日本大腸肛門病学会雑誌
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75 巻, 10 号
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主題I:COVID-19 パンデミックが大腸肛門病診療にどのような影響を与えたか
  • 小林 望, 関口 正宇, 斎藤 豊
    2022 年 75 巻 10 号 p. 417-423
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/28
    ジャーナル フリー

    COVID-19パンデミックにより,がん検診は世界的に停滞した.わが国においても第1回緊急事態宣言の発令に合わせて多くの施設でがん検診が中断され,受診者数は1~2割程度減少したとされているが,正確な数字は把握できていない.一方海外では,元々検診受診者の情報が個別に管理されており,パンデミック下での受診者数の減少や精密検査のキャパシティー低下などのデータを迅速かつ正確に把握し,それをシミュレーションモデルを用いて解析することによって,根拠のある対応策を打ち出している.2020年の院内がん登録の集計結果からも,検診で発見された大腸がん患者数は減少しており,また発見がんも早期の割合が減少していた.このことが長期的にどのような影響を及ぼすのか,それを防ぐにはどのような対策を講じるべきなのかを議論する上で,国レベルで全国民のデータ集積を行う体制作りが急務である.

  • 田中 聖人
    2022 年 75 巻 10 号 p. 424-432
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/28
    ジャーナル フリー

    coronavirus disease 2019の感染拡大は消化器内視鏡診療をはじめとするわが国の医療に大きな影響を及ぼした.今回Japan Endoscopy Databaseに提供されたデータを解析し,その影響を解析した.消化管内視鏡診療は2020年4月の最初の感染拡大により大きな影響を受け,半減するほどの影響を被っていた.特に上下部消化管内視鏡検査と大腸内視鏡治療への影響が非常に大きかった.その後速やかに感染拡大の影響から回復し,前年と同様の診療件数にまで復帰している.また検査件数の減少により癌の発見が遅れる,あるいは進行癌が増えたという想定もあったが,2021年12月までのデータによる解析では明らかな癌症例の増加や進行癌の増加は認められず,処置内容にも大きな影響はみられなかった.今後2022年以降の消化器内視鏡診療への影響を見守ってゆく必要がある.

  • 須並 英二, 加藤 俊介, 諏訪 勝仁, 山口 浩和, 寺西 宣央, 木庭 雄至, 矢作 雅史, 大倉 史典, 鈴木 隆文, 山本 訓史, ...
    2022 年 75 巻 10 号 p. 433-441
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/28
    ジャーナル フリー

    (目的)COVID-19の感染流行により従来の医療提供は不可能となり,医療従事者,患者双方に変化が余儀なくされた.特に大腸癌外科診療に与えた影響を医療提供面での変化と医療受給者の病状という観点から明らかにすることを目的とした.(方法)北多摩地区の3つの隣接する二次保健医療圏全域において大腸癌外科診療を行う全21施設に,医療提供状況,手術実施状況,手術内容,周術期管理などに関する調査を行い,COVID-19流行前と流行時の変化を分析した.(結果)2020年に約10%程度手術症例が減少し,stageIの症例数は13%減少していた.検診を契機とする受診は21%,有症状での受診も6%減少していた.80%の施設で外科医もCOVID-19患者診療に従事し,87%の施設で待機手術に関して制限が行われた.(結論)大腸癌の発見率は低下し,大腸癌の進行度は進んでいた.また病院としての機能低下が認められた.

  • 松島 小百合, 宮島 伸宜, 酒井 悠, 紅谷 鮎美, 彦坂 吉興, 河野 洋一, 香取 玲美, 松村 奈緒美, 深野 雅彦, 岡本 康介, ...
    2022 年 75 巻 10 号 p. 442-448
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/28
    ジャーナル フリー

    目的:肛門の良性疾患を中心に診療する当院がCOVID-19流行により受けた影響について検討する.

    対象・方法:2019年4月1日から2022年3月31日までの期間で,当院新規患者数・S状結腸内視鏡検査件数・大腸癌発見率・手術件数を国内COVID-19新規患者数の推移を元に比較した.さらにCOVID-19流行前後に分けて比較検討した.

