日本大腸肛門病学会雑誌
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69 巻, 10 号
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特集によせて
主題I:大腸癌診断の最前線
  • 角川 康夫, 斎藤 豊
    2016 年69 巻10 号 p. 451-455
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/07
    ジャーナル フリー
    2006年に海外から登場した大腸カプセル内視鏡1)は現在,第2世代のPillCam® COLON 2(コビディエン株式会社)が用いられている.本邦では2014年1月に保険収載されており,臨床現場で用いられるようになって3年目に突入した.この大腸カプセルは主に大腸内視鏡の挿入困難な症例に活用されている.また,痛みがなく,恥ずかしさも伴わないため,これまで大腸の検査を受けたことのないような人々,といった新たな潜在的需要の掘り起こしにも期待がかかる.本稿ではこの大腸カプセル内視鏡について概説する.
  • 歌野 健一, 根本 大樹, 愛澤 正人, 五十畑 則之, 隈元 謙介, 遠藤 俊吾, 冨樫 一智, 永田 浩一
    2016 年69 巻10 号 p. 456-462
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/07
    ジャーナル フリー
    近年,日本人の大腸がんが増加する中,Multi-Detector CTを用いた低侵襲かつ短時間で検査が可能なCT Colonography(大腸CT検査)が注目を集めている.本検査は内視鏡の挿入やバリウムの注入が不要で検査時間も短いため,一般的に被験者の負担が少ないとされる.また,大腸内視鏡検査のように高度の熟練を必要とせず,被験者の年齢,性別,手術歴にも影響されない利点もある.日本の内視鏡検査件数は飽和状態であること,大腸内視鏡検査をつらいと思い,検査を受けない方も多いことから,大腸CT検査への期待は高い.今後は前処置の軽減や遂次近似法を用いた被ばくの低減により,より一層の受容性と安全性の向上が図られている.本邦では,2012年より保険適応となり,ガイドラインの整備や読影者の育成が急がれる.
  • 小林 清典, 横山 薫, 佐田 美和, 小泉 和三郎
    2016 年69 巻10 号 p. 463-470
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/07
    ジャーナル フリー
    大腸癌に対する超音波内視鏡(EUS)の臨床的意義は,術前に癌深達度やリンパ節転移を評価し,適切な治療法を選択することにある.EUSにより,腫瘍を垂直断層像として描出できるため,客観的な診断が可能である.とくに早期癌に対しては,内視鏡的摘除の適応病変(pTis癌~pT1a癌)と外科手術の適応病変(pT1b癌)の鑑別診断正診率は,自施設の検討では89%と高率であり,EUSは早期癌の治療法の選択に活用できると考える.しかしEUS診断には,描出困難病変が多いなどの問題点があり,早期癌での検討では全体の13%を占めた.描出困難病変への対策として,3次元超音波内視鏡(3D-EUS)の使用が有効な場合がある.描出困難病変の頻度は,3D-EUSは従来機種より低率であり,リニア表示で描出可能になる病変を認めている.大腸癌に対するEUSの診断精度の向上には,大腸用専用機などEUS機種の改良が必要であると考える.
  • 高和 正, 隈元 謙介, 早瀬 傑, 藤田 正太郎, 中村 泉, 竹之下 誠一, 赤須 孝之
    2016 年69 巻10 号 p. 471-479
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/07
    ジャーナル フリー
    大腸癌の治療は病期によって規定されており,治療方針を決定するためにも正確な病期診断が重要である.特に直腸癌においては,切除範囲が大きくなれば,排尿や性機能障害が出現し,不適切な機能温存手術を行えば,局所再発の可能性が懸念される.不十分な術前検査で,手術の適応を誤り,合併症や術後局所再発を増やしてはならない.正しい診断がなければ正しい治療は得られないからである.このたび,本邦で新しく導入されたPET/MR一体型装置により,直腸癌の治療に有用な情報である壁深達度,直腸間膜内リンパ節転移,側方骨盤リンパ節転移などの診断精度の向上が期待される.
