牛精子の凍結保護物質として一般に使われているグリセリンが,豚精子の生存性や受精能に悪影響があるとうことは,POLGEやKING and MACPHERSONによって報告されている.一方NAGASEらは,牛精液の凍結保存の際,糖類を用いて,グリセリン濃度を低くしても良い結果を得たことを報告している.特に豚精子の凍結保護物質としては,グリセリンは好ましいとは思われないので他の保護物質を用いるか,またはそれとの組合わせによリグリセリンの濃度を低くして用いる必要がある.本研究では,糖類を主成分とする蜂蜜で稀釈液を作り豚精子の生存性に与える影響を調べてみた.
第1稀釈液としては日本薬局方蜂蜜を再蒸留水に溶解し,この蜂蜜水溶液3容に対し,新鮮卵黄1容を加えてよく攪拌した後,7,000r. p. m.で20分間遠心分離し沈殿および浮游物を除去したものを用いた.第2稀釈液としては,第1稀釈液にグリセリンを添加したものを用いた.
精液は人工腟法により分離採取した精子濃厚部を供試した.採精後精液は約30°Cの室温のもとで第1稀釈液により1.5倍に稀釈し,5分間に1°Cの割合で10°Cまで冷却した.10°Cで稀釈精液と等量の第2稀釈液でさらに稀釈した.従って終末稀釈倍率は3倍となった.その後再び5°Cまで冷却し,30分間のグリセリン平衡を行なってから0.2mlずつドライアイス上で錠剤化凍結した.凍結精液は-79°Cで24時間保存してから38°Cに加温した金属板上で融解し,顕微鏡下で活力検査をした.活力(%)は角変換してから推計分析に供した.
実験1 では蜂蜜水溶液の蜂蜜濃度を変えて,蜂蜜の至適濃度を調べてみた.終末グリセリン濃度は3%に一定した,その結果蜂蜜の濃度は8~12%がよく,10%で最もよい結果が得られた.
実験2 では蜂蜜とグリセリン濃度の関係をみるため,蜂蜜8,10,12%の稀釈液で終末グリセリン濃度は0,1.5,3.0,6%にして実験を行なった.その結果グリセリンは1.5~3%で良い活力を示し,6および0%のものは劣った成績だった.グリセリンを含まない区では,蜂蜜濃度が高い方で良い活力が得られた.
実験3 では8,10,12%蜂蜜水溶液のglucose,fructose, sucrose含量と等しい人工糖液で稀釈を作り天然蜂蜜との比較を行なった.終末グリセリン濃度は3%に一定した.その結果いずれの濃度においても蜂蜜区の方で良い活力が得られた.
以上の結果から蜂蜜はある程度の凍結保護効果をもち,その効果は主に糖類によるものと考えられる.蜂蜜の濃度は10%で,グリセリンは終末濃度で1.5~3%添加すれば良い結果が得られた.なお蜂蜜には凍結保護効果のみならず,精子生存性に有効な成分の存在することが推察できたので,今後研究を進める考えである.
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