日本大腸肛門病学会雑誌
Online ISSN : 1882-9619
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77 巻, 3 号
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原著
  • 小井土 耕平, 櫻庭 駿介, 中村 和正, 川村 崇文, 大島 健志, 間 浩之, 大端 考
    2024 年 77 巻 3 号 p. 143-147
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/22
    ジャーナル フリー

    【はじめに】本研究では当院で行った右側結腸癌手術における体腔内吻合症例の短期成績について従来の体腔外吻合と比較し,有用性を検討することを目的とした.【対象】2018年4月から2021年12月までに,cStageI-IIIと診断した大腸癌に対し腹腔鏡下右側結腸切除を施行した181例を対象とし,Propensity Score Matching(PSM)を行い体腔内吻合(IA)群と体腔外吻合(EA)群の短期成績を比較した.【結果】PSMにより両群とも52例となった.手術成績はIA群において有意に小開腹創が短く,出血量が少なく,術後在院日数が短い結果であった.Clavien-Dindo分類II以上の合併症の発生頻度に有意差を認めなかった.【結語】腹腔鏡下右側癌手術においてPSM後,体腔内吻合の短期成績は従来の体腔外吻合と比較し許容される結果であった.

  • 園田 寛道, 山田 岳史, 松田 明久, 進士 誠一, 代永 和秀, 岩井 拓磨, 武田 幸樹, 上田 康二, 栗山 翔, 宮坂 俊光, 香 ...
    2024 年 77 巻 3 号 p. 148-154
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/22
    ジャーナル フリー

    目的:手術による腹膜播種の制御が血行性(肝,肺)転移を伴う大腸癌腹膜播種症例の予後を改善させるかどうかを検証する.

    方法:日本医科大学付属病院で外科的切除(原発巣および播種巣)を行った大腸癌同時性腹膜播種症例55症例の治療成績を後方視的に検討し,予後不良因子の抽出を行った.

    結果:腹膜播種遺残のない手術を行えた症例では,ある症例より生存率が良好な傾向にあった(生存期間中央値:29.8ヵ月vs 17.2ヵ月,P=0.09).また,術後化学療法が行えた症例では,行えなかった症例より有意に生存期間が良好であった(生存期間中央値:30.5ヵ月vs 8.2ヵ月,P<0.01).多変量解析では術後化学療法なしが独立した予後不良因子として同定された(ハザード比:0.28,P<0.01).

    考察:肝,肺転移が併存する症例であっても,術後化学療法が行える症例では腹膜播種を外科的に制御することにより長期生存が得られる可能性が示唆された.

臨床研究
  • 口分田 亘, 石井 正之, 谷川 優麻, 前田 哲生
    2024 年 77 巻 3 号 p. 155-160
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/22
    ジャーナル フリー

    【目的】肛門温存術における一時的回腸双孔式人工肛門造設後のストマ出口症候群発症の状況とそのリスク因子を明らかにする.

    【方法】直腸腫瘍に対する肛門温存術と同時に一時的回腸双孔式人工肛門を造設した99例を対象とし,患者因子,手術因子および術後のストマの形状を調査し,ストマ出口症候群に関して後方視的に検討を行った.

    【結果】ストマ出口症候群を9例(9%)に認めた.発症までの日数は中央値5日で,ストマ排泄孔からのドレナージが7例で行われていた.ストマ出口症候群の発症群と非発症群間で,腹直筋の厚さにおいて有意差を認めた(発症群12.3mm 非発症群9.1mm,p=0.001).

    【結語】肛門温存術において一時的回腸双孔式人工肛門造設後のストマ出口症候群の発症頻度は約10%であった.腹直筋の厚さがストマ出口症候群を生じるリスク因子であることが示唆された.

  • 辻 嘉斗, 西沢 佑次郎, 大里 祐樹, 井上 彬, 賀川 義規
    2024 年 77 巻 3 号 p. 161-167
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/22
    ジャーナル フリー

    本邦において虫垂炎に対する腹腔鏡手術は2021年に年間15,983件施行され単孔式アプローチも増加傾向にあるものの2,597例にとどまる.当センターでは虫垂炎に単孔式アプローチを基本としている.当センターでの虫垂炎に対する単孔式腹腔鏡手術の安全性と有効性を後ろ向きに検討した.2020年4月から2022年3月までに虫垂炎に対し単孔式腹腔鏡手術を施行した15歳以上の85例について調査した.術式は虫垂切除術68例,盲腸部分切除術7例で,回盲部切除術10例であり,開腹移行は4例,ポート追加を1例認めた.手術時間は中央値79分で,出血量は0mlであった.術後合併症は13例に認めたがGradeIIIb以上(Clavien-Dindo分類)の合併症は認めなかった.術後在院日数は5日であった.様々な虫垂炎に対し94%が臍小切開創のみで対応でき,炎症の程度に応じ術式を変更できる単孔式アプローチは有用である.

