日本大腸肛門病学会雑誌
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65 巻, 7 号
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原著
  • 三賀森 学, 池永 雅一, 安井 昌義, 宮崎 道彦, 三嶋 秀行, 中森 正二, 辻仲 利政
    2012 年65 巻7 号 p. 349-354
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/06
    ジャーナル フリー
    目的:大腸癌手術の術後回復強化プログラムの一つに早期経口摂取が示されている.また周術期の過剰輸液防止が術後腸管浮腫やイレウス予防になるとされている.周術期輸液量や術後の体重変化と早期経口摂取の可否についての検討した.対象と方法:2009年11月から2010年6月に当科で施行した待機大腸癌手術90例を対象とした.早期経口摂取不可能群14例と可能群76例を比較検討した.結果:多変量解析において年齢・手術方法(開腹/腹腔鏡下)・一日輸液量(HR=0.13,95%CI=0.03-0.64 p=0.01)に有意差を認めた.また開腹手術での術後7日間の体重変化を比較すると,早期経口摂取不可能群では術後3日目までに平均1kg以上の増加を認めるのに対して可能群では平均1kg未満の体重増加であった.結語:術後早期に体重を増加させない周術期輸液管理が早期経口摂取を可能にすると考える.
  • 斉田 芳久, 高橋 慶一, 長谷川 博俊, 安野 正道, 猪股 雅史, 山口 茂樹, 赤木 由人, 浅野 道雄, 岩本 慈能, 加藤 健志, ...
    2012 年65 巻7 号 p. 355-362
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/06
    ジャーナル フリー
    大腸疾患外科療法研究会で直腸癌術後縫合不全に関するアンケート調査を行った.
    方法:299施設に縫合不全率に関する質問を行い39%から回答を得た.
    結果:2009年の直腸癌術後全縫合不全率は,中央値8.0%(0-27%),平均8.7%であった.縫合不全の定義は,抗菌薬で治癒する発熱腹痛でも放射線学的に縫合不全を認めれば96%が縫合不全と定義したが,放射線学的に縫合不全が証明されない腹腔内膿瘍は83%が縫合不全とは定義しなかった.低位前方切除術に97%の施設でほぼ全例にドレーンを挿入していたが,経肛門減圧チューブは14%のみがほぼ全例に留置していた.縫合不全の保存的治療時の食事開始時期は早期開始が11%,治癒傾向後が29%,ほぼ治癒後が60%であった.
    結論:縫合不全の定義やドレーン留置,保存的治療の適応は比較的一致していたが,保存的治療後の方針は施設により大きく異なっており情報交換は重要である.
症例報告
  • 別府 直仁, 友松 宗史, 岡本 亮, 吉江 秀範, 木村 文彦, 相原 司, 柳 秀憲, 原 均
    2012 年65 巻7 号 p. 363-368
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/06
    ジャーナル フリー
    同時性肝転移を伴う局所進行直腸癌に対してS-1+CPT-11を用いる術前化学放射線療法(NCRT)を施行した2例を報告する.症例1は60歳代,男性.肝S8に2.5cmの転移を伴う閉塞性直腸癌と診断.横行結腸人工肛門を造設,NCRT後に低位前方切除術を施行.術後4ヵ月目に肝S8部分切除術を施行した.症例2は70歳代,男性.肝S8に8mmの転移を伴う出血性直腸癌と診断,横行結腸人工肛門を造設,NCRT後に低位前方切除術+経皮的ラジオ波治療を施行.術後8ヵ月目に残肝再発を認め,肝右葉切除術を施行した.化学療法で肝転移巣の縮小,微小転移の制御,新規病変の予防を図りつつ,原発巣の局所制御の改善のために放射線療法を付加することは,同時性肝転移を伴う局所進行直腸癌に対して選択しうる治療方針であると考えられた.
  • 水内 祐介, 植木 隆, 真鍋 達也, 平橋 美奈子, 宮崎 正史, 中村 昌太郎, 松本 主之, 田中 雅夫
    2012 年65 巻7 号 p. 369-375
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/06
    ジャーナル フリー
    患者は40年以上と漢方の長期内服歴のある64歳女性で,特発性腸間膜静脈硬化症(以下IMPと略記)の診断で9年間経過観察を行っていた.今回施行した逆行性注腸造影検査で大腸全長にわたり壁硬化があり,特に上行結腸の鉛管状変化を認めた.下部消化管内視鏡では大腸全長にわたり暗紫色の粘膜を認め,特に上行結腸から横行結腸では内腔の狭小化があった.経過観察中に病変の進行を認めること,腸閉塞症状を繰り返し起こすことから手術目的に当科紹介となり,腹腔鏡補助下結腸全摘術および回腸直腸吻合術を施行した.術後経過は順調で術後16日で退院,その後症状は消失した.IMPは結腸壁および腸間膜の静脈の石灰化を特徴とし腸管の血液還流異常が原因とされる疾患である.本症例では同じく漢方の内服歴のある夫も同症を発症しており,漢方薬の長期内服が原因の一つとして考えられた.IMPに対して腹腔鏡補助下に切除を行った症例を経験したので文献的考察を加え報告する.
