日本大腸肛門病学会雑誌
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75 巻, 5 号
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総説
  • 瀧上 隆夫, 嶋村 廣視, 根津 真司, 鈴木 健夫, 谷浦 允厚, 中村 峻輔, 藤本 卓也, 竹馬 彰, 竹馬 浩, 森谷 行利
    2022 年 75 巻 5 号 p. 199-217
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/27
    ジャーナル フリー

    痔瘻の成因は,今ではcrypt-glandular infection theoryが定説であり,治療の原則は原発口(anal crypt),原発巣(anal gland, primary lesion)の完全除去である.痔瘻の原発巣に対する考え方も,坐骨直腸窩痔瘻では従来のanal crypt─内外括約筋間─Courtney's space(原発巣)の考えから新しい概念,後方深部隙(PDS)の存在の提唱により大きく変わった.

    痔瘻の初発症状の直腸肛門周囲膿瘍は,診断すれば抗血栓薬の服用の有無,基礎疾患の有無にかかわらず,即,切開排膿が原則である.排膿後の痔瘻への移行状態をみて手術を決める.痔瘻手術の基本は開放術式であるが,前方,側方のものは肛門括約筋の損傷を考慮して術式を決める必要があり,根治性,肛門機能温存のバランスを重視した術式を選択することが大切である.

原著
  • 楠 誓子, 三代 雅明, 高橋 佑典, 三宅 正和, 宮崎 道彦, 加藤 健志
    2022 年 75 巻 5 号 p. 218-222
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/27
    ジャーナル フリー

    欧米では肛門管扁平上皮癌に対する標準治療は化学放射線療法(CRT)とされているが,本邦ではCRTの治療成績についての報告は少ない.当科では2008年1月からCRTを標準療法としており,2019年2月までに肛門管扁平上皮癌と診断した17例に対するCRTの短期・長期治療成績を検討した.Grade3以上の有害事象は,骨髄抑制(47.1%),下痢(5.9%),放射線性皮膚炎(53.0%)であった.13例は無再発であったが4例で局所再発を認めた.4例中3例にはサルベージ手術を1例には組織内照射を行い,2例は現在も無再発生存中である.局所再発を認めた2例はヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染を合併しており,ともに予後不良であった.3年無病生存率は76.5%,3年全生存率は88.2%であった.肛門管扁平上皮癌に対するCRTは安全に施行可能であり,長期成績についても認容される結果であることが示唆された.

臨床研究
  • 木村 聖路, 山岸 晋一朗, 福田 眞作
    2022 年 75 巻 5 号 p. 223-231
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/27
    ジャーナル フリー

    低異型腺腫4,564病変,高異型腺腫844病変,粘膜内癌443病変,T1癌173病変,T2癌108病変の合計6,132病変を直腸病変(R群),結腸病変(C群)に分類した.R群とC群の比率は低異型腺腫では14.8%,85.2%,高異型腺腫では22.4%,77.6%,粘膜内癌では37.9%,62.1%,T1癌では39.9%,60.1%,T2癌では37.0%,63.0%であった.粘膜内病変では悪性度が高くなる毎にR群の比率が上昇したが(p<0.0001),浸潤癌になると不変だった.腺腫,粘膜内癌5,851病変の臨床病理学的比較ではR群はC群よりも有意に大きく,広基性の隆起型で,絨毛成分を含み,異型度と担癌率が高かった(p<0.001).浸潤癌281病変ではサイズ,形態,深達度,組織型に相違を認めなかった.

    直腸は結腸に比べて悪性度の高い粘膜病変を生じやすいが,粘膜下層に浸潤するとその特徴は失われた.

  • 三宅 亨, 清水 智治, 植木 智之, 小島 正継, 谷 眞至
    2022 年 75 巻 5 号 p. 232-236
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/27
    ジャーナル フリー

    【背景】下部直腸は解剖学的な空間制限があり経腹的なアプローチでは難易度が高い.TaTMEは下部直腸に対して近傍から操作が可能であるが,尿道損傷など合併症の危険性もある.

    【手術手技】腹腔鏡と経肛門的アプローチを2チームで定型化した手技で行う.肛門側切離線は腸管内腔から決定する.肛門側の気圧は15mmHgで行い,出血によるCO2塞栓に注意する.Transanal platformは内視鏡固定機とコネクターを介して固定する.双方向から立体的な緊張を加え腫瘍からの断端距離を確保する.

    【結果】当科で2015年から2020年において直腸癌に対しTaTMEを施行した26症例について検討した.直腸癌が24例,直腸癌再発が2例であった.合併症は骨盤内膿瘍4例(15%)が最も多く,尿道損傷は認めなかった.

