日本大腸肛門病学会雑誌
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70 巻, 10 号
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主題I:炎症性腸疾患診療の最前線
  • 池内 浩基, 内野 基, 坂東 俊宏, 蝶野 晃弘, 佐々木 寛文, 堀尾 勇規, 桑原 隆一, 皆川 知洋
    2017 年 70 巻 10 号 p. 593-600
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/23
    ジャーナル フリー
    潰瘍性大腸炎(以下UC)の内科的治療の進歩は著しい.それに伴い手術適応も変わってきている.従来の難治例は減少し,癌/dysplasiaで手術となる症例が著明に増加している.発癌部位は通常の発癌症例と同じように,直腸・S状結腸が3/4を占め,これらの症例には肛門管粘膜も切除する,回腸嚢肛門吻合術が推奨される.
    もう1つの変化は,手術症例の高齢化である.高齢者の緊急手術の予後が不良なことはすでに報告している.重症例で,first line therapyが奏効しなかった場合,手術を行うのかsecond line therapyを行うのかは,内科医と外科医の連携が重要である.
    UCに対する術式は大きな変化はない.手術方法は開腹手術では小開腹手術が,腹腔鏡手術ではda Vinciを用いたロボット手術の報告もみられるようになっている.
    また,今後はサルベージ手術も重要になってくるものと思われる.
  • 久松 理一
    2017 年 70 巻 10 号 p. 601-610
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/23
    ジャーナル フリー
    抗TNFα抗体製剤の開発はCrohn病の治療ストラテジーを大きく変えた.長期的予後を改善するために“treat to target”ストラテジーが取り入れられ,粘膜治癒が治療目標として提唱された.疾患活動性のモニタリングが重要であり,血清CRPと便カルプロテクチンが日常臨床での非侵襲的バイオマーカーとして期待されている.既存治療の見直しとして,チオプリン製剤の併用については個々の患者において検討されるべきである.経腸栄養療法についても抗TNFα抗体製剤との併用療法の有用性が検討されている.抗TNFα抗体製剤が広く使用されるようになるにつれて,効果減弱を含む新たな問題にも直面しておりその機序を理解することが重要である.新たな治療薬として抗Il-12/23p40抗体であるウステキヌマブが日本でも承認された.抗TNFα抗体製剤に対する一次無効患者や効果減弱患者に対する有効性が期待されている.
  • 山本 隆行, 下山 貴寛, 梅枝 覚
    2017 年 70 巻 10 号 p. 611-622
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/23
    ジャーナル フリー
    薬剤療法の進歩によりCrohn病の治療成績は格段に向上したが,腸管手術を要する患者は少なくない.切除がCrohn病の基本術式であるが,広範囲切除は再発率低下に寄与しないことが判明してから小範囲切除が行われており,線維性の狭窄病変に対しては狭窄形成術が導入されている.腹腔鏡手技の導入により,術後回復が早く整容性の高い手術が可能となった.術前の免疫抑制療法と術後合併症のリスクとの関連が注目されているが,生物学的製剤が合併症率を増加させるかについては不明である.Crohn病の術後再発は高率であるが,最近では生物学的製剤に強力な再発予防効果が確認されている.術後治療の最適化については,今後さらに臨床研究が必要である.手術適応やタイミングを決定するには,内科と外科の緊密な連携が不可欠である.また,患者が安心して手術を受け早期に社会復帰を果たすためには,多職種連携チームによる管理が必要となる.
  • 二見 喜太郎, 東 大二郎, 平野 由紀子, 三上 公治, 愛洲 尚哉, 前川 隆文
    2017 年 70 巻 10 号 p. 623-632
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/23
    ジャーナル フリー
    Crohn病における肛門病変の術後長期経過を中心に自験例の検討を行った.10年以上観察中の298例中82.9%に肛門病変をみとめ,115例(38.6%)が肛門病変先行例であった.外科治療の対象となる瘻孔・膿瘍は難治性のため,通常の痔瘻とは異なる対応を必要とする.手術施行例の検討では,瘻孔切除術(lay open法)は高率の再発に肛門括約筋のダメージが加わり,単発瘻孔といえども長期経過は不良であった.Seton法については,複数回のドレナージによる寛解例まで加えると67.1%で感染病巣が制御できており,活動性直腸病変,膣瘻などが不良因子となっていた.人工肛門により88.9%は肛門症状が軽減したが,閉鎖した3例とも肛門病変は再燃した.
