痔瘻難治化の原因を,(1)術前の全身的,(2)術前の局所的,(3)術中,(4)術後の4つの要因に分けた.本文では,その中でもとくに(2)の中の他肛門病変の合併,クローン病合併,蜂窩織炎を取り上げたい.(1)他肛門疾患との合併:1990年の当院手術例390症例で見ると,最も多いのは内痔核で,ついで裂肛,肛門狭窄の順になっている.合併率は,型が浅いほど高く,I型70.4%,IIL型28.2%,IIH型21.9%,III型12.9%,IV型16.7%であった.それぞれの型に応じ,合併病変を加味した術式の選択が必要である.(2)クローン病に合併する痔瘻:クローン病93例中72例(77.4%)に合併し,手術症例56例で見ると深部痔瘻の割合が15例(26.8%)と高く,難治性で再発しやすい.手術は全身状態の改善を待って行っている.浅いものでは開放術が主体であるが,深部痔瘻に対しては括約筋温存術式も行っている.術後成績は,56例中40例(71.4%)において1回の手術で病態の治癒・軽快が見られ,かなり優れた結果だといえる.(3)蜂窩織炎:当院で7例経験した.皮下疎性結合織に広範な感染が広がった状態で,まず肛囲膿瘍として起こり,これが会陰部から陰嚢・鼠径,さらには腹壁あるいは下肢へと急速に広がる.混合感染の場合が多く,毒性が非常に強い.治療としては,速やかに病変部を全開放し,広範囲スペクトルの抗生剤投与を行う.成績は7例すべて良好であった.
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