潰瘍性大腸炎診療において,腸管炎症評価のゴールドスタンダードは内視鏡検査であるが,頻回の検査は困難であることから,その代替となる簡便で非侵襲的なバイオマーカーの重要性が高まっている.活動性モニタリングを目的としたものには,便中マーカーとして便中カルプロテクチン,免疫学的便潜血検査,血液マーカーとして従来のCRPや赤沈に加え,ロイシンリッチα2グリコプロテイン,尿中マーカーとして尿中プロスタグランジンE主要代謝産物などの有用性が報告されており,実臨床でも利用可能となっている.一方,診断マーカーとして抗インテグリンαvβ6抗体や抗EPCR抗体といった血液マーカーが近年見出され,その有用性検証が進められている.潰瘍性大腸炎診療のさらなる質の向上を目指し,バイオマーカーを適切に使用した診療体系の構築が望まれる.
潰瘍性大腸炎サーベイランス内視鏡の対象症例は今後増える一方,潰瘍性大腸炎関連腫瘍の発生率は低下していく.そのため高精度のサーベイランス内視鏡を効率良く施行する必要がある.精度向上には内視鏡機器の開発のほか,treat-to-target戦略による内視鏡的寛解を目指した診療が必要で,内視鏡的な治療の有効性評価の際にサーベイランス内視鏡を施行する.サーベイランス内視鏡で最も重要な段階は最初の病変の認識で,その精度向上のためにNBI(narrow band imaging)や色素内視鏡などを使用し,拡大内視鏡観察で病変の質的診断と生検採取部位の決定に努める.本分野の今後の発展のため,AI(artificial intelligence)や分子イメージング内視鏡の開発が期待されている.
内視鏡の進歩により,早期の潰瘍性大腸炎(UC)関連大腸腫瘍性病変が発見可能となり,2015年にSCENICステートメントが採択され,早期病変に対する内視鏡切除の可能性が示された.
一方でSCENICのステートメントはEMRやポリペクトミーの研究をもとにしている.ESDは高い一括切除割合とR0切除割合が期待されUC関連大腸腫瘍性病変に対する治療として考慮される.範囲診断可能,炎症が病変周辺に存在しない,内視鏡的にR0切除が可能であるlow-grade dysplasiaは良い適応である.
UC関連大腸腫瘍性病変は線維化や炎症があるため,ESDの手技的困難性は高い.トラクションやITナイフnanoなどを用い,経験豊富な内視鏡医による慎重な治療が望まれる.異時性病変の可能性を考慮しつつ,治療後のサーベイランスも重要である.
内視鏡治療においても,さらなるエビデンスを積み重ねることが重要である.
潰瘍性大腸炎は炎症性腸疾患の1つで大腸に慢性炎症を引き起こす難治性慢性炎症性疾患である.原因は不明であるが,腸管免疫の恒常性の破綻に伴う過剰な免疫応答が病態に関与している.潰瘍性大腸炎に対する薬物治療としては5-ASA製剤,副腎皮質ステロイド,チオプリン製剤が用いられてきたが,抗TNFα抗体製剤の開発を皮切りに,多くの生物学的製剤や低分子化合物が開発されてきている.優れた治療薬と便カルプロテクチンなどのバイオマーカーの開発により,潰瘍性大腸炎治療では長期予後改善を目的としたtreat to targetストラテジーが提唱され,その治療目標として内視鏡的寛解が設定されている.
高齢者潰瘍性大腸炎は増加している.高齢発症者の方が若齢発症者より重症で,罹患範囲も広く,入院率や手術率も高頻度である.治療に伴う感染症や悪性腫瘍発症のリスクも非高齢者より高く,内科治療の選択に慎重さが必要である.原疾患と関係ない併存症の存在も治療方針の選択に重要な要素である.栄養状態指数の低下が高齢者の入院率や手術率と相関することが示され,暦の年齢よりフレイルが重要であると認識されつつある.しかし真の加齢程度をいかに評価するか,明確な指標は存在せず,栄養状態を改善させると転帰が改善するかも不明である.年齢が高くてもフレイルがなく,併存症もない場合は非高齢者と同様の治療ゴールを設定し,薬剤選択も通常通りで良いと考えられる.しかし内科治療による合併症のリスクが高い場合は,より安全性の高い薬剤選択が選択され,フレイルや併存症の多い場合は治療ゴールの設定をより低く置くような柔軟な対応が必要である.
