直腸下部より肛門部にかけての早期癌は発生部位の解剖学的特異性から,より口側の大腸癌とはかなり異なった性格を示し,治療の面でもまた特殊な手法を要する.
直腸下部~肛門部にかけて上皮は1.粘膜(単層円柱上皮)2.いわゆるcloacogenic zone(数層の立方上皮)3.肛門上皮(角化,付属器を欠く重層扁平上皮)4.皮膚,と四帯の移行がみられ,また歯状線上には肛門腺(数層の立方~柱上皮)が開口している.これら複雑な上皮から,病理学的にみて種々の癌が発生してくる可能性がある.
直腸下部~肛門部早期癌の定義としては,大腸早期癌に準じて,大腸の粘膜筋板が移行してくる肛門粘膜下筋(musculus submucosae ani)までの浸潤に止まるもの,として良かろう.
直腸下部~肛門部早期癌は,上皮と下部組織との移動性が少なく,括約筋により締め付けられ,便で擦過される,という環境から,我々の例では扁平隆起型で,肛門外へ脱出する傾向が少ない.villous adenomaの悪化した例も少なくない.
治療として,広範囲切除術では人工肛門造設が避けられない部位であるだけに,術前total biopsyを行い,組織学的に十分検討を行ない,なるべく括約機能を最低限に残した局所切除を行なう様に努める.しかし,3.0×3.0cmの小型進行癌で広範囲切除を行なうも全身転移で死亡した例もあり,術式については慎重な判断が必要である.
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