症例は86歳女性.腹痛を主訴に紹介受診し,血液検査で炎症所見の上昇,腹部CTで虫垂腫大,周囲脂肪織の炎症を示唆する所見を認め,腹腔鏡下虫垂切除術を行った.切除標本は65mm×24mmの腫大した虫垂で,N/C比の高い腫瘍細胞を認め,免疫組織化学染色ではchromogranin A,synaptophysin,CD56の神経内分泌マーカーが陽性を呈し,神経内分泌癌(Neuroendocrine carcinoma;NEC)の確定診断を得た.術後再検査で多発肝転移を指摘したが,Best supportive careの方針となり,約3ヵ月後に永眠された.
虫垂NECの症例報告はわれわれの調べた範囲では自験症例を含め,11例ほどと非常に少数で稀だが,治療ガイドラインが確立されておらず,診断・治療成績向上には症例集積が必要である.
直腸癌術後の骨盤内局所再発に対してCapecitabine+Oxaliplatin(CAPOX)を併用した化学放射線療法により臨床的complete responseが得られた1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.症例は67歳女性で,直腸Ra癌に対して低位前方切除術を施行した.術後9ヵ月経過した際に会陰部痛が出現したため腹部骨盤造影CT検査を施行したところ,骨盤底左側に48mm大の腫瘤を認め,局所再発と診断した.病変は周囲臓器への浸潤が疑われたため根治切除困難と判断して化学放射線療法を施行した.放射線療法(50Gy)+CAPOXを8コース施行した.化学放射線療法開始後5ヵ月目の腹部造影CTでは,再発巣は著明に縮小し軟部陰影として同定されるのみで,遠隔転移も認めなかった.骨盤内局所再発の診断から9年6ヵ月,化学放射線療法終了後から8年経過した現在も,転移再発を認めない.
症例は,63歳男性で,3年前から肛門周囲の腫瘤を自覚していたが放置していた.徐々に増大し滲出液を認めたため前医を受診した.肛門右側に突出する腫瘤を認め,生検で粘液癌と診断された.精査加療目的に当科紹介となった.画像所見では,肛門管右側に多房性の嚢胞様形態をとり,辺縁に石灰化を伴う10×10cm大の嚢胞性腫瘤が認められた.一部前立腺への浸潤が疑われた.側方および鼠径リンパ節の腫大は認められなかった.肛門腺由来粘液癌の術前診断で腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術,両側側方リンパ節郭清術を施行した.病理診断の結果,肛門腺由来粘液癌でリンパ節転移はなく,一部前立腺への粘液の漏出が認められたため,pT4b(前立腺)pN0pM0,StageIIIBであった.術前586U/mlと高値であった腫瘍マーカーCA19-9は術後1ヵ月で3U/mlまで低下した.現在術後2年再発なく経過している.
右側結腸の著明な拡張を伴う閉塞性脾彎曲部横行結腸癌に対して,緊急腹腔鏡補助下双孔式回腸人工肛門造設術+経人工肛門的減圧チューブを施行し有用であった症例を経験したので文献的考察を加え報告する.症例は83歳男性.便潜血反応陽性を契機に診断された横行結腸癌に対して手術を予定していた.術前検査で著明な右側結腸の拡張を認め,腹痛を伴っていたため閉塞性横行結腸癌と診断した.緊急双孔式回腸人工肛門造設術および経人工肛門的減圧チューブ留置による口側腸管の減圧処置を施行後,待機的に減圧術後16日目に腹腔鏡補助下結腸左半切除術を施行した.閉塞性大腸癌に対する緊急での原発切除は高い周術期死亡率が報告されており,減圧後に待機的に原発切除を施行することが望ましいとされる.回盲弁と腫瘍の間の結腸の減圧に対して経人工肛門的減圧チューブによる緊急減圧が有用であった.
患者は77歳男性.直腸癌に対して腹腔鏡下Hartmann手術を施行後,3年無再発生存中であった.術後フォローアップとして施行した大腸内視鏡検査で,人工肛門部に25mm大の2型腫瘍性病変を認め,生検で中分化型腺癌の診断であった.
造影CT検査では,腹壁浸潤やリンパ節転移,遠隔転移を認めなかった.人工肛門部に発生した異時性大腸癌(cT2N0M0 cStageI)と診断し,腹腔鏡下に人工肛門部を含めた結腸切除および再人工肛門造設術を施行した.人工肛門部に発生した大腸癌に対し,これまで本邦で腹腔鏡手術を施行した報告例はなく,手術手技を含めて報告する.