日本大腸肛門病学会雑誌
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47 巻, 2 号
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  • 吻合部口側結腸における経時的変化に着目して
    栗原 浩幸
    1994 年 47 巻 2 号 p. 121-132
    発行日: 1994年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    低位前方切除術後の排便障害の病態生理を解明する目的で,吻合部口側結腸に着目して,経肛門的にそのコンプライアンス,壁筋電図,組織血流量を臨床例において経時的に測定し,問診より得た排便指標との関連性について検討した.術後の排便指標や排便満足度は,術後6ヵ月までは経時的に有意な改善を示し(p<0.01),また吻合部口側結腸のコンプライアンス,壁筋電図の連続的スパイク群発型波形(CSB)出現度も経時的に有意な改善を示した(p<0.001).コンプライアンスやCSB出現度の変化は排便満足度や排便指標と密接に相関しており,これらの生理学的因子の改善が術後の排便状況の改善に関与することが示唆された.なお結腸壁組織血流量は術後減少するものの経時的な改善は認められず,術後排便状況の経時的改善との関連は認められなかった.またとくに結腸肛門吻合術での一時的なcovering stomaの造設は,術後早期の劣悪な排便状況を避ける意味から有用と考えられた.
  • 転移の頻度と郭清の成績
    塩田 吉宣, 太田 博俊, 上野 雅資, 関 誠, 堀 雅晴, 西 満正, 柳沢 昭夫, 加藤 洋
    1994 年 47 巻 2 号 p. 133-139
    発行日: 1994年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    1946年より88年までに癌研外科で手術された単発直腸癌根治術1124例のうち側方リンパ節郭清が行われた514例について転移の頻度ならびに,その治療成績について検討した.側方リンパ節転移陽性例は23.9%(123/514例)であった.側方転移陽性率はとくに,壁深達度の深いもの(p<0.01),歯状線からの距離の短いもの(p<0.01),および上方向転移を有するもの(p<0.01)で有意に高かった,側方転移陽性101例の5年生存率は,32.7%であったが,側方陽性でも上方向転移陰性の場合は61.5%と良好であった.また側方転移陽性例でも壁深達度が浅いものでは治療成績がよく,とくにpmまでのものは5生率75.0%と予後良好であった.以上より,腫瘍下縁が歯状線から6.0cm以内で,深達度ss,a1以深の症例,とくに上方向転移陽性のものでは側方郭清が必要と考えられた.またpm癌でもDL上4cm以下の症例で,術前検査で側方転移の疑われる場合には,少なくとも片側の積極的な郭清が望まれる.
  • 高野 正博, 坂上 亮子, 福島 ゆかり, 鹿毛 政義
    1994 年 47 巻 2 号 p. 140-151
    発行日: 1994年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    痔核の硬化剤として現在5% phenol-almond oil (PAO)が使用されているが,適応が内痔核I~IIに止まり,長期効果が得られない症例もあり,新しい薬剤の開発が期待されている.そこで今回ラットの直腸粘膜下に薬剤を投与して現在食道静脈瘤の治療に用いられている5% ethanolamine oleate, 1% polidocanol,国内開発中のOC-108とPAOの効果を比較検討した.その結果,組織的所見は薬剤投与後21日目まで壊死,浮腫、細胞浸潤、潰瘍形成,新生血管,線維芽細胞,線維化は各薬剤間で有意な差は認められなかった.しかしOC-108のみ薬剤投与後21日目から9週間までの間で類上皮細胞性肉芽腫の形成がみられた,この肉芽腫は将来瘢痕組織に変化する可能性が高く,OC-108は痔核の治療に有効であると考えられた.
  • 王 奇明, 福島 恒男, 原田 博文, 浜口 洋平, 杉田 昭, 石黒 直樹, 小金井 一隆, 嶋田 紘, 稲山 嘉明
    1994 年 47 巻 2 号 p. 152-156
    発行日: 1994年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    Crohn病に合併した虫垂癌の1例について報告した.症例は35歳,男性で,1985年に大腸型のCrohn病と診断され,以来サラゾピリンの内服治療で経過を観察していた.1991年8月悪心,嘔吐を主訴として来院した.回盲部腫瘤と診断され,開腹手術を行った.cecumに癒着して一塊となった手挙大の虫垂腫瘤を認めた.盲腸にも全周性狭窄がみられ,虫垂と盲腸内にはjelly状の物質が充満していた.虫垂結腸内に粘液が貯留した.虫垂原発の粘液癌と診断された,(H0 P3 N2 S2 stage IV).回盲部切除より11カ月目に再発性腹膜炎により死亡した.
