1) 体重約40kgの雌メン羊3頭を供試し,オーチャードグラス乾草を給与して,採食前,中および後に経時に採血,採尿し,動脈血および尿のpH, Pco
2, HCO
3-濃度を測定して採食にともなう体液酸塩基平衡の変動を検討した.2) 採食前に7.502±0.010であった血液pHは,採食開始とともに急速に低下し,採食開始1時間後に7.400±0.021に達した.血液pH低下の状態は採食中持続し,以後徐々に復元する傾向にあったが,採食停止後もそのpHは採食前値より低い値を示した.短時間内における血液pHの0.10単位の低下は,通常の飼育条件下ではきわめて大きい変化であると思われる.3) 採食によってpHと同様に血漿HCO3-濃度が低下した.また,Pco
2の変化も僅かだが減少の傾向を示した.このことから,採食行為によって惹起されたアシドーシス的傾向は呼吸性のものではなく代謝性のものであると考えられた.4) 血液に現われた酸塩基平衡の変動を反映して,採食開始とともに尿pHは7.30±0.11から5.31±0.04に低下し,同時にHCO
3-濃度およびPco
2が著しく減少した.5) また,採食開始後に血液ヘマトクリット値が上昇し,尿量が減少するなど,採食行為によって体液区分間の水分移動にかなりの変動が生ずるものと推定された.6) メン羊の採食時に唾液分泌量が増加する.この唾液は第一胃内で産生された低級脂肪酸を中和することによって生体内へのH
+獲得を抑制するとともに,胃内pHの低下をおさえて第一胃内醗酵の進行を助ける.しかし,このとき血液から唾液に分泌されるHCO
3-が増加するために血液HCO
3-濃度が減少し,その結果血液pHが低下する.このような酸塩基平衡調節系がメン羊の採食中に成立するものと考察した.
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