軟脂豚肉脂質の特性を明らかにするため,軟脂豚と正常豚の蓄積脂肪を立体特異的分析および銀イオン薄層クロマトグラフィーによって調べた.軟脂豚の脂肪は通常の脂肪よりC
18:2, C
18:3および全不飽和脂肪酸が多く,C
16:0やC
18:0が少ない.軟脂も正常な脂肪も,共にトリアシルグリセロール(TG)内の脂肪酸分布は類似していて,C
14:0,C
16:0およびC
16:1の大部分は2位置に存在し,C18:0の多くは1位置に存在していた.しかしC
18:0含量の多かった正常豚の腎臓脂肪では,C
18:0のかなりの量は3位置に存在していた.他方C
18:1とC
18:2は1および3位置に多く結合していた.軟脂が正常脂に比べてC
16:0含量の少ないのは,おもに1位置のC
16:0含量のちがいによる.また,軟脂豚脂質のC
18:2含量の多いのは,TGの3つの位置のいずれにおいても正常豚脂質よりC
18:2含量の多いのに由来する.軟脂豚の背脂肪では正常豚に比べて,3位置でのC18:1が少なかったが,これは同位置におけるC
18:2含量が,正常豚よりも多いことで補償されているように見られる.各試料のTGのタイプと組成は,1-random,2-random, 3-randomの脂肪酸配置を仮定して求めた.軟脂豚は正常豚に比べて,それぞれの対応する蓄積部位の脂肪で,S
2UとU
3が多くS
3とS
2UのTGが少なかった(Sは飽和脂肪酸,Uは不飽和脂肪酸).脂肪組織のTGを銀イオン薄層クロマトグラフィーで,不飽和度のちがいによって分画した.軟脂豚脂質は正常豚脂質よりも,S
3やS
2Mのような飽和度の高いTGはかなり少なく,SMD, SD
2やM
2Dのような,二重結合が3個以上の不飽和度の高い種類のTGが多かった(Mはモノエン酸,Dはジエン酸).
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