日本畜産学会報
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81 巻, 1 号
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一般論文
  • 斯琴, 小谷 麻衣, 青島 拓也, 中井 真理, 渕上 麻衣, 小田中 由貴, 菅原 靖志, 与語 圭一郎, 名倉 義夫, 濱野 光市, ...
    2010 年 81 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2010/02/25
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    雄ヤギにおけるリラキシン関連因子(RLF)の生理機能を探るため,精巣でのRLFの局在と性成熟に伴う発現パターンを調べた.抗体はRLFのA鎖領域のペプチドを抗原としてウサギで作製し,特異性はWestern blotとOuchterlony法で評価した.免疫組織化学とWestern blotの結果,RLFはライディッヒ細胞で約12 kDaのタンパク質として翻訳されていた.RLF陽性を示すライディッヒ細胞の面積分率は生後3ヵ月齢までに2.2%まで一旦有意(P < 0.05)に減少した後,春機発動期にあたる4ヵ月齢で再び有意(P < 0.05)に増加して5.7%となり,成熟(6.7%)と変らないレベルに達した.これはWestern blotの結果と一致した.以上,ヤギでは精巣ライディッヒ細胞がRLFタンパク質の唯一の産生源で,その発現は性成熟に伴い増加することから,RLFの精巣機能への関与が示唆された.
  • 谷川 珠子, 大坂 郁夫, 川本 哲, 原 悟志
    2010 年 81 巻 1 号 p. 11-19
    発行日: 2010/02/25
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    トウモロコシサイレージ(CS)における破砕処理が,乳牛の養分利用に及ぼす影響を検討した.黄熟期に設定切断長17 mmで調製した未破砕CS,および切断長は同様としローラ間隔5 mmで破砕処理して調製した破砕CSを用い,飼料全体の粗タンパク質(CP)含量が14%となるように,各CSに大豆粕を84 : 16(乾物比)の割合で混合したものを供試した(未破砕区,破砕区).これらをルーメンおよび十二指腸カニューレを装着したホルスタイン種乾乳牛3頭に給与した.CSの化学成分は破砕処理の影響がなかったが,破砕区は乾物,CPおよびデンプン摂取量が有意に高かった(P < 0.05).ルーメン内のデンプン消化率は破砕区が30%高い傾向にあったが(P = 0.08),NDFの消化率は区間に差がなかった.総消化管におけるデンプン消化率は破砕区で高く(P < 0.05),CSのTDNは破砕CSで3.5%高まった.ルーメン液のpHおよび反芻時間は区間に差がなく,採食時間は破砕区で短かった(P < 0.05).ルーメン内可消化有機物量に対する微生物体窒素合成効率は区間に差がなく,破砕CSに適した併給タンパク質飼料の給与方法について検討が必要と考えられた.以上より,設定切断長が17 mmのとき,破砕処理をしても総咀嚼時間は変化せず,NDF消化率を低下させずに,デンプンの利用亢進が可能であった.
