沼沢水牛およびホルスタイン牛各2頭を入工気象室に収容し,25°C,30°C,35°Cおよび38°Cの各環境温度下での両種の熱産生量,赤血球数,ヘマトクリット値,ヘモグロビン濃度,2,3-DPG濃度,血液pHおよび静脈血炭酸ガス分圧を測定した.
水牛,牛ともに環境温度が上昇すると呼気量が増加した.環境温度が30°Cから35°Cに上昇したとき,牛の熱産生量は有意に増加したが,水牛の熱産生量は変化しなかった.発汗量は全温度区を通して,水牛の方が牛よりも有意に低い値を示し,高温度環境でも大きくは増加しなかった.これは発汗による熱放散は水牛の体温調節にとってあまり大きな役割を果していないことを示している.環境温度が35°Cを越えたとき,水牛の赤血球数,ヘマトクリット値およびヘモグロビン濃度は減少し,牛の値より低くなったが,これは水牛においては高温度環境下で,水が脈管外から脈管内に移動していることを示唆しているように思われる.すべての環境温度区において,水牛の静脈2,3-DPG濃度は牛と比較して高かったが,両種ともに環境温度の上昇にともなって減少した.また環境温度の上昇にともなって,両種ともに静脈血炭酸ガス分圧も減少したが,血液pHは牛では一定に保たれたのに対して,水牛では有意に上昇した.
以上の結果は,水牛と牛の高温度負荷に対する体温調節反応には大きな違いがあることを示しており,特に熱性多呼吸中の血液pHが上昇したことは,この動物の暑熱環境下での生理的適応能力が低いことを示唆するものと思われる.
抄録全体を表示