  • 菅野 宏, 中島 紳太郎, 北川 和男, 諏訪 勝仁, 岡本 友好, 江川 安紀子, 穴澤 貞夫, 矢永 勝彦
    2012 年65 巻7 号 p. 376-381
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/06
    ジャーナル フリー
    今回,われわれはアルコール性肝硬変の胃静脈瘤塞栓術直後にストーマ静脈瘤の増悪と難治性出血をきたし,治療に難渋した症例を経験したので報告する.症例は71歳,男性でアルコール性肝硬変などに対し当院内科通院中であった.2010年4月にS状結腸癌に対してHartmann手術を施行,術後4週よりストーマ周囲皮膚に静脈瘤性紫斑が出現した.術後6週に胃静脈瘤にバルーン下逆行性経静脈的塞栓術を施行した.その2日後にストーマ粘膜の壊死・脱落が突然出現した.その後,周囲皮膚の紫斑が増悪し,粘膜皮膚接合部の顆粒状隆起も出現したため,ストーマ静脈瘤増悪と診断した.同部からの出血を繰り返したため姑息的に止血処置および輸血で対応したが,肝および腎機能が悪化し,術後4ヵ月に肝不全で死亡した.ストーマ保有者の胃・食道静脈瘤の治療を行う際は,血流変化によってストーマ静脈瘤の発症や増悪をきたす可能性があり,注意が必要であると考えられた.
  • 加藤 久仁之, 大塚 幸喜, 板橋 哲也, 吉田 雅一, 八重樫 瑞典, 若林 剛
    2012 年65 巻7 号 p. 382-387
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/06
    ジャーナル フリー
    今回われわれは術前FOLFOX6+Cetuximab(Cmab)療法が著効し,根治切除を施行しえた直腸癌同時性多発肝転移の1例を経験したので報告する.症例は58歳男性で,倦怠感を主訴に来院した.腹部CT検査で多発肝腫瘍と下部消化管内視鏡検査で直腸に2型病変を認めた.生検で中分化型管状腺癌,病期はSE,N2,H3(GradeC),P0,M0,Stage IVであり術前化学療法の方針とした.腫瘍はK-RAS遺伝子野生型であり,RegimenはFOLFOX6+Cmab療法の方針とし,計4コース施行した.化学療法後,肝転移巣の著明な縮小を認めPRと判定,原発巣を含め治癒切除可能と判断した.腹腔鏡補助下低位前方切除術および腹腔鏡補助下肝右葉切除術を同時に施行した.本症例のようなK-RAS遺伝子野生型の切除不能肝転移を有する大腸癌への術前FOLFOX6+Cmab療法は,治療戦略の1つとして有用と考えられた.
  • 山川 俊紀, 鈴鹿 伊智雄, 久保 孝文, 大橋 龍一郎, 塩田 邦彦
    2012 年65 巻7 号 p. 388-392
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/06
    ジャーナル フリー
    骨盤臓器脱(膀胱瘤,子宮脱,直腸瘤)に合併した直腸癌の1例を経験したので報告する.症例は63歳の女性.2007年頃より子宮の脱出を認め,徒手還納していた.2009年9月末に突然尿閉となり,当院泌尿器科受診.精査にてGrade3の子宮脱に伴う膣前後壁の翻転による,外尿道口圧迫が尿閉の原因であった.膣後壁より腫瘤様に膨大する部位を認め精査目的で当科紹介.精査の結果,直腸瘤と直腸(RaRb)前壁に径40mmのType2病変を認め,生検でadenocarcinomaであった.第1期手術として,腹腔鏡補助下直腸超低位前方切除術,一時的回腸人工肛門造設,膣式子宮全摘術,Tension-free Vaginal Mesh(以下,TVM)-Anteriorを行った.術後3ヵ月目の注腸造影で直腸瘤の残存あり,第2期手術として,人工肛門閉鎖術,TVM-Posteriorを施行した.病理組織学的に中分化型管状腺癌,深達度SS-A,stage2であった.術後2年の現在,骨盤臓器脱,直腸癌の再発はない.
  • 太田 竜, 関川 浩司, 北村 雅也, 高橋 保正, 小根山 正貴, 中山 幹大
    2012 年65 巻7 号 p. 393-398
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/06
    ジャーナル フリー
    アメーバ性大腸炎の多くは慢性に経過するものの,稀に腸管穿孔,腹膜炎などを生じて重篤化する劇症型が存在し予後不良とされている.今回全大腸壊死をきたした極めて重篤な劇症型アメーバ性大腸炎を経験したので報告する.症例は66歳,女性.下痢を主訴に近医受診.抗生剤投与にて軽快せず紹介となった.腹部は膨満し全体に圧痛を認め,血液検査にて炎症反応高値であった.腹部CTにてびまん性に大腸壁肥厚と膿瘍形成を認めた.CFにて大腸粘膜の壊死を認め,壊死性腸炎の診断にて緊急手術を行った.大腸の腸管壁は脆弱となり菲薄化し,大腸全摘,回腸瘻造設術を施行した.切除標本では大腸はいわゆるぼろ雑巾様所見を呈していた.病理組織診にて栄養型アメーバ虫体が認められ劇症型アメーバ性大腸炎と診断された.診断に難渋する腸炎では本症を念頭に置き精査をすすめるとともに,適切な術式を選択することが肝要と考えられた.
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