  • 原 悟志
    2010 年 81 巻 1 号 p. 21-27
    発行日: 2010/02/25
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    メンヨウおよび乾乳牛各4頭を供試してモミ米および玄米の破砕処理が成分消化率およびTDN含量に及ぼす影響を検討した.供試飼料は全粒モミ米,全粒玄米,破砕モミ米および破砕玄米とし,乾草を併給して4×4ラテン方格法により消化試験を実施した.メンヨウではさらに細かい微破砕玄米も供試した.供試飼料の平均粒度は,破砕モミ,破砕玄米および微破砕玄米でそれぞれ1.16,1.33および0.55 mmであった.乳牛およびメンヨウともに全粒玄米は全粒モミ米に比べて未消化子実排泄割合が多くTDN含量は低かった(メンヨウ : 66.3 vs. 61.7%,乳牛 : 47.3 vs. 40.4%).両飼料とも破砕により成分消化率は高まり,メンヨウで測定したTDN含量は破砕モミ米および破砕玄米でそれぞれ75.7および76.6%,乳牛で67.4および68.2%と高まった.しかし咀嚼能力の高いメンヨウであっても微破砕玄米のTDN含量は88.3%であり,日本標準飼料成分表(2001)に示された値(94.3%)より低かった.以上のことから,モミ米や玄米を乳牛用飼料として破砕処理する場合には,平均粒度0.55 mmよりも細かく破砕する必要あるととともに,加熱圧ぺんなどの加熱処理法の検討も必要と考えられた
  • 野中 最子, 山崎 信, 田鎖 直澄, 樋口 浩二, 永西 修, 寺田 文典, 栗原 光規
    2010 年 81 巻 1 号 p. 29-35
    発行日: 2010/02/25
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    ホルスタイン種育成雌牛を用いて温度および湿度の上昇と増体量の関係を実験的に明らかにし,月平均気温の変動予測シナリオから,わが国の育成雌牛に対する温暖化の影響について検討した.その結果,(1)気温上昇に伴い育成雌牛の増体量が気温20℃の時よりも5および15%低下する平均気温は,それぞれ26.4および28.8℃(相対湿度60%の場合)と試算された.(2)わが国の育成雌牛の夏季増体量は温暖化の影響を受け,2020,2040,2060年と年代の経過に伴い増体量の低下する地域は拡大することが示された.(3)育成前期雌牛を用いて気温の他に湿度の影響も加味したところ,2060年代において,南九州地域では相対湿度が現在と同じ場合でも増体量が21%低下する一方,北海道中東部地域では相対湿度が5ポイント上昇してもほとんど変化しないと予測された.以上の結果から,今後,温暖化の進行に伴い,わが国各地で育成雌牛の夏季の増体量が低下すること,また,その低下量は地域によって異なり,湿度の変動によっても大きく変わることが示された.
  • 村澤 七月, 中橋 良信, 浜崎 陽子, 日高 智, 堀 武司, 加藤 貴之, 口田 圭吾
    2010 年 81 巻 1 号 p. 37-45
    発行日: 2010/02/25
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    黒毛和種ロース芯内における脂肪交雑の量,形状および分布均一性の月齢変化と,それに対する種雄牛の影響を調査するために,北海道内の枝肉市場に25~33ヵ月齢で出荷された黒毛和種4,130頭(去勢3,087頭,雌1,043頭)を用いた.第6-7胸椎切開面のロース芯画像を4領域に分割した.ロース芯全体と各領域について,脂肪面積割合,あらさ指数および細かさ指数を算出し,出荷月齢による推移を調査した.去勢において,脂肪面積割合の見かけ上のピークは一つの領域を除いて30ヵ月齢にあったが,31ヵ月齢以降において脂肪交雑の細かさが増大した.雌はすべての領域において脂肪面積割合の見かけ上のピークが30または32ヵ月齢にあり,脂肪交雑の細かさは去勢牛と異なり上昇しなかった.領域によって脂肪面積割合の月齢推移は異なり,去勢では25ヵ月齢で最も脂肪面積割合の低い領域が大きな増加を見せた.また,脂肪面積割合とBMSが見かけ上ピークになる出荷時期は,種雄牛によって異なっていた.
技術報告
  • 鳥居 伸一郎, 松井 徹, 鶴田 茜, 櫻井 孝志
    2010 年 81 巻 1 号 p. 47-52
    発行日: 2010/02/25
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    鉄は必須微量元素である一方,過剰摂取すると家畜の生産性に悪影響を及ぼす.そこで,肉用牛の飼養現場で適切な鉄含量の飼料が給与されているのか検証した.高知県内の肉牛農場から,繁殖牛(19農場),育成子牛(22農場),肥育前期牛(12農場),肥育後期牛(19農場)に給与されていた飼料を,すべて採取し,鉄含量を測定した.鉄含量の範囲が大きかった飼料の種類は,稲わら,チモシー乾草,イタリアンライグラス乾草,市販育成用配合飼料,市販搾乳牛用配合飼料,育成子牛に給与された自家配合飼料であった.鉄含量の平均値と日本標準飼料成分表(2001年版)の記載値との間に有意な差があった飼料の種類は,イタリアンライグラス乾草,エンバク乾草(オーツヘイ),青刈ソルガム生草,ふすまであり,いずれも成分表の記載値よりも少なかった.続いて,農場から聞き取った各飼料の一日給与量から,最終的に与えられた飼料の鉄含量を要因加算法で求めた.繁殖牛,育成子牛,肥育前期牛,肥育後期牛のいずれにおいても,全農場で,日本飼養標準(2008年版)が提示する鉄要求量を満たしており,かつ摂取許容限界を下回っていた.一方,給与飼料の鉄含量が250 mg/kgを超えると,銅の二次的欠乏が懸念されるが,最終的に与えられた飼料の鉄含量において,繁殖牛で7農場,育成子牛で10農場,肥育前期牛で2農場,肥育後期牛で1農場が,これに該当した.
