現在までに肉用牛や乳用牛について集団構造や血統分析が数多くなされてきているが,血縁関係に関する研究では相加的な血縁に関してのみ行なわれてきた.しかしながら,近年発展しつつある受精卵移植やクローニングといった繁殖技術による種畜の造成が進むと高い血縁関係,特に優性血縁関係にある個体が増加すると考えられる.そういった集団において,より正確に遺伝的評価をするには相加的効果に加え優性効果をも考慮する必要性がある.そこで本研究では,現時点で黒毛和種集団においてどの程度の相加的血縁および優性血縁が生じているかを検討し,あわせて集団構造の変遷を明らかにするため世代間隔についても検討を加えた.用いた材料は,宮崎県,広島県および兵庫県の黒毛和種集団それぞれ3,392頭,1,421頭および1,876頭とした.
分析に供した全個体間の相加的血縁の平均は宮崎県,広島県および兵庫県でそれぞれ,0.018,0.044および0.063であり,近交係数はそれぞれ0.017,0.028および0.039であった.また,全個体間の優性血縁の平均は宮崎県,広島県および兵庫県でそれぞれ,0.0004,0.0017および0.0031であり,相加的血縁と比べ非常に低いレベルを示した.各県とも優性血縁のレベルは年を追って上昇し1991年に誕生した個体間の平均はそれぞれ0.006,0.017および0.049という値を示した.種雄牛から息牛および娘牛への世代間隔は3県とも年を追うごとに顕著に長くなった.また繁殖雌牛から息牛への世代間隔も宮崎,広島の両県では長くなったが,兵庫県では短くなっていた.以上の結果より,兵庫県の黒毛和種集団においては比較的高い近交および複雑な血縁関係が認められた.これは兵庫県の1990年代はじめから閉鎖集団として維持されてきた歴史的経緯を反映したものと考えられる.宮崎県ではあまり複雑な血縁関係は認められなかった.広島県における血縁関係の程度は宮崎,兵庫両県の中間的な値を示した.これは広島県では育種組合単位で育種が進められ,あまり他県との交流が広く行なわれてこなかったためと思われる.しかしながら,宮崎,広島両県においても現在の繁殖交配システムを継続すると近い将来,より複雑な血縁関係が生じる可能性があると思われる.
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