    【結語】定型化した手技による双方向手術により,尿道損傷など重篤な合併症を回避した手術が可能であった.

症例報告
  • 大坊 侑, 諏訪 宏和, 佐藤 清哉, 後藤 晃紀, 諏訪 雄亮, 渡邉 純
    2022 年 75 巻 5 号 p. 237-241
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/27
    ジャーナル フリー

    症例は45歳,男性.右臀部の腫脹を自覚し近医を受診した.腹部造影CT検査および骨盤部造影MRIにて坐骨直腸窩に最大径180mmの嚢胞性腫瘤を認めた.坐骨直腸窩嚢胞性腫瘍の診断で,経会陰的アプローチにて腫瘍摘出術を施行した.腫瘍は病理組織検査にてdermoid cystと診断した.合併症なく術後7日目に自宅退院となり,術後1年6ヵ月経過した現在,明らかな再発を認めていない.dermoid cystは頭蓋,縦隔,膵,後腹膜,仙尾骨部など,全身の様々な臓器に発生しうる腫瘍で,稀に悪性例を認めることから外科的切除が必要となる.消化器外科領域におけるdermoid cystの報告は,仙骨前面に発生した骨盤内のものが散見されるが,骨盤外である坐骨直腸窩に発生した報告は本邦では1例もなく,自験例が初であった.極めて稀なdermoid cystの切除例を経験したと考えられたため,若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 塩澤 秀樹, 安達 亙, 小松 修, 太田 浩良
    2022 年 75 巻 5 号 p. 242-246
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/27
    ジャーナル フリー

    症例は79歳男性.主訴は脱肛.直腸指診,肛門鏡および大腸内視鏡検査で肛門7時方向に表面平滑な球状の柔らかい褐色の大きな腫瘤を認めた.MRI検査で内部壊死を認めない6cm大の線維性腫瘤と診断された.巨大な線維性肛門ポリープと術前診断し,腰椎麻酔下に切除した.腫瘤は6.0×3.8×3.5cmで,病理組織学的にはCD34陽性の間質細胞が豊富な線維性肛門ポリープと診断された.4cmを超える線維性肛門ポリープは稀であるため,報告例を集計し自験例を含めた7症例を比較検討した.大きな線維性肛門ポリープの多くは有症状で孤立性であり,長い病悩期間を有していた.本例のように褐色調で柔らかいポリープの報告例も認められた.

  • 小野 李香, 富永 哲郎, 野中 隆, 森山 正章, 小山 正三朗, 石井 光寿, 濱崎 景子, 荒井 淳一, 澤井 照光, 永安 武
    2022 年 75 巻 5 号 p. 247-251
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/27
    ジャーナル フリー

    背景:脳転移を伴う大腸癌は極めて予後不良である.今回,上行結腸癌同時性脳転移術後再発に対してPembrolizumabで長期完全奏効を得ている症例を経験した.

    症例:70歳女性.左上肢の痙攣を主訴に近医を受診した.全身精査で右前頭葉腫瘍と上行結腸壁肥厚を認め当院紹介.下肢麻痺が進行し緊急開頭腫瘍切除を施行し病理検査で大腸癌脳転移と診断された.その後の精査で,回盲部に全周性の2型病変,周囲リンパ節の腫大を認め,上行結腸癌cT4aN2bM1a(brain)cStageIVの診断で腹腔鏡下右半結腸切除を施行した.術後5ヵ月目に後腹膜再発をきたした.遺伝子検査でMSI-Hが判明し,Pembrolizumabを開始したところ,腫瘍マーカーは速やかに正常化し,再発巣の著明な縮小を認めた.再発後1年のPET-CTでは集積も消失し完全奏効と判定した.現在,再発後1年9ヵ月の経過で無増悪生存中である.

  • 中西 亮, 筒井 敦子, 田中 寛人, 萩原 千恵
    2022 年 75 巻 5 号 p. 252-255
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/27
    ジャーナル フリー

    症例は74歳,女性.貧血の精査目的に近医を受診した.下部消化管内視鏡検査で上行結腸に半周性の2型病変を認め,生検では低分化腺癌を認めた.手術目的に当院を受診し,腹腔鏡下結腸切除術を施行した.術前3D-CT angiographyでは回結腸動脈と回結腸静脈の分岐レベルの高さが異なっており,術中所見も同様であった.上腸間膜動脈の分岐形態およびその分枝の走行に言及した報告は散見されるが,回結腸動脈と回結腸静脈の分岐レベルの高さが異なるという報告は今までされておらず,極めてまれである.今回われわれは回結腸動脈と回結腸静脈の分岐レベルの高さが異なることを術前検査にて把握することで術中に血管の誤認や損傷などせず安全に手術治療を行うことができたので文献的考察を加え報告する.

編集後記
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