日本大腸肛門病学会雑誌
Online ISSN : 1882-9619
Print ISSN : 0047-1801
ISSN-L : 0047-1801
71 巻, 10 号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
主題I:大腸癌に対する化学療法の進歩と最近の話題
  • 島田 安博
    2018 年71 巻10 号 p. 371-379
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/25
    ジャーナル フリー
    切除不能大腸癌に対する一次治療の最近の進歩について概説した.FOLFOX,FOLFIRIに分子標的薬の併用が基本であるが,原発部位により予後が異なること,併用する分子標的薬により予後が影響を受ける可能性があることが報告されているが,臨床導入についてはさらなる検討が必要である.FOLFOXIRI+BEVについては高い有効性が示されているが,高度の血液毒性を伴うため今後適応となる対象の絞り込みや投与量の検討が必要である.長期予後の改善とともに,一次治療での臨床効果をいかに長期に維持するかが必要であり,治療法変更については,画像診断,腫瘍マーカーのみならず,臨床症状の変化にも注意して,適切な時期に治療変更を行うことが重要である.化学療法の進歩が予後改善に貢献したことは事実であり,新薬も含めた新しい治療開発とともに,現在の治療内容に精通し,最大限の効果を目指すことが必要である.
  • 杉本 直俊
    2018 年71 巻10 号 p. 380-386
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/25
    ジャーナル フリー
    2018年現在,本邦においては転移性大腸がん二次化学療法おける分子標的薬剤として,3種類の抗VEGF抗体(ベバシズマブ,ラムシルマブ,アフリベルセプト)と2種類の抗EGFR抗体(セツキシマブ,パニツムマブ)が使用可能である.抗EGFR抗体併用化学療法はベバシズマブ併用化学療法を上回ることはできず,その使用は早期腫瘍縮小が必要な対象に限られる.抗VEGF抗体の使い分けについては,直接比較したデータはないため,有効性のみならず有害事象,医療コスト,患者希望などを総合的に判断して選択することが望ましい.
  • 奥山 浩之, 大北 仁裕, 辻 晃仁
    2018 年71 巻10 号 p. 387-392
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/25
    ジャーナル フリー
    切除不能大腸がん患者に対するサルベージラインとして,Regorafenibや,FTD/TPIなどの新規薬剤が登場したことにより,薬物療法の選択肢は大きく広がった.近年は,これらの薬剤をより安全で有効に使用するための投与量や投与順序の工夫,また前方ラインで使用した薬剤の再導入の試みやさらなる治療効果を目指した併用療法の検討も始まっている.これに加えて免疫チェックポイント阻害薬をはじめとした次世代の治療開発も行われており,今後さらなる治療成績の向上が期待される.
  • 植村 守, 加藤 健志, 三宅 正和, 宮崎 道彦, 関本 貢嗣
    2018 年71 巻10 号 p. 393-405
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/25
    ジャーナル フリー
    StageIII結腸癌に対する術後補助化学療法は,種々の臨床試験を経て意義が確立され,本邦のガイドラインにも標準治療として明記されている.
    治療レジメンに関してはオキサリプラチン(OX)の上乗せ効果が示されて以降は,ベバシズマブやセツキシマブといった分子標的治療薬の上乗せ効果が否定され,新たな治療レジメンの早期確立は難しい現状である.
    OX併用レジメンの有用性が示された一方,末梢神経障害の発現が臨床上大きな問題になっており,補助化学療法の有効性を担保しつつ,治療期間を短縮し有害事象の負担軽減のためにIDEAが計画され,補助化学療法が開始より3ヵ月経った時点で,治療レジメンや再発リスクによっては,治療を終了させたり,OXを中止させたりする根拠になり得る結果であった.
    また,IDEA試験の結果に示されたように,結腸癌術後補助化学療法における個別化医療の重要性が明らかになってきている.
  • 室 圭
    2018 年71 巻10 号 p. 406-416
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/25
    ジャーナル フリー
    癌領域に免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が登場したことにより,現在,各癌種の治療体系は大きな変貌を遂げた.とくに悪性黒色腫や非小細胞肺癌では一次治療の標準治療を塗り替えるほどのパラダイムシフトが起きている.大腸癌を含むMSI-HもしくはdMMR固形腫瘍においても同様であり,ICIは極めて高い効果を示し,ICI単独療法では低毒性であり,効果とのバランスにおいて有望な治療法として確立した.治療に先立ちMSIもしくはdMMR検査を行う際には,事前に本検査がリンチ症候群のスクリーニングにもなりえる点を説明し,陽性であった場合には遺伝カウンセリングと確定診断のための遺伝学的検査(自費診療)への対応が必要となることを想定した体制整備が求められることに留意すべきである.
