日本畜産学会報
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42 巻, 2 号
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  • 小野 茂樹
    1971 年 42 巻 2 号 p. 61-70
    発行日: 1971/02/25
    公開日: 2008/03/10
    ジャーナル フリー
    和牛の生産は構造的に零細であるが,その原因は子牛生産と肥育牛生産とでは,共通するものと共通しないものとがある.
    子牛生産の零細性要因の一つは飼料の経済性にあり,粗飼料生産基盤の零細性と費用要因とが,子牛生産の規模拡大をおさえている.さらに飼料費のうち自給飼料費が大きいので,飼養規模が零細なばあいは,経営の副産物•残滓的飼料あるいは野草の刈取りなどで充足しえて,1頭のもたらす実質的な収益性(所得)はかなり高いが,しかし飼養規模が拡大された経営では,自給飼料の生産が経営の負担となって,実質的な収益性を低下させざるをえない13).
    他方,子牛の価格はその生産の構造的零細性を反映して,その個体ごとの価格のバラツキと格差を大きいものにしているが,飼養規模の拡大した経営では,上記費用(飼料費)の実質的逓増を,高価な子牛を生産することでカバーしなければならない.しかし高価な子牛の生産という課題は,今日の子牛の商品性形成条件からは,かなり労働集約的管理を要求するので,そのことがまた飼養規模拡大の制約条約になっている.つまり子牛生産では因果関係が常に悪循環的に働いて,その構造的零細性を温存させている.
    そのいわば悪循環をたち切って,大規模経営を育成することはきわめて困難である.現実的な構想としては,農業の構造的変化に伴う和牛飼養農家戸数の減少が今後も続くとおもわれるので,残存飼養農家の頭数を少しずつ増加させて,いわばなしくずし的に問題解決をはかるほかはないだろうとおもわれる.だがそれにもかかわらずその未来像は必ずしも暗くはなく,かなり明るい展望をもちうる.しかしそれらについては本稿ではふれないでおく.
    次に肥育牛生産であるが,これも支配的には零細経営であり,子牛生産と結んでの固有な価格体系のなかで,零細性相応の経営技術を定着させてきた.
    だが肥育における生産費,ことに飼料費のなかには,子牛生産と比べて自給部分が小さく,また自給部分にも有市価物が多いので,費用概念が陶治され,いちじるしい赤字経営での存続が困難である.しかも購入濃厚飼料の経済性が高いので,かえってその規模拡大が容易である.
    ではなぜ現在でも肥育牛経営の多くが零細であり,規模拡大の速度がおくれているのか.その理由の一つは,和牛経営の有畜農業的経済性からの脱皮の時間的なおくれである.つまり和牛が純粋な肉用種(用畜)となってまだ日が浅いからである.さらにまた農家の資本力の弱さや,肥育牛経営をめぐっての価格的条件の不安定性を理由としてあげることができる.素牛価格の変動が大きいし,また肥育牛価格も価格に関連する牛肉の商品性形成条件の変化に伴って不安定である.
    肥育経営における資本の零細性,あるいは経営のリスクの増大などを原因とする規模拡大の制約要因は,農協資本によるいわゆる預託牛制度によりいちじるしく解消されている.農協預託牛制度は農協にとっても実質的な資金需要をおこし,また購買(飼料)と販売(肥育牛)の両事業の振興ともなる.
    肥育における大規模経営も出現してなお日が浅いので,技術や経営経済的秩序が未定着ではあるが,しかし今後農協預託制度を軸として発展し,肥育牛生産における構造的零細性を脱皮するにちがいない.またそれが素牛の価格体系の変化を通して,子牛生産の構造的変化に貢献する契機ともなるだろう.
  • 西田 司一, 大塚 順, 斎藤 馨
    1971 年 42 巻 2 号 p. 71-78
    発行日: 1971/02/25
    公開日: 2008/03/10
    ジャーナル フリー
    前報に引き続き畜試,鹿児島,栃木の資料を入手し,同様な分析を行ない,滝川と比較して,次の結果を得た.
    1) 総産子性比:合計では鹿児島以外の2場では雄へかたよる.品種別では,場により,品種によって結果は区々である.場間の性比差をみると,合計,Yでは有意差はないが,LとBにおいては,滝川との間に有意差がみられる.