潰瘍性大腸炎(UC)の高齢患者が増加しているが,報告によって高齢UC患者の定義が異なっており,基準年齢が40~75歳と広範にわたっている.高齢UCの報告を読むときは,基準年齢をチェックする必要がある.手術法は一概に年齢で決定せずに,手術対象の疾患や各人の体力,肛門括約筋,排便機能を参考にして,肛門温存術か永久人工肛門造設術かを決定する.高齢であることは術後の排便機能に影響を与える.高齢UC患者では予備能力が低く併存症も多く,術後合併症が多い.とくに緊急手術の死亡率が高いことから,若年者よりも早い段階での手術決定が重要である.実際には高齢UC患者は重症や劇症でも主観的な症状に乏しく,高齢患者の手術適応判断は難しいが,高齢UC患者の命や術後のQOLは手術を決断する外科医にかかっている.
大腸癌に対するロボット支援手術は,本邦においては2018年4月から直腸癌に対して,2022年4月からは結腸癌に対して保険適用となり,全国の医療機関で急速に普及が進んでいる.直腸/結腸の臓器別において本邦では保険適用の時期の違いから実施された症例数に大きな違いがあるが,世界的にみても直腸の実施数が多くなっている.ロボット支援手術は従来型腹腔鏡と同様の低侵襲手術に分類されるが,より高コストであるために優越性が示される必要がある.しかしロボット支援手術は比較的新しい手術でありエビデンスは乏しく,普及が先行している現状である.近年はロボット支援手術の普及期に計画された症例数の多い臨床試験の結果が報告されるようになったが,未だ短期成績に関する報告が中心であり長期成績に関する報告は少ない.本稿では,現段階におけるロボット支援手術と従来型腹腔鏡手術を比較したエビデンスについて解説する.
2022年からロボット支援下結腸悪性腫瘍切除術が保険適応となった.筆者らが導入にあたり試行錯誤して得た経験から,現在当院で標準的に行っている症例に即したロボット支援下右側結腸癌手術におけるポート配置を中心に,その手術手技を解説する.ファーストポートは体外吻合または体腔内吻合にするかによって①臍部②Pfannenstiel切開③左上腹部の4番アーム(R4)の位置の3パターンから選択している.ロボット支援下手術は,インストゥルメントやステープラーの操作性の良さと,縫合結紮操作が容易であることから体腔内吻合との相性が良いとされ,積極的に体腔内吻合を採用する施設が増えつつあるが,体腔内吻合に拘らず,体腔内吻合のメリットとデメリットを十分理解して選択すべきである.当院では体腔内吻合は基本的にOverlap法で行っており,ダビンチステープラーと腹腔鏡下ステープラーの挿入法の手順の違いを説明する.
結腸悪性腫瘍に対する腹腔鏡手術におけるロボット支援手術が2022年4月より保険収載され,ロボット支援結腸癌手術が急速に普及してきている.ロボット支援手術は,鉗子の自由度が高く,直感的な操作による手術を行えるためより精緻な手術が可能となる.一方でロボット支援手術は術野の制限があることが特徴である.鉗子の操作制限や術野の制限を克服するためにはセッティング,ポート配置が重要な役割を果たす.
左側結腸癌に対する手術は脾弯曲授動を必要とする症例がほとんどである.脾弯曲部周囲には,膵臓,脾臓,大網,結腸間膜が隣接し,その複雑な癒着は患者の個体差が大きいため,個体差によらない脾弯曲授動の手技が重要であると考えている.本稿では,当科で定型化して行っているロボット手術のセッティングと下行結腸,左側横行結腸を対象とした左側結腸切除の手術手技について述べる.
本邦において直腸癌に対するロボット支援手術は2018年4月に直腸切除・切断術において保険収載され,手術件数は大幅に増加している.多関節,モーションスケール,手ブレ防止などの利点を有しているロボット支援手術は,腹腔鏡手術の動作制限を克服し,より繊細な全直腸間膜切除や側方郭清が施行できるものとして,臨床的,腫瘍学的,機能温存に対しての有用性が期待されている.本稿ではロボット支援低位前方切除術,側方郭清術に関して,ポート位置およびアームの設定から実際の手術手技について解説する.
【緒言】ロボット支援手術が普及する中,開腹や腹腔鏡手術を十分に経験しないまま,ロボットを執刀する外科医の増加が予想されるが,その教育方法は議論を要する.
【目的】当分野のロボット術者教育を紹介する.また最新の手術支援ロボットと将来展望について概説する.
【方法】日本内視鏡外科学会からの指針に準じて設定した,当分野のロボット術者基準と教育の実際について提示する.若手術者へのアンケートおよび周術期成績を解析し,過去の文献を交えながら,ロボット支援手術の教育体制についてまとめる.
【結果】当分野の若手外科医によるロボット支援手術は安全に施行できており,教育効果も高かった.新規手術支援ロボットは,触覚の欠如についての問題点や遠隔手術の実現などに向けて開発および改良が進められている.
【結語】ロボット術者教育および新規手術支援ロボットのさらなる発展は,若手外科医のモチベーション維持にも寄与し今後注力すべき課題と考えられる.