  • 高橋 孝夫, 松橋 延壽, 吉田 和弘
    2018 年71 巻10 号 p. 417-424
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/25
    ジャーナル フリー
    本邦にて大腸癌に用いる分子標的薬としてベバシズマブ(抗VEGF抗体薬),セツキシマブ/パニツムマブ(抗EGFR抗体薬),そしてレゴラフェニブ,ラムシルマブ,アフリベルセプトが使用されている.Precision Medicineにて,各遺伝子異常をターゲットとした新規分子標的薬の開発が進んでいる.大腸癌に関しては,特にHER2とBRAFを標的としたHER2,BRAF,MEKに対する分子標的薬の有効な結果がでている.HER2陽性KRAS野生型大腸癌に対してHER2の2重ターゲット療法が有効な治療であることが報告された.また,BRAF V600E遺伝子変異陽性大腸癌に対し,BRAF阻害剤+抗EGFR抗体薬+MEK阻害剤の3剤併用療法が有効であることが報告された.遺伝子異常別にそれらを標的とした治療の開発が今後更に進み,個々の患者にあった個別化治療を行うことで,更なる治療成績の向上を期待したい.
  • 山田 岳史, 小泉 岐博, 進士 誠一, 松田 明久, 高橋 吾郎, 岩井 拓磨, 武田 幸樹, 横山 康行, 原 敬介, 金沢 義一, 松 ...
    2018 年71 巻10 号 p. 425-434
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/25
    ジャーナル フリー
    本稿では,分子生物学的分類であるConsensus Molecular Subtype(CMS),新たな分子生物学的診断法であるLiquid biopsy,そして分子生物学的検査から個別化治療を推進するSCRUM-Japanの取り組みについて概説する.Liquid biopsyにはCirculating tumor cells(CTC)やcirculating tumor DNA(ctDNA),exosomeに含まれたmicroRNAが用いられる.CTC数やctDNA量などのMolecular volumeは腫瘍量を反映し,その増減により治療効果をモニタリングできる.術後のCTCやctDNAの存在は術後再発危険因子である.原発巣と転移巣の分子プロファイルは異なることがあるため,Liquid biopsyを用いたHeterogeneityの把握は分子標的薬の効果予測に有用である.
主題II:感染性腸炎―up to date―
  • 後藤 哲志
    2018 年71 巻10 号 p. 435-446
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/25
    ジャーナル フリー
    市中感染性下痢症には食中毒と散発性下痢症が含まれ,両者で病原体の多くが共通する.細菌性ではカンピロバクター属,ウェルシュ菌,サルモネラ属,腸炎ビブリオ,下痢原性大腸菌が代表的で夏季に多い.ウイルス性ではノロウイルスとロタウイルスが代表的であり冬季に多い.旅行者下痢症は細菌性が約8割,寄生虫性,ウイルス性がそれぞれ約1割を占める.下痢原性大腸菌,カンピロバクター属の頻度が高い.他にジアルジア,赤痢菌,コレラ菌,チフス菌,パラチフスA菌などが重要である.本稿ではこれらの疾患の概要と動向について解説した.
  • 前畠 裕司, 江崎 幹宏
    2018 年71 巻10 号 p. 447-455
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/25
    ジャーナル フリー
    腸結核は,結核菌が消化管や近傍のリンパ節へ感染することで発症する腸管の炎症性疾患である.近年は減少傾向にあるものの,今なお年間約250例が診断されている.確定診断には,培養や組織学的検査による結核菌ないし乾酪性肉芽腫の証明が必要であるが,いずれの検査も陽性率は高くない.一方,インターフェロンγ遊離試験は高い感度と特異度を示すことから本症の補助診断としての有用性が示唆されている.典型例のX線・内視鏡所見では,輪状・帯状潰瘍や不整形潰瘍などの活動性病変に加え,萎縮瘢痕帯,腸管変形,輪状狭窄などの慢性経過を示唆する所見を伴うのが特徴である.しかし,大腸癌検診などを契機に発見される無症状で軽微な粘膜病変のみを呈する腸結核例も増加している.
