広島大学農場のホルスタイン種乳牛の2000年度~2017年度の分娩-分娩間の乳生産量,泌乳,乾乳日数などの記録から,分娩間隔の影響を,産次(初産,2産,3産以上)ごとに検討した.分娩間隔の中央値前後で2つの分娩間隔区(CIG)(CIS, 分娩間隔<404日およびCIL, 分娩間隔≧404日)に分け,乳生産などへのCIGの効果を検定した.CILでCISより泌乳日数/分娩間隔比は低下しなかったが,初産と2産で乾乳前乳量低下の早期化による泌乳日数当たりと分娩間隔当たりの日乳量低下傾向を認め,分娩間隔延長による乳生産効率低下が示唆された.2011年3月に本農場に自動搾乳システムが導入され,同時に飼料給与システムが分離給与から混合給与に移行した後に,泌乳初期における乳量増加とともに体重変化の改善または維持が認められたものの,2産以上で乾乳期間と分娩間隔は延長した.分娩間隔延長への対策の重要性と,その要因のさらなる精査の必要性が示唆された.
26ヵ月齢出荷を目指した短期肥育における発酵混合飼料(TMR)給与効果を検討するため,黒毛和種去勢牛(8ヵ月齢)を,肥育期間を通じて配合飼料と乾草を分離給与するSI区と,発酵TMRを飽食給与するTMR区に6頭ずつ配置して肥育した.肥育全期間の乾物摂取量に試験区による差はなかったが,SI区では消化器疾病が多発したため濃厚飼料を設定どおりに摂取しなかったことにより,濃厚飼料摂取量はTMR区が多かった.体重および日増体重に有意差はなかったが,枝肉成績ではTMR区の方が皮下脂肪が厚くなった.肥育前期において,SI区では飼料給与後での採食時間が長い傾向にあり,飼料給与後に採食が集中していたのに対し,TMR区では飼料採食行動が分散する傾向を示した.消化器疾病および肝機能障害による治療頭数および回数はSI区に比べてTMR区で少なく,発酵TMR給与によって疾病の少ない安定した肥育が可能になると考えられた.
ホルスタイン種泌乳牛に給与する配合飼料の一部をイアコーンサイレージ(ECS:ECS区)あるいは圧ぺんトウモロコシ(FC区)に代替して生産した乳から,UHT牛乳とドリンクタイプのヨーグルト(ヨーグルト)を製造し,一般消費者65人による官能評価試験を行った.官能評価試験は,それぞれ2処理区の香りや味に対する強度や嗜好性を比較する2点評価法で実施した.その結果,UHT牛乳ではECS区の総合的なおいしさの評価がFC区に比べて有意に高かった(P=0.046).ヨーグルトでは,香り(P=0.046),甘味および酸味(P<0.001)の強さにおいて処理区間に有意な差があったものの,総合的なおいしさの違いは有意ではなかった.総合的なおいしさを決める要因としては,どちらもコクの強さと後味の好ましさ(P<0.001),香りの好ましさ(P<0.01)が強く影響していた.
ホルスタイン種若齢肥育牛の十勝若牛®において,画像解析形質およびオレイン酸割合と一般型官能評価との関連性を調査した.調査には,2016年6月および11月に出荷された412頭を用いた.6-7横断面における筋間脂肪のオレイン酸割合をガスクロマトグラフ法により分析した.官能試験は,旨み,香り,脂の香り,やわらかさおよびジューシーさを評価した.画像解析形質として,ロース芯脂肪面積割合および肉色指標のiBCSを算出した.オレイン酸割合と官能評価間の相関係数は0.00から0.07の範囲と弱かった.官能評価項目に対して,生産者,出荷季節,枝肉重量および脂肪面積割合は有意な効果を示したが(P<0.05),オレイン酸割合における有意差は認められなかった.以上の結果から,十勝若牛においてオレイン酸割合と官能評価との関連性は低いことが示唆された.
成熟期が異なるイワテヤマナシの果汁への浸漬が牛肉の硬さに及ぼす影響について検討を行った.日本短角種去勢牛(n=5)から調製した筋肉サンプルを3品種のイワテヤマナシ(i1302:早生,i1515:中生,i0218:晩生)の果汁(果汁区),および90°Cで10分間の湯浴を行い,その後氷冷したイワテヤマナシ果汁(加熱区)に,それぞれ40°Cで1時間浸漬させた後,80°Cで3分間の加熱を行い,テクスチャープロファイル分析を行った.i1515の最大荷重およびガム性荷重は果汁区が加熱区に比較して有意に低かった.凝集性には両試験区での有意な差が認められなかった.ドリップロス,クッキングロス,およびトータルロスにも試験区間での有意な差は認められなかった.本研究の結果から,イワテヤマナシ(i1515)の果汁に浸漬させることにより,保水性を低下させることなく食肉を軟化させられる可能性が示された.