  • 問山 裕二, 井上 靖浩, 楠 正人
    2016 年69 巻10 号 p. 480-488
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/07
    ジャーナル フリー
    本邦の年齢階級別癌死亡率の推移を見ると,大腸癌による死亡率は経年的に増加し,50歳を期に急増していることより,大腸癌スクリーニングを基本とした早期発見が極めて重要である.本邦では免疫学的便潜血反応がスクリーニングとして推奨されてきたが,受診率が30%にも満たなく,検査の感度は低いのが現状である.さらに免疫学的便潜血反応により発見された大腸癌は手術が必要な進行癌が多いことも問題として挙げられる.そこで免疫学的便潜血反応を補てんまたは凌駕する新たなバイオマーカーの開発は極めて重要な課題である.現在,体液中(血液ならびに糞便)のジェネティック,エピジェネティックマーカーに加えてマイクロRNA,プロテオーム,メタボローム解析などの技術の進歩とともに様々な新規バイオマーカー候補が明らかになってきている.今後の大規模な臨床試験にもとづく高い精度の大腸癌診断マーカーの出現が期待される.
主題II:直腸・肛門部疾患に対する各種肛門内手術後の排便機能障害
  • 伊藤 雅昭, 齋藤 典男, 西澤 祐吏, 佐々木 剛志, 塚田 祐一郎
    2016 年69 巻10 号 p. 489-498
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/07
    ジャーナル フリー
    本稿では様々な側面よりISR術後排便機能を論じ,そのポイントを以下に示す.
    1.ISR術後のWexnerスコアは長期的にも緩やかに改善する.
    2.比較的機能良好な症例は約70%に認められる一方で,10%以下の症例において高度な失禁を認める.
    3.排便機能の悪い症例は,術前放射線治療,男性,肛門括約筋の広範囲切除例に多い.
    4.粘膜脱や吻合部狭窄は術後の機能に悪影響を及ぼす可能性があり,Delorme手術や臀溝皮弁形成による肛門再建がそれらへの有望な治療方法である.
    5.吻合部狭窄の主な原因はその口側腸管の虚血であり,手術手技の改善や術中血流評価でこれを予防しうる.
    ISRにおいてはその腫瘍予後が最重要課題であるが,永久人工肛門を回避する選択肢としてその機能予後にも十分配慮した治療選択を行うべきである.
  • 下村 晋, 赤木 由人, 弓削 浩太郎, 衣笠 哲史
    2016 年69 巻10 号 p. 499-506
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/07
    ジャーナル フリー
    ISR後の排便機能障害は排便回数の増加,便意促迫,便失禁が主なものである.しかしPadの使用は継続されるものの経時的に改善して2年ほどでplateauとなる.排便機能を評価するのに肛門内圧検査が広く用いられているが,測定結果と排便状況の間に乖離がある.
    肛門温存直腸切除術は直腸膨大部の除去による便貯留能が低下し,腸内容物の保持が困難になる.ISRは内括約筋の減量による機能的に変化があり,排便異常をきたすことはQOLの低下にもつながる.物理的変化以外にも治療方法も腫瘍存在部位,術前化学・放射線治療,再建方法,術後縫合不全などが生理的機能変化をきたすことが示唆される.
    術後の機能障害は手術の適応にもかかわってくるので,的確な評価方法の確立が望まれる.的確な術後機能やQOLを評価することが今後の課題と思われる.
  • 幸田 圭史, 小杉 千弘, 平野 敦史, 首藤 潔彦, 松尾 憲一, 栃木 透, 田中 邦哉
    2016 年69 巻10 号 p. 507-512
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/07
    ジャーナル フリー
    LARsyndrome(LARS)は,低位直腸癌の肛門温存手術後に高率に生じる機能障害である.その発症機序は単一ではなく,また増悪因子については,吻合部が肛門に近いもの,術前放射線治療,術後縫合不全などがあげられる.ISRは手術操作が肛門管におよび,術後肛門括約筋機能に影響が及ぶのは手技上避けられない.マノメトリーでも機能的肛門管長は有意に短縮し肛門管静止内圧も低下している.手術手技による直接的な影響として筋肉の損傷とともに支配神経への障害が起こりうることが肛門括約筋機能低下の成因として考えられる.直腸をほぼすべて切除するISRやvLAR,あるいはLARにおいても残存直腸が短ければ,代用として用いるS状結腸や下行結腸などのneorectumの機能が排便状態に強く影響すると考えられる.本稿では,これらISR術後にみられる障害を正常の排便における骨盤底筋肉の運動と直腸機能の観点から考察した.