  • 安藤 朗, 馬場 重樹
    2018 年71 巻10 号 p. 456-469
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/25
    ジャーナル フリー
    Clostridium difficileはグラム陽性偏性嫌気性菌で,抗菌薬治療などで腸内細菌叢が撹乱されると,異常増殖と毒素産生が起こりClostridium difficile感染症を発症する.2000年初頭以降,Clostridium difficile感染症は欧米を中心に強毒型であるNAP1/B1/027株によるアウトブレイクが問題となった.欧米ではfidaxomicinなどの新規治療薬が使用可能となっており,また,2013年には再発性Clostridium difficile感染症に対する糞便微生物叢移植の有用性が示され注目を浴びた.近年はさらにトキシンBに対するモノクローナル抗体やワクチン,トキシンに対する吸着療法などが開発されている.本稿ではClostridium difficile感染症の疫学,病態,診断,治療,潰瘍性大腸炎とのかかわりなどについて概説する.
  • 大川 清孝, 青木 哲哉, 上田 渉, 佐野 弘治, 小野 洋嗣, 中内 脩介
    2018 年71 巻10 号 p. 470-481
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/25
    ジャーナル フリー
    サイトメガロウイルス(CMV)腸炎は免疫不全症や集中管理を要する重症患者が背景として多い.内視鏡像では打ち抜き様類円形潰瘍のみでなく,輪状傾向潰瘍,帯状潰瘍,縦走潰瘍,二段潰瘍などの存在,多彩な潰瘍の混在などがあれば,本症を疑う必要がある.診断には病理学的検査(HE染色による核封入体の検出とCMV免疫組織検査によるCMV抗原の検出)やCMV抗原検査が用いられるが,偽陰性が多いのが問題である.
    潰瘍性大腸炎(UC)においてステロイド抵抗性や難治性の場合にCMV腸炎合併を疑う必要がある.病理学的検査とCMV抗原検査は,特異度は高いが偽陰性が多い.粘膜CMV-DNA検査は感度,特異度とも高いが,抗ウイルス療法の適応を決めるには疑陽性が多くなるため,適正なcut off値を決める必要がある.両疾患ともCMV検査が陰性であっても,臨床的にCMV感染症を強く疑えば,診断的治療が必要なこともある.
  • 岡本 康介, 深野 雅彦, 下島 裕寛, 杉田 博俊, 彦坂 吉興, 若林 秀幸, 香取 玲美, 松村 奈緒美, 河野 洋一, 黒水 丈次, ...
    2018 年71 巻10 号 p. 482-493
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/25
    ジャーナル フリー
    腸管感染症の中には性感染症に位置付けられる疾患が含まれており,主に直腸肛門部に病変を形成する.代表的な疾患としては,アメーバ性大腸炎,クラミジア直腸炎,直腸梅毒,尖圭コンジローマが挙げられる.便通異常,血便,テネスムス,下腹部痛,肛門部痛などの症状を契機に受診することが多いが,無症状の場合もある.診断には既往歴,海外渡航歴,生活環境,性行動などについての問診とともに臨床検査,内視鏡検査が有用であるが,直腸肛門部の特徴的な診察所見も重要である.
  • 清水 誠治, 小木曽 聖, 富岡 秀夫, 池田 京平, 上島 浩一, 横溝 千尋, 高島 英隆
    2018 年71 巻10 号 p. 494-505
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/25
    ジャーナル フリー
    潰瘍性大腸炎とクローン病は狭義の炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)と呼ばれるが,いずれも原因不明の慢性疾患であり,それぞれに診断基準が定められている.診断においては画像診断が重要な役割を担うが,IBDと画像所見が類似する様々な疾患を鑑別する必要がある.近年,IBD治療の進歩とともに免疫抑制性の薬剤が使用される機会が増加しており,腸管感染症の除外診断が益々重要となっている.とくにカンピロバクター腸炎,アメーバ性大腸炎,腸結核,Clostridium difficile感染症,エルシニア腸炎,サイトメガロウィルス感染症などの腸管感染症が鑑別上問題となる.一方,内視鏡的にほとんど異常がみられない腸管感染症は過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)との鑑別が問題となる.本稿ではIBD,IBSと鑑別を要する腸管感染症の診断の要点を中心に解説した.
編集後記
feedback
Top