  • 本邦報告124例の文献的検討
    佐々木 賢二, 國友 一史, 大西 隆仁, 古川 勝啓, 寺嶋 吉保, 古味 信彦
    1994 年 47 巻 2 号 p. 157-164
    発行日: 1994年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    S状結腸憩室炎に起因したS状結腸膀胱瘻を経験した.症例は38歳の男性で,終末時排尿痛,気尿,糞尿を主訴に来院した.注腸検査にてS状結腸に散発性の憩室を認め,静脈性腎孟造影にて膀胱左側壁から頂部にかけて不整形の陰影欠損を認めたが,瘻管は造影されなかった.1%ガストログラフィン150mlを膀胱内に注入し,5mm間隔で骨盤CT検査を施行したところ,膀胱から腫瘤内を通過し腸管に向かう瘻管が確認できた.一期的瘻管,S状結腸部分切除,膀胱部分切除にて根治できた.近年,大腸憩室症は増加しており,合併症として本症の増加が予想される.本症の本邦報告123例に自験例を加えて報告する.
  • 長畑 洋司, 安積 靖友, 川北 直人, 和田 哲成, 山本 正博
    1994 年 47 巻 2 号 p. 165-169
    発行日: 1994年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    症例は53歳の女性.1991年2月右下腹部痛を自覚して近医を受診し,注腸検査で回盲部に潰瘍性病変を認め,外来でfollow upしていたが,1993年3月中旬から右下腹部痛が増強するとともに腫瘤を触知するようになった.精査の結果,回盲弁に騎乗する下掘れ性の円形潰瘍を認め,CT・MRI検査では回盲部腸管がほぼ全周性に壁肥厚しており,血管造影検査では回結腸動脈領域の新生血管増生を認めたが広狭不整等の悪性所見は見られなかった.2年間の経過で回盲部の狭窄が著しく進行していたため手術適応ありと判断し,回盲部切除術を施行した.回盲部単純性潰瘍は比較的まれで,他の回盲部疾患との鑑別診断が重要であるが,とくに腸型べーチェット病との鑑別は困難で,内科的治療に抵抗し手術後の再発も高率で充分な経過観察が必要とされている.
  • 伴登 宏行, 横山 浩一, 山田 哲司
    1994 年 47 巻 2 号 p. 170-173
    発行日: 1994年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    1992年Nakamuraらが粘膜筋板の増殖,粘膜固有層の炎症性肉芽組織,腺窩の過形成を特徴とする大腸ポリープをinflammatory myoglandular polypと命名し,報告した.今回われわれはこれに相当する直腸ポリープを経験したので報告した.症例は51歳,男性.主訴は肛門出血・大腸内視鏡検査で直腸(Rb)前壁に表面平滑で,発赤し,分葉した有茎性のポリ-プを認めた.内視鏡的ポリペクトミーを施行した,大きさは10×6×5mmであった.病理組織学的所見では粘膜筋板は樹枝状に増殖していた・粘膜固有層には種々の程度の炎症があり,肉芽組織がみられた.大腸腺は拡大,延長,分岐など過形成を示す部や,逆に小型腺を形成する部など多彩であった.鑑別すべき疾患にはjuvenile polyp, Peutz-Jeghers polyp, mucosal prolapse syndromeなどがある.
  • 井上 雄志, 草野 佐, 小沢 俊総, 矢川 彰治, 植竹 正紀, 野方 尚, 小俣 好作
    1994 年 47 巻 2 号 p. 174-177
    発行日: 1994年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    症例は58歳,女性で,1991年5月より下血出現大腸内視鏡にてS状結腸癌の診断で手術目的で入院した.家族歴には大腸癌等の悪性疾患は認められなかった.注腸造影でS状結腸下行結腸,横行結腸に合計6病変認め,多発癌の診断で結腸亜全摘術施行した.切除標本では合計8病変認めた.そのうち5個癌病変を認め,同時性5多発大腸癌であった.癌の肉眼的分類は肛門側より1+2型,2型,Ip型,2型,Ip型であり,壁深達度はそれぞれss,ss,m,ss,smと進行癌3個,早期癌2個であった.現在まで術後2年経過したが再発,異時性多発癌の発生は認めず生存中である.
  • 本邦報告例の文献的考察
    湖山 信篤, 飯田 富雄, 蒲谷 堯, 渕之上 真澄
    1994 年 47 巻 2 号 p. 178-182
    発行日: 1994年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    症例は63歳,女性.急性虫垂炎の診断で開腹し,虫垂切除術兼ドレナージ術を施行した.病理学的診断は虫垂杯細胞カルチノイドで,その末梢側に穿孔を認めた.切除断端に腫瘍細胞の浸潤はなく,壁深達度ssであったが,炎症が強く,周囲組織と癒着し,剥離面に不安を残したこと,また脈管侵襲陽性で,悪性の性格を持った腫瘍とされていることを考慮し,追加手術としてリンパ節廓清を伴う右半結腸切除術を行った.再切除標本には腫瘍の遺残,およびリンパ節転移はなかった.術後経過は良好で,3カ月後の現在まで再発の徴候はなく経過観察中である.虫垂杯細胞カルチノイドは自験例を含め,30例の本邦報告例をみる.それらの症例を集計し,臨床病理学的検討を行った.
