日本畜産学会報
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89 巻, 3 号
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一般論文(原著)
  • 山中 颯, 笹崎 晋史, Hla Hla MOE, Moe LWIN, 下桐 猛, 万年 英之
    2018 年 89 巻 3 号 p. 313-321
    発行日: 2018/08/25
    公開日: 2018/09/22
    ジャーナル フリー

    本研究では家畜ウシにおけるIndelマーカーの開発を試み,家畜ウシ集団に対する遺伝的構造や類縁関係,遺伝的多様性の調査を目的とした.各常染色体から29 Indelを選出し遺伝子型判定を実施した結果,26 IndelにおいてPCR増幅と多型が認められた.そのうち8 Indelマーカーを選択し,家畜ウシ11集団を用いた解析を実施した.多様性指標の結果では,Bos taurusよりもBos indicusの方が低い値を示した.系統樹や主成分分析の結果では,2亜種で系統が明確に分離した.STRUCTURE解析では,K=4のとき最尤推定値を示し,K≧5ではカザフスタンとモンゴル在来牛が,複数の祖先系統に由来する遺伝構造を形成していた.以上より,開発したIndelマーカーを用いた本研究結果では,地域や気候,亜種や品種に基づいた結果が得られ,ウシにおけるIndelマーカーの有効性が示された.

  • 多治見 弘史, 安田 紗紀江, 大村 生和子, 尾池 紹子, 山崎 承美, 松葉 捺見, 鈴木 亜由美, 岡田 幸之助, 牛島 仁
    2018 年 89 巻 3 号 p. 323-328
    発行日: 2018/08/25
    公開日: 2018/09/22
    ジャーナル フリー

    生産現場でウシ胚のガラス化保存の利用性を高めることを目的に,ガラス化処理条件の検討と移植試験を実施した.実験1では,複数の胚をまとめて処理するため,15%(v/v)凍結保護物質からなる平衡液への浸漬時間を検討した.実験2では,凍結保護物質をストロー内で1段階希釈するためのシュクロース浸漬条件を検討した.上記条件を用いて,ガラス化-加温した生体回収胚の受胎率をダイレクト凍結胚や,非凍結胚のそれらと比較した(実験3).その結果,平衡液に25-30分浸漬してもガラス化胚の生存性は低下せず,0.3mol/Lシュクロースの加温液に30分浸漬してもガラス化胚の生存性は保持された.ダイレクト凍結したCode 1.5-2胚の受胎率は有意(P<0.01)に低下したが,ガラス化胚の受胎率は非凍結胚のそれと同等であったことから,最少容量ガラス化法の平衡時間とストロー内1段階処理の改変が可能で,凍結耐性が低い胚の保存方法として生産現場で利用可能と考えられる.

  • 安部 亜津子, 成相 伸久, 入江 正和, 髙野 彰文, 荒川 泰卓, 小櫃 剛人
    2018 年 89 巻 3 号 p. 329-337
    発行日: 2018/08/25
    公開日: 2018/09/22
    ジャーナル フリー

    黒毛和種24ヵ月齢出荷牛の枝肉成績向上を目的として,肥育前期のバイパスタンパク質補給が肥育成績に及ぼす影響を調査した.8から13ヵ月齢までバイパスタンパク質飼料(粗タンパク質として214 g/日)を補給する補給区(4頭)と,補給しない対照区(4頭)に区分し,6から24ヵ月齢まで肥育した.日増体重はバイパスタンパク質飼料補給期で補給区(1.23kg)が対照区(1.04kg)と比べて高く(P<0.05),全期間でも補給区の方が高い傾向にあった(P=0.06).枝肉成績では,歩留基準値が補給区で高い傾向にあった(P=0.08).BMS No., 締まり,胸最長筋の水分含量および保水性には両区に有意差はなく,慣行(28ヵ月齢出荷)と比較しても遜色はなかった.以上から,黒毛和種去勢牛に対し肥育前期にバイパスタンパク質を補給することで6ヵ月齢開始,24ヵ月齢出荷での肥育成績が向上する可能性が示された.

  • 福田 智歩, 谷本 智里, 野呂 聡美, 村元 隆行
    2018 年 89 巻 3 号 p. 339-344
    発行日: 2018/08/25
    公開日: 2018/09/22
    ジャーナル フリー

    塩漬された日本短角種去勢牛(8頭)の6筋肉間において理化学特性およびテクスチャー特性の比較を行った.塩漬は100gの筋肉サンプルに6gのNaClを添加して3日間行った.テクスチャーの測定は表面から5mmで行った.メトミオグロビン割合およびa*値の測定は表面,表面から5mm(浅部),および表面から25mm(深部)で行った.また,粗脂肪含量とドリップロスの測定を行った.半膜様筋のガム性荷重は塩漬後が有意に高かった.塩漬後の表面のa*値は外側広筋が棘下筋に比較して有意に低かった.塩漬後の浅部のa*値は腓腹筋が上腕三頭筋,棘下筋,半膜様筋,半腱様筋,および半腱様筋に比較して有意に低かった.塩漬後の深部のa*値は腓腹筋が他の筋肉に比較して有意に低く,また上腕三頭筋,外側広筋,半膜様筋,および半腱様筋が棘下筋に比較して有意に低かった.ドリップロスは棘下筋および腓腹筋が外側広筋,半膜様筋,および半腱様筋に比較して有意に低かった.

  • 戸澤 あきつ, 小倉 振一郎, 中井 裕
    2018 年 89 巻 3 号 p. 345-355
    発行日: 2018/08/25
    公開日: 2018/09/22
    ジャーナル フリー

    国内の小規模酪農家の福祉レベルの現状を把握し,改善点を検討するため,宮城県内のタイストール3戸(19-28頭/戸),フリーストール2戸(30-63頭/戸)において,EUの評価法であるWelfare Quality® Assessment protocolによる福祉性評価,個体維持行動およびバルク乳成分を調査した.福祉性総合評価は「可」(4戸)と「不可」(タイストール1戸)であった.農家間の違いは飼育形態によらず「休息場所の快適性」(0-44.5点),「ヒトとの良好な関係性」(27.0-71.7点),および「正の情動の発現」(20.8-82.5点)に認められた.摂食行動発現時間割合は12.1-28.5%と農家間で異なり,低い農家ではバルク乳の乳中尿素態窒素含量が低かった.以上より,わが国の小規模酪農家の福祉レベルは飼育形態によらずEUの評価法をほぼ満たしていたが,さらなる向上には,休息場所の快適性向上,管理者との親和関係構築,正の情動発現促進および適切な給餌による摂食行動の発現が有効と考えられた.

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