  • 山田 一隆, 緒方 俊二, 佐伯 泰愼, 高野 正太, 岩本 一亜, 福永 光子, 田中 正文, 野口 忠昭, 高野 正博
    2016 年69 巻10 号 p. 513-520
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/07
    ジャーナル フリー
    下部直腸・肛門管癌に対する括約筋間直腸切除術(ISR)に関しては,術後排便機能障害として便失禁が比較的高率であることが課題となっている.そこで,当施設において2001~2013年に下部直腸・肛門管癌に対してISR, partial ESRを施行した治癒切除178例を対象に,術後1年の排便機能について解析した.術後1年における排便機能に関しては,continent patients(Kirwan grade 1, 2)が64.9%であり,total ISR とpartial ESR症例では低い傾向であった.直腸肛門内圧検査と直腸肛門感覚検査を継時的(術前・術後3ヵ月・6ヵ月・1年)に施行し,肛門管最大静止圧,肛門管最大随意圧ならびに肛門管電流感覚閾値に術後3ヵ月に著明な悪化がみられ,その後の回復が比較的不良であった.これらの解析を基に,ISR術後の排便機能障害に対する対応について検討した.
  • 野明 俊裕, 荒木 靖三, 的野 敬子, 小篠 洋之, 入江 朋子, 河野 由紀子, 家守 雅大, 石見 雅人, 石見 拓人, 高野 正博, ...
    2016 年69 巻10 号 p. 521-528
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/07
    ジャーナル フリー
    痔核に対する手術として本邦で行われている術式は,硬化療法,ゴム輪結紮術,PPH,結紮切除術などが挙げられる.それぞれ術後疼痛,治癒期間,合併症発生率,再発率が全く異なるため,重症度や患者の希望,自施設の環境や術者の技量に基づいて治療方法を選択する必要がある.痔核術後の排便機能障害としては,Whitehead anusが知られている.肛門上皮を全周性に切除されることに伴う狭窄や全周性粘膜脱を呈している病態である.現在は可及的に肛門上皮を温存する結紮切除術が主流になっているが,この術式であっても肛門上皮の温存がうまくいかないことや,痔核切除術の際に内肛門括約筋や外肛門括約筋皮下部を損傷することで狭窄や粘膜脱,便失禁をきたす症例が存在する.本稿では,代表的な痔核術後の排便機能障害を提示するとともに,当院での経験症例数と術後の肛門機能との関連性の有無について検討する.
  • 岡本 欣也, 小林 康雄, 那須 聡果, 中田 拓也, 森本 幸治, 西尾 梨沙, 岡田 大介, 古川 聡美, 山名 哲郎, 佐原 力三郎
    2016 年69 巻10 号 p. 529-539
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/07
    ジャーナル フリー
    痔瘻の手術は多少なりとも肛門括約筋への侵襲が加わる.そのため肛門機能を損なわず,根治性を目指した手術が必要となる.痔瘻の術式は大きく開放術式,括約筋温存術式,seton法に分類される.ただし根治性,肛門機能温存,早期治癒をすべて満足させる術式はなく,痔瘻の状態や患者の希望を考慮した上でバランスのよい術式を選択している.各々の術式においてどの肛門括約筋への侵襲が機能障害を引き起こすかを述べることで,機能温存に留意した手術のポイントを説明した.痔瘻術後の機能障害は不適切な括約筋切開により生じる.incontinenceが生じると著しくQOLが損なわれる.治療はまず排便のコントロールや肛門括約筋の自己トレーニングなどの保存療法を行う.改善しない場合は肛門括約筋修復術や後方形成術などの手術が有用である.ただし痔瘻は良性疾患であり,術後の後遺症のない手術を心がけることが最も大切である.
  • 田中 荘一, 松田 保秀, 松田 聡, 川上 和彦, 中井 勝彦, 野中 雅彦, 木村 浩三, 尾田 典隆, 新井 賢一郎, 相川 佳子
    2016 年69 巻10 号 p. 540-548
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/07
    ジャーナル フリー
    慢性裂肛に対する一般的な術式は,用手拡張術(AD),側方内括約筋切開術(LSIS),皮弁移動術(SSGなど)である.ADは内括約筋の鈍的拡張術,LSISは側方での鋭的切開術,皮弁移動術は後方での鋭的切開術である.術式別に本邦の術成績をレビューし,失禁,再発の頻度から今後の展望について述べたい.手術成績の明らかな論文はAD,LSIS,皮弁移動術の順に3本,4本,8本であった.評価方法はアンケート調査または観察研究であった.失禁率は(AD,LSIS,皮弁移動術の順に)0.6%,0.5-17.1%,0-22.2%であった.再発率は6.1-18.1%,2.1-24.1%,0-8.2%であった.括約筋機能障害の観点から,海外では否定的なADの本邦での治療成績は悪くなかった.本邦においても,手術対象症例に対する前向きの比較研究,エビデンスのある評価方法での研究結果が期待される.
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