定位標的に先行して標的近辺に手がかり刺激が呈示された場合,知覚される標的位置は手がかり位置から遠ざかる(注意反発).一方で,標的は手がかり方向に偏って誤定位されることもある(注意牽引).また手がかりが呈示されなくとも,標的は中心窩方向へ偏って定位される傾向にある(中心窩バイアス).本研究では,これら3つの現象が標的消失後の保持期間の長さに従って個別に生じる空間定位の歪みであると考え,これらがどのような順序で生起するかを検討した.具体的には,プローブによる相対位置判断課題を用い,標的・プローブ間の刺激点燈時間差(SOA)を3種類設け操作した(0,550,および1250ms).結果として,SOAが0msの際に注意反発が生じ,次にSOAが550ms以降になると中心窩バイアスが生じ,SOAが1250msになると注意牽引が生じることが明らかになった(実験1).また,注意牽引が必ずしも注意反発の生起を前提としないことも分かった(実験2).これらの結果は,標的位置の知覚の段階で注意反発が生じ,その後標的の位置情報が記憶過程において中心窩バイアスと注意牽引の二重の歪みに曝されることを示唆する.
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