    Crohn病肛門病変に対する外科的治療は,若年者が対象となるだけに長期的な肛門機能の保持まで考慮した症状の軽減とQOLの改善を目標とした術式の選択が重要である.
  • 内田 恵一, 井上 幹大, 小池 勇樹, 松下 航平, 近藤 哲, 大北 喜基, 藤川 裕之, 廣 純一郎, 問山 裕二, 荒木 俊光, 楠 ...
    2017 年 70 巻 10 号 p. 633-644
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/23
    ジャーナル フリー
    小児の炎症性腸疾患に対する治療のゴールは患児に正常発育と優れたQuality of Lifeをもたらすことであり,すべての領域の医療従事者が協力しながら,小児特有の問題に留意して治療を進めなければならない.診断においては,おおよそ10歳以下の超早期発症の症例や成人と比して非典型的な経過の症例では,原発性免疫不全症が鑑別疾患に入るため専門家にコンサルトすべきである.治療においては,成長障害と学校生活の障害に常に注意し,内科的治療内容,内科的治療の限界の見極めと外科手術適応,外科治療方法と時期,ワクチン接種などを考慮に入れて治療計画を立てるべきである.また,小児IBD患者が増加し優れた内科的治療が発展する現代では,小児期から成人期へシームレスで適切なトランジションが行われることが重要な課題の1つである.本稿では,本邦の現状と最新の文献をもとにこれらの課題について述べる.
主題II:直腸肛門診療における診断・研究の進歩
  • 小川 真平, 板橋 道朗, 山本 雅一
    2017 年 70 巻 10 号 p. 645-654
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/23
    ジャーナル フリー
    MRIは脂肪組織や筋組織などの軟部組織のコントラスト分解能に優れ,また,解剖学的位置関係の把握に有用な様々な断面での画像構築が可能であり,直腸肛門領域疾患の診断に汎用されている.
    高位で深部に存在する坐骨直腸窩痔瘻や骨盤直腸窩痔瘻は,脂肪抑制T2強調画像による評価が有用である.MRIでは術中にわかりにくい瘻管の走行や膿瘍の拡がりが把握しやすく,見逃しや不十分な治療の防止に役立つ.
    直腸癌や肛門管癌では壁深達度やリンパ節転移診断に加え,局所再発や予後不良因子として重要なCRMの評価,ISRの適応決定に重要な肛門管内での腫瘍の進展度評価に有用であり,治療方針決定に役立つ.また,新しいリンパ節転移診断法としてDWI-MRIやリンパ節特異性造影剤を用いたUSPIO-enhanced MRIによる診断の検討が行われており,診断精度の向上に期待が寄せられている.
  • 羽田 丈紀, 飯田 直子, 衛藤 謙, 矢永 勝彦
    2017 年 70 巻 10 号 p. 655-660
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/23
    ジャーナル フリー
    256ch.High-resolution 3D manometry(以下,256ch.HRM)は,直腸肛門の生理,解剖,機能を理解する上で,機能的肛門管長,最大静止圧,最大随意収縮圧,いきみ圧,咳反射,直腸肛門反射,直腸知覚検査の視覚情報としての認識を可能にする有用な検査法である.検査時,リアルタイムでの動画観察が可能であるため,2Dや3D画像で肛門管の動態生理学を把握できる.より高精度で連続性のあるデータが得られ,さらに直腸肛門疾患の手術後症例や括約筋障害症例における障害部位や障害の程度が測定可能と考えられ,従来法と比べ,検者による測定結果のばらつきが少なく再現性の向上が見込まれる.本稿では特に256ch.HRMの使用法,性能を中心に解説する.