症例報告
  • 浅見 敬一, 堀田 正啓, 丸山 弘, 関口 久美子, 岡本 浩和, 林 光希, 櫻井 宏貴, 牧野 浩司, 吉田 寛
    2024 年 77 巻 3 号 p. 168-174
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/22
    ジャーナル フリー

    症例は65歳男性.便潜血反応陽性を指摘され,下部消化管内視鏡検査を施行した.盲腸に40mm大の粘膜下腫瘍様病変を認めた.腹部造影CTを施行したところ,同腫瘍を先進部とし腸重積を疑う所見を呈していたが,身体診察上腹痛はなく,血液検査所見でも炎症反応の上昇を認めなかった.虫垂粘液性腫瘍が第一に考えられたが,鑑別疾患としてカルチノイドや虫垂癌,悪性リンパ腫などが挙げられた.診断と治療目的に加え,より低侵襲性・整容面を求め,手術手技・術野展開を工夫し,D3リンパ節郭清を伴う単孔式腹腔鏡補助下回盲部切除を施行した.病理組織診断で低異型度虫垂粘液性腫瘍(LAMN)と診断された.現在再発兆候は認めておらず,経過観察中である.LAMNの治療方針に関しては外科的治療が原則とされるが,診断方法や術式,術後経過観察期間などに関して一定の見解はなく,今後症例を蓄積し,検討が望まれる.

  • 星野 敏彦
    2024 年 77 巻 3 号 p. 175-177
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/22
    ジャーナル フリー

    症例は76歳男性.数日前からの排便時痛で当院受診した.直腸診では,肛門6時方向に裂肛を触れた.またやや鋭利な何かを触れる印象はあったが明瞭ではなかった.痛みで肛門の緊張が強く肛門鏡では6時方向の裂肛を確認したのみであった.肛門の軟膏と鎮痛薬で保存的に加療したが,1週間後も痛みは改善しておらず,魚骨などによる肛門陰窩付近で限局性膿瘍も想定し,直腸内視鏡を施行した.肛門管直上に直径2cm程度のPTPがあり,深い裂肛を形成していた.PTPを回収ネットにて回収した.CTにて縦隔気腫,フリーエアーはなく,肛門の保存的加療で症状は軽快した.

    PTP包装はアルミ箔と塩化ビニールによる薬剤包装形態であり,誤飲による消化管損傷がしばしば報告されるが,直腸肛門領域で障害をおこすことは稀である.PTPによる裂肛をきたした直腸異物を経験し内視鏡的に摘除することに成功したため,若干の文献的考察を含めて報告する.

  • 多木 雅貴, 新田 敏勝, 堀口 晃平, 千福 貞勝, 上田 恭彦, 石井 正嗣, 石橋 孝嗣, 竹下 篤
    2024 年 77 巻 3 号 p. 178-184
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/22
    ジャーナル フリー

    中皮腫は胸膜を原発とするものがほとんどであり,腹膜原発の頻度は少ない.その中で腹膜中皮腫はびまん性の悪性型が多いとされ,多嚢胞性腹膜中皮腫(以下,BMMP)は非常に稀な良性腫瘍で,本邦では1988年に後腹膜腫瘤として初めて報告された比較的新しい概念の疾患である.今回,傍結腸に発生したBMMPの1例を経験したため報告する.症例は51歳,男性.左下腹部痛を自覚され,腹腔内腫瘤による腸管圧排像を認めたため手術を施行した.術中所見では,傍結腸に約7cm大のゼリー状の嚢胞を散見し,完全切除を目的として下行結腸切除術を選択した.病理診断はBMMPであった.術後約16ヵ月経たが,再発なく外来にて経過を観察中である.われわれが検索する限り,2000年以降の本邦報告は31例であった.BMMPは再発や悪性転化例を認めるため,完全切除を見据えて治療方針を決定すべきと考えられた.

  • 香取 玲美, 黒水 丈次, 松島 小百合, 紅谷 鮎美, 彦坂 吉興, 松村 奈緒美, 河野 洋一, 深野 雅彦, 下島 裕寛, 岡本 康介 ...
    2024 年 77 巻 3 号 p. 185-191
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/22
    ジャーナル フリー

    直腸瘤を伴う骨盤底筋協調運動障害が排便障害の原因と考えられた2症例を経験したので報告する.症例1は51歳女性.主訴は排便困難,残便感,排便造影検査で約4cmの直腸瘤を認め経膣的直腸瘤修復術施行.その後も排便障害を認め,術後の排便造影検査にて骨盤底筋協調運動障害が原因と考えられたため,バイオフィードバック療法を行い改善を認めた.症例2は74歳女性.主訴は排便困難.排便造影検査で約2.5cmの直腸瘤および骨盤底筋協調運動障害を認め,バイオフィードバック療法で改善を認めた.直腸瘤の存在診断は肛門指診により可能であるが,排便障害の原因は直腸瘤のみとは限らず,自験例のように骨盤底筋協調運動障害を伴うこともあるため,治療に留意を要すると考える.

編集後記
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