脂肪の酸化の程度とその毒性との関連性を検討するために,60°Cで通気して自動酸化させた大豆油を雛に対して給与し,その影響を調べた.大豆油の自動酸化の過程を誘導期,過酸化物蓄積期,カルボニル化合物等の蓄積および重合体形成期の3期に大別することができる.誘導期には油中のα-トコフェロール含量が著しく減少したが,過酸化物はほとんど蓄積されなかった.この油を給与した雛の血漿中のトコフェロール含量は著しく減少したが,脳軟化症は軽症のものが散発するにすぎなかった.過酸化物蓄積期は油中のβ,γ,δ-トコフェロールが減少し,過酸化物が多量に蓄積された.血漿トコフェロール含量は著しく低下し,脳軟化症の発症は過酸化物価の上昇に伴い増加し(最高83%),死亡するものも少なくなかった.しかし雛の発育は低下せず,脂肪の消化率も新鮮油と大差なかった.カルボニル化合物等の蓄積期は,過酸化物の蓄積がピークを超え,一方,カルボニル化合物,遊離脂肪酸等が顕著に蓄積された.脳軟化症の発症はやや低下したが,増体量,飼料摂取量,飼料効率,脂肪の消化率および代謝エネルギー含量が顕著に低下した.また,腸管の肥厚が認められた.本期の末期には油の粘度が顕著に上昇し,重合体の形成が示唆された,以上の結果から,雛の脳軟化症発症は主として過酸化物によるものと推測され,雛に対する過酸化物価30以上の油の多給は好ましくないと考えられる.また,過度に酸化した油による発育および飼料効率の低下,ならびに腸管の肥厚は主としてカルボニル化合物等,油の酸化2次生成物によるものと推定された.
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