日本畜産学会報
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92 巻, 1 号
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総説
  • 入江 正和
    2021 年 92 巻 1 号 p. 1-16
    発行日: 2021/02/25
    公開日: 2021/04/03
    ジャーナル フリー

    和牛では脂肪交雑の改良が進み,脂肪質が注目されようになり,食味に対する研究も進んできたためとりまとめた.和牛脂肪はオレイン酸など一価不飽和脂肪酸含量が高く,融点が低い.脂肪質評価法ではわが国の食肉市場において非破壊で迅速な携帯型近赤外光ファイバ法の応用が進み,和牛の育種改良や銘柄化に応用されている.官能検査では和牛やWagyu肉は,多汁性,やわらかさ,風味の全ての食味性で優れ,消費者の嗜好性も高い.脂肪融点の低さは,舌触りの良さと多汁性の高さに関係する.遊離したオレイン酸,リノール酸は舌に脂肪味を感じさせる第六の呈味物質として注目され,甘味,うま味も刺激する.多価不飽和脂肪酸は酸化臭の原因になる一方で,遊離一価不飽和脂肪酸と共に,甘い香りのラクトンや脂っぽい香りのアルデヒド等の前駆物質となる.以上から和牛肉で脂肪質は,食感,多汁性,風味のすべての食味性に影響する重要な形質である.

  • 吉田 悠太, 川端 二功, 西村 正太郎, 田畑 正志
    2021 年 92 巻 1 号 p. 17-23
    発行日: 2021/02/25
    公開日: 2021/04/03
    ジャーナル フリー

    味覚は,動物の摂食行動を制御する重要な化学感覚である.産業動物の味覚受容機構を明らかにすることで,産業動物の味覚嗜好性に基づいた飼料設計が可能になると考えられる.これまでに我々は,重要な産業動物であるニワトリの味覚受容機構に関する研究を実施してきた.本稿では,これまでのニワトリの味覚研究について概説した後,ニワトリのうま味受容に関する最近の知見をまとめた.一連の研究において,ニワトリがうま味成分に対して味覚感受性を有していること,ならびにニワトリの味蕾においてうま味受容体が発現していることが明らかとなってきている.これらの研究から,ニワトリ飼料の設計においてうま味が重要である可能性が味覚受容の観点から示されている.

  • 小宮 佑介
    2021 年 92 巻 1 号 p. 25-33
    発行日: 2021/02/25
    公開日: 2021/04/03
    ジャーナル フリー

    骨格筋を構成する筋線維は異なる性質を示す遅筋タイプと速筋タイプに大別される.遅筋タイプはミトコンドリアに富み,酸化能力に長け,抗疲労性を示す.食肉においては遅筋タイプの割合が高まると,テクスチャー改善,機能性成分の増加,呈味性向上などにつながる.これまで後天的な遅筋タイプの増加は運動トレーニングによってのみ生じると考えられていた.我々はオレイン酸を骨格筋細胞に作用させると遅筋タイプマーカー,酸化系代謝関連因子の発現量およびミトコンドリア量が有意に増加することを明らかにした.さらにオレイン酸を含む飼料をマウスに4週間給餌すると,遅筋タイプマーカーの発現量が増加し,走行持久力が向上した.この他にも魚油,ヤマブシタケおよびリンゴポリフェノールによって,骨格筋特性が変化することを明らかにした.これらの成果は,栄養学的制御によって骨格筋特性を改変できることを示している.

