05/25
    公開日: 2023/06/16
    ジャーナル フリー

    北海道内10農場で農場のアニマルウェルフェアスコアと乳牛1頭あたりの年間疾病治療件数および家畜共済掛金との相関関係を調べた.アニマルウェルフェア評価には動物,施設および管理ベースから成る評価法を用いた.各ベースのスコアと評価法全体の総スコアとして,それぞれの基準を満たした評価項目の割合を算出した.総スコアは第四胃変位,卵胞嚢腫,乳熱および関節炎の治療件数と負の相関傾向を示した.動物スコアは第四胃右方変位および産褥熱と,施設スコアは第四胃右方変位および乳熱と,管理スコアは第四胃右方変位および関節炎の治療件数との間にそれぞれ有意な負の相関関係を示した.搾乳牛および育成乳牛の死亡廃用共済掛金は総スコアと負の傾向傾向を示した.以上の結果からアニマルウェルフェアレベルを高めることで乳牛の健康を増進できる可能性が示唆された.疾病を予防することで健康問題による生産性低下や経済的損失の抑制が期待される.

技術報告
  • 舩津 保浩, 西岡 優菜, 前田 尚之, 田中 彰, 吉川 修司, 早坂 浩史, 栃原 孝志, 竹田 保之
    2023 年 94 巻 2 号 p. 219-229
    発行日: 2023/05/25
    公開日: 2023/06/16
    ジャーナル フリー

    鶏挽肉に食塩,米麹,水および酵素剤を混合後,加熱タイプと非加熱タイプ(UCW)のチーズホエイ(CW)と醤油用酵母(SSY)接種の有無が異なる計8 種類のもろみを調製し,35°Cで24 週間発酵させた.発酵中のもろみと火入れ・ろ過後の最終製品の物理化学的性状,最終製品の呈味成分および味覚センサによる呈味性の評価(MTS)を行った.その結果,CWを利用した鶏肉発酵調味料(CW-CFS)では発酵中にもろみのL*値やpH 値は低下し,b*値や全窒素分は増加した.これらの傾向はUCW 使用区で顕著であった.遊離アミノ酸や有機酸総量はうま味と正の相関が認められた.MTS データの主成分分析バイプロットからCW発酵調味料(CWFS),CFS,CW-CFSでの味の識別が可能となった.SSY接種により,試料間でうま味,原料由来の苦み,酸味および塩味に差異を生じた.

  • 椎葉 湧一朗, 松島 憲一, 竹田 謙一
    2023 年 94 巻 2 号 p. 231-234
    発行日: 2023/05/25
    公開日: 2023/06/16
    ジャーナル フリー

    海外でカプサイシンは,シカ科動物の農林業被害対策の一つとして利用されている.本研究では,3つの濃度に調整したカプサイシン溶液を発芽後の牧草に噴霧し,牧草の初期成長に及ぼす影響を調べた.オーチャードグラス(Dactylis glomerate L.)およびチモシー(Phleum pratense L.)を用いて,1000 µM,3000 µM,5000 µMの濃度のカプサイシン処理区,エタノール処理区および水のみの対照区において,それぞれの草丈および相対乾物重量比率を算出し,カプサイシンが牧草の生育に及ぼす影響を調べた.草丈は,両品種において3000 µM区および5000 µM区で他処理区と比較して有意に減少した(P<0.05).相対乾物重量比率は,両品種ともに3000 µM区および5000 µM区で,対照区,エタノール区および1000 µM区と比較して有意に減少した(P<0.05).以上のことから,獣害対策として有効濃度と考えられる3000 µM以上のカプサイシン溶液噴霧は牧草の初期成長を抑制することが明らかとなった.

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