日本大腸肛門病学会雑誌
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76 巻, 5 号
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臨床研究
  • 小村 憲一
    2023 年 76 巻 5 号 p. 367-371
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/27
    ジャーナル フリー

    目的

    慢性機能性直腸肛門痛(以下肛門痛)患者に対する,疎経活血湯の使用経験を報告する.

    対象は57例.治療効果の判定基準は,痛みが完全に消失したもの「著効」,軽減したもの「有効」,不変であったものを「無効」とした.

    結果

    著効19例,有効25例,4週間以内の内服で効果を示した.

    副反応により中止した2例を除き「著効有効例」44例と「無効例」11例を比較した.平均年齢:62.1歳,55.1歳.男女比:17/27,8/3と女性に効果が多く認められた(有意差あり).病悩期間,肛門疾患手術既往歴,脊椎疾患の有無には有意差は認めなかった.治療中の精神疾患の有無:6/38,7/4であり,精神疾患のない患者に効果が多く認められた(有意差あり).

    結論

    肛門痛に対して,疎経活血湯は77.2%に症状改善がみられ,4週間投与すれば効果が現れ,有効な治療法と考えられた.

    特に女性と精神疾患のない患者に有効率が高かった.

症例報告
  • 白木 巧, 美甘 麻裕, 立田 協太, 杉山 洸裕, 小嶋 忠浩, 赤井 俊也, 鈴木 克徳, 鳥居 翔, 倉地 清隆, 竹内 裕也
    2023 年 76 巻 5 号 p. 372-376
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/27
    ジャーナル フリー

    【背景】家族性大腸腺腫症(FAP)に対する大腸切除術後の残存直腸に発症する腺腫や癌に対し,残存直腸切除術を行う症例が存在するが,残存直腸切除術後の長期経過の報告は極めて少ない.【症例】25歳時にFAPの診断で結腸全摘・回腸直腸吻合術(IRA)を施行した.残存直腸に腺腫が多発し,33歳時に残存大腸全摘・回腸嚢肛門管吻合術を施行した.数cmの残存直腸に腺腫および腺腫内癌が発生し,36歳時より内視鏡的腫瘍切除術や経肛門的腫瘍切除術を複数回施行したが,瘢痕化に伴い治療困難となった.60歳時に多発した残存直腸腺腫の切除目的に腹会陰式直腸切断術を施行した.【考察】FAPに対するIRA後の残存直腸切除の際に残存直腸粘膜を有する術式を選択した場合,その後の長期経過で多発する腺腫の切除が困難となり3度目の腸管切除を要する症例が存在する.IRA後の残存直腸切除は,肛門管部粘膜まで切除する術式を検討すべきと考える.

  • 松浦 雄祐, 太田 博文, 宗方 幸二
    2023 年 76 巻 5 号 p. 377-380
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/27
    ジャーナル フリー

    【背景】毛巣洞は仙骨部正中に,体毛の多い男性に好発する疾患であり,根治術としては洞の完全切除が必要であるが単純切除縫合では,創離開することも少なくない.今回,仙骨部の毛巣洞に対してRhomboid flap(菱形皮弁)形成術にて良好な創癒合を得た症例を経験した.

    【症例】患者は34歳男性.3週間前より仙骨部に膨隆・疼痛が出現したため近医を受診し,毛巣洞が疑われたため当院紹介受診した.仙骨部正中に径3cm程度の平坦な隆起を認め,軽度の圧痛を認めた.毛巣洞と診断し,腰椎麻酔下にて手術をした.皮膚切開は隆起部を含む菱形とし,皮下に嚢腫様の腫瘤を認め,同部を損傷しないように完全に切除した.切除部位の左側に菱形皮弁(Rhomboid flap)を作成し,創部に緊張がかからないように欠損部位に転位させ皮膚縫合した.術後半年,創部癒合は良好であった.

  • 大本 亮輔, 竹山 廣志, 鈴木 陽三, 池永 雅一, 清水 潤三, 冨田 尚裕
    2023 年 76 巻 5 号 p. 381-386
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/27
    ジャーナル フリー

    症例は91歳の女性で腹痛,嘔吐を主訴に救急搬送された.腹部CTで下行結腸穿孔が疑われ,緊急手術を施行した.術中所見で下行結腸に穿孔部を認め,穿孔部を含む左側横行結腸から下行結腸を切除してHartmann手術を施行した.病理組織学的所見では穿孔部周囲の粘膜に虚血性変化を認め,硬便の存在から宿便性大腸穿孔と診断した.術後9日目,炎症反応の再上昇を認め,腹部CTで人工肛門近傍の上行結腸に穿孔を認め,結腸亜全摘術,回腸人工肛門造設術を施行した.病理組織学的所見では粘膜の虚血性変化は認めず,粘膜筋層の急峻な断裂像を認め,特発性大腸穿孔と診断した.初回術後51日目に軽快退院した.宿便性大腸穿孔と特発性大腸穿孔は発生部位や症状,病理学的所見が類似しておりその鑑別が問題となる.今回,われわれは短期間に異なる機序で2度の大腸穿孔をきたした1例を経験したので報告する.

