日本大腸肛門病学会雑誌
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72 巻, 2 号
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臨床研究
  • 相川 佳子, 松田 聡, 川上 和彦, 中井 勝彦, 木村 浩三, 野中 雅彦, 尾田 典隆, 新井 賢一郎, 松永 篤志, 今村 茂樹
    2019 年 72 巻 2 号 p. 53-57
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/01/30
    ジャーナル フリー
    保存的治療で改善をしない慢性裂肛患者への局所用カルシウムチャンネルブロッカー軟膏(以下ニフェジピン軟膏)の有効性と安全性に対する検証的臨床研究を行った.慢性裂肛患者40例に対してニフェジピン軟膏を使用し,疼痛(Face Scale;以下FS)と肛門内圧(以下MRP)を評価した.評価対象は32例であった.疼痛FSは,排便時・安静時共に治療前後で有意に低下した.
    手術に移行した症例を無効群,それ以外を有効群とすると,その有効率は87.5%であった.無効群のMRPは有効群に比べ有意に高かったが,治療前後でのMRPの有意な低下は認めなかった.副作用は1例に頭痛を認めた.
    ニフェジピン軟膏の機序として,肛門局所の平滑筋を弛緩させ,MRPを低下させ,創治癒を促進すると考えてきた.しかし,本研究で疼痛の有意な改善を認めたが,MRPは低下しなかったことから,MRP以外に疼痛を改善する要素がある可能性が示唆された.
症例報告
  • 川崎 誠康, 水村 直人, 奧村 哲, 豊田 翔, 安田 洋, 山本 堪介, 伊藤 文, 土橋 洋史, 小川 雅生, 亀山 雅男
    2019 年 72 巻 2 号 p. 58-64
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/01/30
    ジャーナル フリー
    79歳女性,主訴は右殿部腫瘤.嚢胞性虫垂腫瘤が右後腹壁から殿部皮下に進展し,全体で17×14cmの巨大な腫瘍を呈していた.非治癒因子はなく,回盲部切除に加えて整形外科・形成外科と連携して腹壁・腸骨・中殿筋の合併切除と,広範な腹壁欠損に対する筋皮弁充填/皮膚移植を行った.最終診断は虫垂粘液癌StageIICで補助化学療法は施行せず術後フォローアップを行った.4年3ヵ月経過現在無再発であり,高いQOLを保ち続けている.虫垂粘液癌は高度進行であっても治癒切除が施行されれば長期生存が望まれ,また腹壁の切除が必要な症例でも再建により良好なQOLを保つことが可能である.他科と連携した積極的な手術治療を目指すべきであると考えられた.
  • 上田 正射, 池永 雅一, 太田 勝也, 千原 剛, 安井 昌義, 能浦 真吾, 富永 修盛
    2019 年 72 巻 2 号 p. 65-70
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/01/30
    ジャーナル フリー
    症例は60歳代の男性で,腹痛,嘔吐を主訴に当科受診した.腹部造影CTで盲腸と連続した80×65×60mmの腫瘤,多発肝転移と腹膜播種を認めた.回盲部腫瘤を起点として腸閉塞を認めた.経鼻イレウス管留置後,第6病日に双孔式回腸人工肛門造設術+腫瘍生検を施行した.病理検査所見では,N/C比の高い腫瘍細胞を認め,上皮性マーカー,神経内分泌マーカーが陽性であり,神経内分泌癌(neuroendocrine carcinoma;NEC)と診断された.以後,大腸癌治療ガイドラインに準じFOLFOX+bevacizumab療法を施行したが奏効せず,初診より122日目に原病死した.大腸原発のNECは比較的稀で,予後不良な組織型である.治療ガイドラインは確立していないが,手術と化学療法をあわせた集学的治療が必要とされる.多発性肝転移,腸閉塞を呈した回盲部原発のNECを経験したので文献的考察を加えて報告する.
  • 山本 学, 平田 敬治, 恒吉 正澄, 豊永 敬之, 壬生 隆一
    2019 年 72 巻 2 号 p. 71-75
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/01/30
    ジャーナル フリー
    われわれは肛門周囲Paget spreadを伴った肛門腺由来と思われる肛門管癌を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.
    症例は54歳の女性で,排便時出血を主訴に外来受診.直腸肛門診にて肛門管内に腫瘤を認め,さらに肛門周囲に発赤・びらんを伴っていた.肛門粘膜生検にて低分化粘液癌と診断されたため,腹腔鏡下直腸切断術を施行した.術後病理診断で腫瘍および肛門周囲に認めたびらんから低分化粘液癌を認め,Pagetoid spreadを伴っていた.
    文献上,肛門周囲のPagetoid spreadを伴った直腸・肛門管癌の本邦報告例は,本例を含め42例であった.その42例をもとにその特徴を検討した.