一般論文(原著)
  • 矢崎 夏実, 上本 吉伸, 小川 伸一郎, 佐藤 正寛
    2021 年 92 巻 1 号 p. 35-39
    発行日: 2021/02/25
    公開日: 2021/04/03
    ジャーナル フリー

    分母および分子の形質(構成形質)で構成された比の形質を対象に,比の形質を一定に保ちつつ構成形質を改良する制限付き選抜法について,乳脂率を例に検討した.モンテ・カルロ法によるコンピュータシミュレーションにより乳量および乳脂量相当のデータを発生させた.このデータから遺伝的パラメーターを推定し,選抜シミュレーションに用いた.選抜における相対希望改良量は,①乳量および乳脂量を1 : 0.038,②乳量および乳脂率を1 : 0,③乳脂量および乳脂率を1 : 0の3通りとした.乳脂率が最も変化しなかった選抜法は①であった.②および③では,構成形質の遺伝的改良量の比が3.8%よりも相対希望改良量を設定した構成形質(選抜形質)を改良する方向に偏った.以上の結果から,比の形質を一定に保ちつつ構成形質を改良する制限付き選抜では,比の形質ではなくその構成形質を選抜形質に用いるべきであることが示唆された.

  • 小松 智彦, 庄司 則章, 遠藤 秀雄, 鈴木 啓一
    2021 年 92 巻 1 号 p. 41-45
    発行日: 2021/02/25
    公開日: 2021/04/03
    ジャーナル フリー

    黒毛和種肥育牛1,095頭の枝肉の第6-7肋骨間切開面における筋間脂肪の脂肪酸組成について,携帯型の近赤外分光分析装置による方法(NIR法)とガスクロマトグラフ法(GC法)による測定を行った.遺伝的パラメータを推定したところ,NIR法とGC法での表型相関は高く(0.76~0.81),遺伝相関も高かった(0.92~0.97).遺伝率推定値は,GC法(0.64~0.71)の方が,NIR法(0.39~0.45)より高く,育種改良の選抜形質としては,GC測定値の方が正確度は高かった.調査牛の父にあたる種雄牛121頭の脂肪酸の推定育種価はGC法とNIR法で高い正の相関を示した.

  • 泉 賢一, 清水 史哉, 阿部 信介
    2021 年 92 巻 1 号 p. 47-54
    発行日: 2021/02/25
    公開日: 2021/04/03
    ジャーナル フリー

    乾物摂取量(DMI)と粗濃比の違いが第一胃(ルーメン)反復圧迫法で測定した育成乳牛のルーメンマットスコア(RMS)とルーメン発酵性状および反芻活動との関連に及ぼす影響について検討した.育成牛12頭を粗飼料主体飽食の100%区,DMIを6割に制限した60%区および濃厚飼料多給で飽食のCONC区に配置した.反芻時間は100%区が最も長かった.RMSは給与直前(0h)と7時間後(7h)において100%区が60%区より高く(P<0.05),CONC区は両区の中間であった.給与3時間後と7hにおいてCONC区は100%区よりもルーメン内のpHが低く(P<0.01),総VFA, プロピオン酸および酪酸濃度が高かった.RMS 0hと反芻時間に正の関係が認められた(R2=0.672;P=0.002).以上から,本法によって育成牛のルーメン充満度を推測可能であると考えられた.

  • 柳 雄太, 横尾 美幸, 竹内 幸成, 神山 智敬, 石川 翔, 生田 健太郎
    2021 年 92 巻 1 号 p. 55-61
    発行日: 2021/02/25
    公開日: 2021/04/03
    ジャーナル フリー

    乾燥豆腐粕の給与が生乳の異常風味である自発性酸化臭(SOF)発生に及ぼす影響について検討を行った.泌乳中後期の搾乳牛10頭を供試し,乾燥豆腐粕を乾物中15%給与する試験区と給与しない対照区を設けた飼養試験をクロスオーバー法で実施した.官能評価でのSOFの強さは試験区で有意に高く(P<0.05),脂質酸化指標である乳中ヘキサナール濃度は試験区で高い傾向(P<0.10)が認められた.SOF発生に関与するとされる乳中のビタミンEや銅濃度に処理区間の差は認められず,乳中の多価不飽和脂肪酸が試験区で有意に高かった(P<0.05).以上のことから乾燥豆腐粕の給与によりSOFが生じることが示唆され,乾燥豆腐粕給与に伴う乳中脂肪酸中の多価不飽和脂肪酸の増加がSOFの発生に関与したと考えられた.