解説記事
  • 寺田 文典
    2010 年 81 巻 1 号 p. 53
    発行日: 2010/02/25
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    2009(平成21)年6月25日,食品安全委員会は,「現時点における科学的知見に基づいて評価を行った結果,体細胞クローン牛および豚ならびにそれらの後代に由来する食品は,従来の繁殖技術による牛および豚に由来する食品と比較して,同等の安全性を有すると考えられる」という体細胞クローン家畜の食品健康影響評価結果を厚生労働大臣に答申した.これを受け,農林水産省は,同年8月26日,体細胞クローン家畜等の研究,生産または飼養を行う機関に対し,クローン家畜の飼養頭数の変更等を農林水産省に報告すること,生産物は研究機関内で適切に処分すること等を内容とする通知を改めて発出した.これらの動向を踏まえ,体細胞クローン技術への現状認識を深めると同時に,この技術の将来展望に関する情報交換と議論を行うため,畜産草地研究所の主催する平成21年度問題別研究会「体細胞クローン技術の現状と将来展望」が開催された.
    この研究会では,公立場所のクローン関係者を中心に,消費者団体など,136名の参加を得,「体細胞クローン技術の取り扱いと利用方向(12月14日)」と「体細胞クローン家畜の生産効率向上へ向けた将来展望(12月15日)」の2つのテーマについて,活発な議論が行われた.
    本解説記事では,2つのテーマのうち,「体細胞クローン技術の取り扱いと利用方向」について,テーマを設定した趣旨および主要論点ならびに演者4名の要旨を掲載することとした.
    掲載にあたって尽力した独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構畜産草地研究所渡辺伸也上席研究員に深謝の意を表する.
  • 渡辺 伸也
    2010 年 81 巻 1 号 p. 54
    発行日: 2010/02/25
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    体細胞クローン牛由来畜産物の安全性確認は,全国畜産場所長会の「畜産技術開発推進に関する提案」や地域の畜産推進会議の要望事項として,ここ数年来,独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構畜産草地研究所に寄せられてきた重要な要望事項のひとつであった.畜産草地研究所では,全国の関係機関の協力を得,体細胞クローン牛およびその後代牛の健全性や生産物性状の調査を進め,2008(平成20)年3月,「体細胞クローン牛・後代牛の健全性ならびに生産物性状に関する国内調査報告書」を取りまとめるなど,その要望に応えるよう務めてきた.
    食品安全委員会は,この国内調査報告書をはじめとした国内外の参考資料に基づく慎重な審査ならびにリスクコミュニケーションやパブリックコメントを実施し,新開発食品評価書「体細胞クローン技術を用いて産出された牛および豚ならびにそれらの後代に由来する食品」を公表した(2009(平成21)年6月25日).これを受けた農林水産省の通達(同年8月26日)の内容は,実質的に1999(平成11)年11月に出された体細胞クローン牛の出荷自粛要請の継続であった.
    このような情勢を受け,今回の問題別研究会では,「体細胞クローン技術の取り扱いと利用方向」というテーマを設定し,体細胞クローン牛豚およびその後代に関するリスク評価の経緯やその結果ならびにリスク管理機関(厚生労働省と農林水産省)の方針や考え方を担当官から参加者にわかりやすく説明していただくとともに,参加者の質問にも答えてもらうことにした.あわせて,現在の農林水産省の方針を踏まえた体細胞クローン技術の利用方向として,「クローン検定」と「医学・医療への利用」に関する研究について,参加者の認識を深めるため,関係する理論や実践に詳しい専門家より最新の研究情報を提供していただくことにした.