  • 小杉 光世
    2017 年 70 巻 10 号 p. 661-671
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/23
    ジャーナル フリー
    「解剖学的区画」と「病態」に基づく痔核程度分類(以下P分類)論文の臨床的意義を再考察しP分類記載記号を追加した.他覚化,数値化,理論的展開で従来の臨床研究方法を検討して,痔核体積論,痔核模型を参考に痔核体積を推計する概算式を,痔核体積と注射量から注射量対痔核体積比率(I/V ratio)仮説と実施例I/V ratio(≧2.25~2.75)から,注射至適量(optimal dose)概念を解説し対象痔核の限界サイズを試案した.ALTA治療で得られたデータとALTA療法適応拡大の可能性を示唆する症例P-IV病態の1症例を呈示した.
    痔核全体像を観察できる有窓型肛門鏡を呈示した.痔核治療に関する無作為比較試験(RCT)とP-IV痔核の1患者においてALTA,切除法2群間比較を行う患者選択比較法(PCT)を提案した.脱肛現象,動態,痔核のゴリガー分類(G分類)と本邦の分類についても考察した.
  • 宮本 英典
    2017 年 70 巻 10 号 p. 672-676
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/23
    ジャーナル フリー
    超音波検査は安全で簡単に行える検査であるため,多くの病院や診療所で施行されている.肛門疾患では,肛門周囲膿瘍や痔瘻の診断に加えて痔核や便失禁の診断にも用いられるようになってきた.経会陰アプローチでのcushion:canal比(C:C比),経肛門アプローチでのpower Doppler imaging area(PDI-area)や3D-power Doppler angiography(3D-PDA)などで,肛門管やanal cushionの状態を評価することができる.超音波検査を行うことが,肛門疾患の病状把握と治療法選択の一助になる可能性がある.
  • 田中 良明, 寺田 俊明, 葛岡 健太郎, 最上 恭至, 鈴木 啓一郎, 高石 祐子, 掘 孝吏, 山田 麻子, 中村 浩, 山村 芳弘, ...
    2017 年 70 巻 10 号 p. 677-685
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/23
    ジャーナル フリー
    硫酸アルミニウムカリウム・タンニン酸注射液を用いた注射法(ALTA療法)によって痔核組織の硬化が生じる点に注目し,エラストグラフィ(組織弾性イメージング超音波検査)によるALTA痔核の硬さいわゆる硬結のスタンダードな経時的変化を客観的に検討した.4段階注射法の術中の各段階,マッサージさらに術後1日から36ヵ月におけるALTA痔核の硬さがエラスト像の色調の変化として描出できた.累積27症例では(1)術中および術後1週間における硬さが増強する全例に共通の変化(100%),その後(2)術後2~12ヵ月で硬さが減弱していく症例(80%),一方(3)術後36ヵ月を経過しても硬さが持続する症例(20%)が認められ臨床上2つのパターンの経時的変化の存在が示唆された.
    ALTA痔核の硬さのスタンダードな経時的変化の検討を重ねることが注射手技の向上,治療効果の判定および長期経過などALTA療法の確立の一助になると考える.
  • 山本 裕, 藤井 博史, 三輪 光春, 鹿山 貴弘, 岩川 和秀, 山本 覚, 元井 信, 藤澤 泰憲, 辻 順行, 家田 浩郎, 北川 雄 ...
    2017 年 70 巻 10 号 p. 686-697
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/23
    ジャーナル フリー
    内痔核に対するALTA注四段階注射法における注入薬液の薬物動態と有害事象に関する研究を行った.ALTAにICG(indocyanine green)を混じた薬液を内痔核に注入し,赤外観察カメラシステムを用いて,注入薬液の薬物動態を蛍光像として可視化した.次に,内痔核組織から離れた部位で蛍光を発する組織を採取し,組織内微量アルミニウムの検出法である ルモガリオン染色を行うと陽性であり,ALTA注後に発生した臀部蜂窩織炎の切除組織が ルモガリオン染色で陽性を示した.また,ALTA注とICG液の粒子径を測定した.その結果,内痔核に投与された両薬液は,ともにアルブミンの体内動態に一致することが推測された.以上の結果から,内痔核に注入したALTA注薬液は,想定を超えて内痔核組織外に広範囲に拡散して薬理効果を発現し,有害事象発症に関与している可能性が示唆された.
編集後記
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