  • 西山 保比古, 中 英男, 三富 弘之, 国場 幸均, 工藤 康生, 大谷 剛正, 比企 能樹, 柿田 章
    1994 年 47 巻 2 号 p. 183-188
    発行日: 1994年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    症例は49歳の男性で,左下腹部痛と同部の腫瘤触知,便通の狭小化を主訴に来院した.大腸内視鏡検査ではS状結腸に,分葉状で,中心陥凹を有する腫瘤を認め,3型の大腸癌を疑い内視鏡下生検が施工された.生検組織は4カ所より採取されたが,すべて腺管絨毛腺腫との病理診断で悪性所見は認められなかった,しかし,画像診断では膀胱浸潤を伴った約10cm大の進行癌と診断され,高位前方切除,膀胱部分切除が施行された.摘出標本では10×14cm大の腫瘍塊で,表面は結節状,乳頭状で一部に不整陥凹面がみられた.病理組織学的に腫瘍組織は比較的整った腺管を形成し,細胞異型は乏しいが,深部浸潤が漿膜下層まで達していることからきわめて分化した腺癌と診断した.
  • 泉 信行, 河合 達, 南 俊二, 野村 栄治, 馬渕 秀明, 黒川 彰夫
    1994 年 47 巻 2 号 p. 189-194
    発行日: 1994年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    家族性大腸腺腫症(famillial adenomatosis coli,以下FACと略す)は,そのまま放置すればきわめて高率に大腸癌が発生する.したがって,その治療は当然全結腸切除に準じた手術を行うことが提唱されている.今回われわれは,54歳の女性に汎発性腹膜炎の緊急手術を施行した際,盲腸と直腸の多発癌を認め,右半結腸切除術・腹会陰式直腸切除術を行い,下行結腸人工肛門を造設,術後の検索にてFACと判明したが,患者の拒否にて結腸の残存を余儀なくされていたところ,8年後に残存した結腸の人工肛門粘膜より大腸癌が多発した症例を経験した.このことから,残存結腸粘膜には一様に発癌の可能性があると考えられるのにもかかわらず,人工肛門部の粘膜に癌が多発したのは,何らかの持続的機械的刺激が人工肛門部に作用し,発癌に関与したのではないかと推測された.
  • 増田 亮, 豊島 宏, 武村 民子
    1994 年 47 巻 2 号 p. 195-201
    発行日: 1994年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    全大腸炎型潰瘍性大腸炎15例に対して結腸全摘回腸直腸吻合術を行ったが,これらの術前の臨床経過ならびに肛門側断端の病理学的所見と予後との関連について検討を加えた。直腸病変の再燃による直腸切断術はそれらのうち2例(13.3%)に行われた.結果:(1)術前の臨床的寛解と術後の予後との間にとくに関連は認められなかった.(2)再燃のため直腸切断術が必要となった2症例は発症後5年未満に手術を行った症例で,発症後長い経過を経た後に手術を行った症例の方が良い予後を示す傾向にあった.(3)臨床型と肛門側断端粘膜病理所見からみると2例の切断例は慢性持続型の非萎縮タイプであった.(4)残存直腸の発癌例はなかった.(5)発症後比較的長期の経過を経た直腸粘膜萎縮例が特に本術式の良い適応であると考えられた.
  • 保田 尚邦, 渋沢 三喜, 角田 明良, 中尾 健太郎, 吉沢 太人, 丸森 健司, 張 仁俊, 佐藤 徹, 横川 京児, 河村 正敏, 草 ...
    1994 年 47 巻 2 号 p. 202-206
    発行日: 1994年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    今回われわれは,80歳以上の高齢者大腸癌の特徴を明らかにすべく,80歳以上の高齢者大腸癌手術症例について臨床病理学的に検討した.対象は1984年から1988年までの5年間における当教室で経験した50歳以上の大腸癌手術症例206例とした.また80歳以上の高齢者,70歳台,60歳台,50歳台の4群とした.高齢者群の入院時主症状はイレウス,下血・血便が多く,病悩期間は比較的長かった.高齢者群の57.1%に術前併存疾患が認められた.各年齢別の占拠部位,肉眼型分類,組織型分類,壁深逹度,組織学的Stage分類およびDukes分類では有意な差はみられなかった.高齢者群の55%に術後合併症を生じていた.各年齢別組織学的手術判定では,高齢者群で有意に非治癒切除例が多く認められた.高齢者大腸癌症例においては全身状態に充分注意し,QOLを考慮し,可能な限り非高齢者大腸癌症例と同様に治癒切除をめざすことが治療の向上につながると考えられた.
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