    担当官の説明に対し,参加者からは,「食品安全委員会の審査によって,体細胞クローン牛豚の安全性が確認されたにもかかわらす,農林水産省は,なぜ,これらの動物の規制を続けるのか」という声があがった.農林水産省の担当官からは,規制する根拠として,「低い生産効率など,商業生産に見合わない技術段階」と「国民理解の醸成不足」が提示された.これに対して,参加者からは,「どこまで生産効率を高めたら規制を解除できるのか,その基準を教えて欲しい(研究者)」,「消費者は皆よく知っている.規制を続けることがサイレント・マジョリティの声ではない(消費者)」などといった質問や意見がだされた.研究会で提起された論点の詳細については,「体細胞クローン家畜の生産効率向上へ向けた将来展望(12月15日)」の分もあわせて,「畜産草地研究所研究資料(10号 ; 予定)」に掲載し,今後の議論の参考に資したいと考えている.
    最後に,年末のご多忙な時期にもかかわらず,研究会の講師を務め,また,原稿の取りまとめにもご協力いただいた諸先生に感謝いたします.
  • 鈴木 孝子, 森田 富幸, 加納 桂次, 小平 均
    2010 年 81 巻 1 号 p. 55-56
    発行日: 2010/02/25
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    平成21年6月25日,食品安全委員会は厚生労働省に「体細胞クローン牛および豚ならびにそれらの後代に由来する食品は,従来の繁殖技術による牛および豚に由来する食品と比較して,同等の安全性を有する.」とする新開発食品評価書を通知した.これを受け,農林水産省は,消費者からのご意見,現在の技術水準,利用状況等にも鑑み,生産率の向上等に向けた研究開発を進めるとともに,研究機関に対し体細胞クローン家畜および後代家畜の出荷自粛を依頼する等の方針を示した.
  • 古川 力
    2010 年 81 巻 1 号 p. 57-59
    発行日: 2010/02/25
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    近年における家畜の能力の飛躍的な向上には,育種理論の進展とともに新しい繁殖技術の応用が貢献している.繁殖技術は,胚移植から受精卵クローン,体細胞クローンへと発展してきた.クローン技術による家畜の作出効率が低いことから,コストのかかる育種への応用を提案する.肉用牛育種においては,優良種雄牛のクローンによる永続的な使用は改良を停滞させ,遺伝的多様性を減少させることから好ましくないが,受精卵クローンや幼牛クローンを用いた間接検定は年あたりの遺伝的改良量を高める可能性がある.黒毛和種においては現行の育種システムにおいても遺伝的改良がなされていることから,フィールドで測定が困難な形質の改良に取り組むときに,クローン技術を活用することが考えられる.
  • 森安 悟
    2010 年 81 巻 1 号 p. 60-62
    発行日: 2010/02/25
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    受精卵クローン牛および全きょうだい牛における組内の相似性は,特に経済価値に直結する脂肪交雑において高く,受精卵クローン牛を調査牛に用いることで,候補牛の質的能力推定の正確度を高めることが可能である.体細胞クローンを利用することにより,小頭数で精度の高い種雄牛選抜が可能であることを実例をもって示した.
  • 長嶋 比呂志
    2010 年 81 巻 1 号 p. 63-64
    発行日: 2010/02/25
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    クローン動物および動物クローニング技術は,医学研究や医療技術の開発に革新的な進歩をもたらすことができる.特に近年,大型動物であるブタを用いたトランスレーショナル・リサーチ(橋渡し研究)の必要性が認識されるようになったことを背景として,拒絶反応のない臓器・組織移植系(syngeneic移植系)の創出,病態モデル動物の作出,異種移植臓器ドナーブタの開発,さらに動物工場による有用タンパク・細胞・組織の生産など,クローンブタの医学研究・医療への応用が活発に進められている.
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