  • 岩﨑 喜実, 永井 健, 菅野 優貴, 臺 勇一, 上田 和光
    2023 年 76 巻 5 号 p. 387-392
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/27
    ジャーナル フリー

    症例は82歳女性.貧血の精査のため当院に紹介となった.胸腹部造影CTで中間リンパ節転移を伴う上行結腸癌が疑われ,下部消化管内視鏡検査にて全周性3型腫瘍を上行結腸に認めた.根治切除可能と診断し,腹腔鏡下回盲部切除術,D3郭清を施行した.病理組織学的検査にて腫瘍は髄様癌と診断され,腹壁浸潤を認めたが,剥離断端は陰性で所属リンパ節転移もなく,術後補助化学療法は施行せず経過観察していた.術後7ヵ月目の造影CTにて,左副腎転移と大動脈周囲と右外腸骨動脈周囲リンパ節転移を認めた.原発巣の遺伝子検査で,MSI-highとBRAF V600E遺伝子変異陽性であった.Capecitabine+Bevacizumab療法を4コース施行したが,リンパ節増大を認め,Nivolumab療法に変更後1年9ヵ月を経過した現在PRを維持している.免疫療法が奏効した髄様癌の症例を経験したので,文献的考察を含めて報告する.

  • 濱﨑 友洋, 黒田 雅利, 熊野 健二郎, 池田 英二
    2023 年 76 巻 5 号 p. 393-399
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/27
    ジャーナル フリー

    症例は84歳,男性.腹痛で当院を受診し急性虫垂炎の診断で腹腔鏡下虫垂切除術を施行した.

    術中所見で虫垂穿孔に伴う膿瘍形成を認めた.虫垂癌,tub2,切除断端陽性と診断され,追加切除として腹腔鏡下回盲部切除術(D3)を施行した.最終診断はpT3,N0,M0 StageIIaであった.

    術後1年目のCT検査で吻合部付近の腸間膜に造影効果を伴う23mm大の腫瘤を認め,FDG-PETでも同部位にSUV max:2.6の軽度集積がみられた.虫垂癌の局所再発も否定できず,腸間膜腫瘍切除術,回腸結腸部分切除術を施行した.

    病理検査では絹糸に対する異物反応と膿瘍形成を認め,縫合糸膿瘍と診断された.

    腸間膜血管処理に用いた絹糸が縫合糸膿瘍の原因と考えられた.

    縫合糸膿瘍は局所再発との鑑別が問題になることも多いことに留意する必要がある.

  • 浦谷 亮, 三枝 晋, 山下 真司, 藤川 裕之, 毛利 智美, 田中 光司, 問山 裕二
    2023 年 76 巻 5 号 p. 400-404
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/27
    ジャーナル フリー

    症例は88歳の女性.1型直腸S状部癌に対し,待機手術予定であったが,手術入院予定日の9日前に腹痛を認め,当院を受診した.腹部理学所見,採血検査および腹部レントゲン検査では有意な所見を認めなかったが入院管理を行った.入院後腹部症状の増悪なく,予定手術を行った.開腹所見は,腹膜反転部に腸重積を認め,腸管は浮腫を伴い骨盤腔に嵌頓していた.腸重積の用手整復は困難と判断し,直腸の授動を腸重積先進部肛門側まで十分に行い,腸重積部を骨盤外に誘導,直腸の可動性を確保した上で,用手整復を行った.摘出標本で腸管壁肥厚と約6cm長の帯状粘膜壊死を認めたため,一期的吻合は行わず,ハルトマン手術を施行した.腫瘍径の大きい1型もしくは絨毛性腫瘍では腸重積をきたしやすいことが報告されており,本症例も腹痛を認めた時点で,腸重積の有無を鑑別すべきであった.術中整復に難渋した直腸S状部癌重積・嵌頓の1例を経験したので報告する.

  • 富原 一貴, 水内 祐介, 佐田 政史, 永吉 絹子, 永井 俊太郎, 山田 裕, 小田 義直, 中村 雅史
    2023 年 76 巻 5 号 p. 405-410
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/27
    ジャーナル フリー

    症例は73歳男性,血便精査に行った下部消化管内視鏡で直腸Ra~Rb前壁に半周性2型病変を認め,生検で腺癌と診断された.居住地がかつての日本住血吸虫流行地域であったが,寄生虫疾患の罹患歴はない.術前検査では日本住血吸虫症罹患を示唆する所見は認めず,直腸癌に対して腹腔鏡補助下腹会陰式直腸切断術を施行した.病理診断で癌周囲の正常部の粘膜下層に日本住血吸虫卵を認めた.術後経過は良好で5年経過後も癌の再発や寄生虫疾患発症を認めなかった.日本住血吸虫症はミヤイリガイを中間宿主とする寄生虫疾患で皮膚炎や消化器症状で発症,重症化すると肝硬変をきたす.ミヤイリガイ撲滅により1978年以降国内での感染は認められていない.しかしそれ以降も大腸癌手術の病理標本に日本住血吸虫卵を認めた症例報告が散見される.本症例も直腸癌の切除標本に日本住血吸虫卵を認めた1例であり,文献的考察を踏まえ報告する.

編集後記
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