  • 塩井 生馬, 山崎 俊幸, 上原 拓明, 宮城 良浩, 岩谷 昭
    2019 年 72 巻 2 号 p. 76-81
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/01/30
    ジャーナル フリー
    今回われわれは大腸癌術後に恥骨骨髄炎を呈した稀な1例を経験したため報告する.症例は61歳男性.進行上部直腸癌および早期下行結腸癌の診断にて腹腔鏡下低位前方切除術ならびに左半結腸切除術を施行した.術後に下行結腸癌病変の遺残が判明し,術後4ヵ月目に遺残病変に対して開腹超低位前方切除術を施行した.手術時に恥骨上縁までの切開を行ったが恥骨の露出はなかった.術後10日目に創部下端のSSIを認めたが排膿のみで軽快した.術後4週目に両鼠径部痛,歩行困難の訴えがあり,CT上恥骨の骨破壊所見が認められた.恥骨骨髄炎を疑い抗生剤の投与を開始したが増悪傾向を認めたため,速やかに骨掻爬術を施行した.抗生剤による加療を追加し術後35日目に退院した.
    恥骨骨髄炎は稀ではあるが,進行例では歩行困難や骨融解を呈する場合があり注意を要する.大腸癌術後の恥骨周囲症状では稀ではあるが恥骨骨髄炎を鑑別に診断治療を行う必要がある.
  • 河野 洋一, 松島 誠, 黒水 丈次, 鈴木 和徳, 鈴木 裕, 岡本 康介, 深野 雅彦, 宋 江楓, 下島 裕寛, 松村 奈緒美, 杉田 ...
    2019 年 72 巻 2 号 p. 82-87
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/01/30
    ジャーナル フリー
    肛門疾患術後早期に血小板数が1万未満に減少した2例を経験したので報告する.症例1は35歳の男性.痔核根治手術の術後4日目に血小板数が0.5万と著明な減少を認めたため投与中の薬剤を中止し,血小板輸血を施行した.翌日には血小板数が上昇し,その後25.6万と回復した.症例2は62歳の男性.痔瘻根治手術の術後5日目に血小板数が0.8万と著明な減少を認めたため投与中の薬剤を中止し,血小板輸血により翌日には血小板数が上昇し,その後27.1万と回復した.2症例とも薬剤性血小板減少症疑いと診断した.血小板減少は抗菌薬・鎮痛剤・胃潰瘍薬・降圧剤でも起こりえることは知っておく必要がある.
  • 田中 香織, 小島 則昭, 西科 琢雄
    2019 年 72 巻 2 号 p. 88-92
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/01/30
    ジャーナル フリー
    虫垂憩室炎は比較的まれな疾患であるが,画像診断技術の向上により術前診断可能な症例も増えてきている.今回われわれはCTにて多房性嚢胞状腫大を呈し,虫垂嚢胞性腫瘍との鑑別に苦慮した虫垂憩室炎を2例経験したため報告する.症例1は43歳,女性.症例2は40歳,男性.ともに右下腹部痛を主訴に受診した.CTにて虫垂は嚢胞を多数有する多房性嚢胞状腫大を認めた.腫瘤形成性虫垂炎と診断したが,虫垂嚢胞性腫瘍を否定できなかったため,保存的治療を優先した.症例1は治療開始後37日目に虫垂切除術を施行した.症例2は治療開始後11日目にリンパ節郭清を伴う回盲部切除を施行した.摘出標本では虫垂に仮性憩室が多発しており,虫垂憩室炎と診断した.虫垂憩室症の特徴的なCT所見としては,虫垂より突出した憩室や虫垂周囲にair像を認めることとされる.多房性嚢胞状腫大を呈した虫垂憩室炎の報告は少なく,文献的考察も加えて報告する.
  • 川島 市郎, 岡本 亮, 村澤 哲也, 松田 直樹
    2019 年 72 巻 2 号 p. 93-97
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/01/30
    ジャーナル フリー
    症例は70代女性,肛門周囲のかゆみとガス漏れを主訴に当院の肛門外来を受診.肛門診で,10時から2時の肛門管内から肛門縁にかけて,径2~4cmの疣状隆起を発見.皮膚生検にてBowen病と診断される.手術は広範囲切除を行い,術後肛門狭窄が危惧されたため大陰唇横転皮弁で欠損部を補った.切除断端の陰性を確認できた.病理診断もBowen病であった.術後,脱肛と便失禁が一時的に悪化したため,脱肛には痔核硬化療法4段階注射法を施行し,肛門周囲炎にはスキンケア指導を行い愁訴は改善した.肛門部に発生したBowen病の1例を経験した.肛門部の皮膚腫瘍の治療は,肛門部悪性腫瘍の治療に習熟した各科の医師の協力の下で行う必要がある.
編集後記
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