    2) 父,母ブタ個体別:父,母ブタともに,産子性比のかたよりを示す個体があるが,滝川にくらべやや少ない.百分率では母ブタは4場間に大差はないが,父ブタでは滝川が明らかに高率を示した.
    3) 産次別:畜試ではかたよりを示す産次があるが,その数は滝川よりやや少ない.栃木でもかたよる産次がみられるが,鹿児島ではかたよりはみられない.品種別では,Yにかたよりを示す産次が最も多い.畜試のBでは雄へかたよる産次があるが,鹿児島ではみられない.
    4) 同腹子数別:合計,品種別ともにかたよりを示す階級の数は少ない.鹿児島では,BとHybでみられたかたよりは,合計ではかくされ,子数1で雌へかたよる.
    5) 季節別:季節の性比はかたよることもあるが,第一,二次の合計,品種別ともに,場によって結果は区々である.季節性比間の差は場により,品種によって結果は区々である.
    6) 自然交配と人工授精:畜試の合計では,有意差はみられない.品種別では,YとHybで有意差がみられる.
    7) 父,母ブタ年令別:合計では父,母ブタともに,畜試,栃木で雄へかたよる年令がみられるが,鹿児島ではみられない.品種別でも,鹿児島ではみられない.品種別のかたよりを示す年令の数は母ブタが父ブタよりやや多い.
    8) 歴年度別:性比のかたよりを示すのは,3場ともに1-2ヵ年度で,滝川より少ない.品種別にみると,Bに比較的多い.畜試のWで1年度だけ雌へかたよるのがみられる.第II大戦前後で性比に有意差はみられたい.
  • V. 濃厚飼料と粗飼料の比を変えた場合と尿素添加の有無によって現われる煮沸処理の影響の差異について
    小島 洋一, 川島 良治, 上坂 章次
    1971 年 42 巻 2 号 p. 79-86
    発行日: 1971/02/25
    公開日: 2008/03/10
    ジャーナル フリー
    今回までの試験結果から穀類を煮沸することによる第1胃内に産生されるVFA組成の変化は,与えた飼料の濃厚飼料:粗飼料比によって様子が異なるのではないかと推察された.そこで今回は,飼料中の濃厚飼料(大麦)のしめる割合を20%から80%まで,10%ずつ変化させて,その際の穀類煮沸の影響について検討を行なった.なお,同時に窒素源の影響についてもみるために,飼料中に尿素を添加した場合の第1胃内VFAの変化についても観察した.
    大麦が40%~50%までは,大麦が多くなるにつれて第1胃内VFAの総量は増加するが,それ以上ではむしろ減少する.煮沸したものは,無処理区より大麦の少ないパーセントでこの総量が最高に達し,その後の減少の程度が著しい.尿素を添加すれば,大麦60-70%までVFA総量は増加をつづける.酢酸プロピオン酸比は大麦60%までは,大麦が増加するにつれて減少するが,大麦がそれ以上になるとむしろ大となる.大麦を煮沸すると,大麦60%まではこの比の低下の程度が著しく,大麦60%以上では,この比の上昇がより著しくなる.
    尿素を加えるとこの比は一般に低くなり,大麦の比率が多くなってもこの比の上昇はあまり認められない.
    上記のことから,大麦煮沸の影響は,濃厚飼料:粗飼料比と,飼料の窒素含量によって変化することが明らかにされた.
  • I. 馬の中毒の原因と考えられる飼料のかびの分離同定
    佐々木 酉二, 佐々木 博
    1971 年 42 巻 2 号 p. 87-95
    発行日: 1971/02/25
    公開日: 2008/03/10
    ジャーナル フリー
    飼料に発生するかびの研究の一環として,昭和37年9月から昭和38年3月までの間に,北海道内で甚大な被害をもたらした馬の飼料中毒の原因となったと考えられる飼料64点を検討して,次の結果を得た.
    1. 飼料中毒をひき起こした飼料のすべてからFusarium〓を検出し,この菌による汚染のはなはだしい飼料を食べた馬ほど中毒症状が重いことを明らかにした.