  • 木村 中, 房 家琛, 鈴木 裕之, 松﨑 正敏
    2021 年 92 巻 1 号 p. 63-70
    発行日: 2021/02/25
    公開日: 2021/04/03
    ジャーナル フリー

    マウスの一腹産子数を調整して,哺乳量増加区(一腹4匹)と対照区(一腹10匹)を4腹ずつ設け,3週齢で離乳の後,8週齢まで成長試験を実施した.離乳時と8週齢時に腹腔内LPS投与後にと畜し,臓器重量,血中の免疫グロブリンとTNF-α濃度,胸腺のサイトカインmRNAレベルを調べた.哺乳量増加区では離乳時,8週齢時ともに体重が大きく,離乳後の飼料摂取量が多く,飼料効率は低かった.哺乳量増加区では離乳時の心臓重量の低下と胸腺の増大傾向が,8週齢時には肺の重量低下と腎臓と副腎の重量増加傾向がみられた.哺乳量増加区は離乳時の血中IgG濃度が低く,TNF-α濃度は高い傾向を示した.胸腺のmRNAレベルは,離乳時のIFN-γ,8週齢時のTNF-αとIL-10が哺乳量増加区で増加傾向を示した.以上より,哺乳量増加による哺乳期の発育促進は離乳後の飼料摂取量増加と飼料効率の低下を招き,サイトカイン産生能増強の可能性が示された.

  • 横田 朋佳, 福田 智歩, 金谷 圭太, 渡辺 亮平, 村元 隆行
    2021 年 92 巻 1 号 p. 71-74
    発行日: 2021/02/25
    公開日: 2021/04/03
    ジャーナル フリー

    接触型電極でインピーダンスを測定することで,塩漬中の日本短角種去勢牛(n=5)の上腕三頭筋のテクスチャー特性,ドリップロス,および塩漬の程度を非破壊的に推定する方法を検討した.牛肉に重量当たり6%(w/w)のNaClを添加し,10から60分間の塩漬を行った後,テクスチャー特性,ドリップロスおよびインピーダンスを測定した.その結果,テクスチャー特性およびドリップロスには塩漬時間による有意な差は認められなかった.インピーダンスは,1Hzでは塩漬前が塩漬10分に比較して有意に高かったが,それ以降では塩漬時間による有意な差は認められなかった.一方,120Hzおよび100kHzでは,塩漬前が塩漬10分に比較して有意に高く,塩漬10分から30分の間には有意な差が認められなかった.さらに,塩漬10分が塩漬40分から60分に比較して有意に高かったが,塩漬40分から60分の間には塩漬時間による有意な差は認められなかった.本研究の結果から,接触型電極を用いたインピーダンス測定により,Na+の浸透の程度から推察される塩漬の程度を非破壊的に推定できる可能性が示された.

技術報告
  • 山崎 武志, 武田 尚人, 萩谷 功一, 山口 諭, 久保田 哲史, 田鎖 直澄
    2021 年 92 巻 1 号 p. 75-82
    発行日: 2021/02/25
    公開日: 2021/04/03
    ジャーナル フリー

    乳用牛における生涯の乳生産および仔牛生産効率と空胎日数および乾乳期間の長さとの関係について,乳量および泌乳持続性育種価水準別にシミュレーションした.4産次終了時における仔牛生産を乳量換算した生涯平均日乳量(累積乳量/除籍時日齢)を生涯生産効率の指標とした.シミュレーションでは,育種価水準ごとの泌乳曲線,泌乳後期乳量に対する妊娠ステージの効果,および乾乳期間短縮による次産次乳量の低下を考慮した.乾乳期間30~90日,空胎日数85~205日の範囲において,乳量および泌乳持続性育種価が平均以上の水準では,乾乳期間がやや短く,空胎日数が長い条件で生涯生産効率が向上する傾向にあった.特に泌乳持続性育種価が高い水準の生涯生産効率は,仔牛販売価格が高い条件においても,85日より長い空胎日数で高くなった.本研究で用いた指標は,泌乳曲線の形状や仔牛販売価格の情勢を考慮した最適な生産サイクルの検討に利用できる.

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