    2. 中毒症状として下痢を起こした飼料ではFusariumの発生が著しかったが,下痢と共に脳炎症状を呈した患馬に与えた飼料では,FusariumよりもCladosporiumの発生が著しかった.
    3. 中毒飼料において発生率の高かったかびを分類学的に検討し,次の3種に同定した.
    a. Fusarium graminearum SCHWABE
    b. Alternaria tenuis NEES
    c. Cladosporium herbarum (PERS.) LINK
  • I. 成熟雄に照射した場合の体重および主な内分泌器官の重量変化について
    田中 亮一, 柏原 孝夫
    1971 年 42 巻 2 号 p. 96-102
    発行日: 1971/02/25
    公開日: 2008/03/10
    ジャーナル フリー
    成熟雄マウスのJRR-1照射[No. 7 hole,出力40kW, 1時間(1H),2時間(2H)および3時間半(3.5H)処置]に基づく長期間(~286日)飼育中の体重変化および長期間飼育後の臓器重量について次の結果が得られた.
    1. 2H区および3.5H区の体重変化は1H区と比較するとき大差は認められなかった.また致死作用も3.5H区において照射後30日以内に死亡したのは被照射マウス8匹中,炉心に最も近いF位置の2匹のみで,30日以上100日以内では死亡数0であった.2H区はF位置の2匹を照射後16日に屠殺解剖にしたのでその後は不明であったが,FM位置の2匹が照射後68日と84日にそれぞれ死亡したので,2H区の方に致死作用が強く認められた.かかる相違は照射後の飼育環境(室温)の影響によると考えられた.
    2. F位置における照射後30日以内の半致死量(LD50/30)は2時間照射であり,そのNeutron flux densityは7.2-36.0×1010n/cm2,γ線は400-800Rと推定された.
    3. 臓器重量は,精巣,下垂体および副腎について各区比較した結果,長期間飼育後の精巣は照射量の増加に伴い重量減少した.下垂体は顕著な変化なく,副腎は対照区と比較して各照射区とも肥大し,照射後長時間経過したにもかかわらず放射線のstressは残存しているように思われた.
  • VIII. 牛第一胃粘膜のグルタミックーピルビックトランスアミナーゼについて
    星野 貞夫, 坪田 弘之, 守本 一雄
    1971 年 42 巻 2 号 p. 103-110
    発行日: 1971/02/25
    公開日: 2008/03/10
    ジャーナル フリー
    第一胃で生産されたアンモニアの一部は微生物による利用や第一胃壁でのアミノ酸,アマイドの合成によって資化されると考えられているが,後者の経路についてはまだ未解決の問題が多い.本研究は第一胃壁でのアンモニアの同化に関与すると考えられる酵素の存在と性質を明らかにするために行なわれた.
    牛第一胃壁粘膜のグルタミックーピルピックトランスアミナーゼ(以下GPT)活性は組織の新鮮重当りで比較すると心筋のそれよりも高かった.活性を組織の単位蛋白量当りで表わすと第一胃絨毛は肝臓より高かった.これらの結果は第一胃壁の表面積を考慮に入れるとGPTが生理的に重要な役割を果しているのではないかと推定される.
    組織のホモジェネートより30倍精製したGTPについて酵素学的な性質を調べた.酵素活性は最初の60分までは直線的で酵素の蛋白濃度に比例した.至適温度は60°Cで,70°Cでも活性がみられた.至適pHは燐酸緩衝液中で8.0であった.p-クロル安息香酸第二水銀(以下PCMB)とHgCl2は強力な阻害剤であった,しかしモノヨード酢酸は阻害作用を示さなかった.PCMBによる阻害はグルタチオンの添加によって完全に回復した.透析による酵素活性の低下はピリドキサール燐酸の添加によって回復した.これらの諸性質は肝臓や心筋に存在するGPTのそれとよく一致している.
    第一胃粘膜のホモジェネートはα-ケトグルタール酸の存在でアラニン,アスパラギン酸,イソロイシン,ロイシン,メチオニン,フェニールアラニン,バリンからダルタミン酸を生産した.したがって,これらの結果はGPTの外に第一胃粘膜には各種のトランスアミナーゼが存在することを暗示している.
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