    結果:新規患者数は流行前に比較し20%減少した.S状結腸内視鏡検査件数は10%減少した.大腸癌発見率は変わらなかった.手術件数は全体で3%減少し,特に緊急手術件数は流行前と比較し15%減少した.

    考察:新規患者数・手術件数ともに減少した.特に緊急手術件数が減少したが,原因として新規患者数の減少と稼働可能病床数を制限したことなどが考えられる.

    結語:今後も引き続き徹底した感染対策を行い,患者数などの推移を観察する必要がある.

主題II:ゲノム医療時代の大腸癌診療
  • 三森 功士
    2022 年 75 巻 10 号 p. 449-452
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/28
    ジャーナル フリー

    がんゲノム医療により分子標的薬に合致した患者群は生存期間が延長した.しかしその恩恵を享受できる症例は未だに少ない.ごく最近,ミスマッチ修復酵素異常を有する直腸がん12例に対してPD1阻害剤を投与したところComplete Responseが100%という衝撃的な報告がなされたことをまず紹介する.一般に大腸がんはAPC/βcateninなどWNTシグナル経路,KRASを擁するEGFR/PI3Kシグナル経路,Notchシグナル経路そしてTGFβシグナル経路におけるゲノム変異が重要であり,これらを標的とした創薬において世界中で鎬が削られている.また核内転写因子に対する阻害剤の開発は難しいとされておりWnt/βcatenin TCF複合体に対しては未だに有効な化合物はない.本稿では免疫療法を含め大腸がん治療標的となる遺伝子変異を改めて確認すると同時に治療薬に関する最新情報の一部を紹介する.

  • 永坂 岳司
    2022 年 75 巻 10 号 p. 453-460
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/28
    ジャーナル フリー

    大腸癌は,遺伝性大腸癌症候群と非遺伝性の大腸癌に大別され,また,分子生物学的特徴からhypermutant phenotypeとnon-hypermutant phenotypeに大別される.特に,hypermutant phenotypeの大多数を占めるミスマッチ修復蛋白欠損大腸癌に対しては,外科的切除を要さずにImmune checkpoint inhibitorの投与のみで根治可能な時代が到来している.この驚くべき進歩は,包括的がんゲノムプロファイリング(CGP)検査を治療前検査へ誘導し,検査対象者を大腸癌患者全例へと拡大させる.本稿では,このCGP検査に伴う二次的所見に今後関与するであろう,遺伝性大腸癌症候群の原因と考えられる生殖細胞変異に焦点を当て,現在までにわかってきていることを概説する.

  • 賀川 義規, 井上 彬, 西沢 佑次郎
    2022 年 75 巻 10 号 p. 461-467
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/28
    ジャーナル フリー

    「がんゲノム医療」は,がんのゲノムプロファイルを把握し,がんの原因となる遺伝子の変異に基づいて診断や治療を行う医療である.「がんゲノム医療」により,各腫瘍,各個人に最適な治療を提供することができる.大腸癌治療ガイドライン2022年版では,「切除不能進行再発大腸癌の患者に対し,1次治療開始後から後方治療移行時までの適切な時期に,包括的がんゲノムパネル検査(以下,CGP検査)を実施することが望ましい.」となっている.また,腫瘍組織だけでなく,血液検体を用いたがんパネル検査が臨床実装されており,がんゲノムプロファイリングによる腫瘍のサブタイプに基づいた治療選択や今後の展望などについて解説する.

  • 三吉 範克, 藤野 志季, 関戸 悠紀, 波多 豪, 浜部 敦史, 荻野 祟之, 高橋 秀和, 植村 守, 山本 浩文, 土岐 祐一郎, 江 ...
    2022 年 75 巻 10 号 p. 468-472
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/28
    ジャーナル フリー

    StageIII結腸癌の術後については6ヵ月のoxaliplatin併用療法が最も有効な治療選択と推奨されている.FOLFOX群では6ヵ月投与群の方で無病生存率の優越性が示され,CAPOX群では3ヵ月投与群の非劣性が示されており,副作用の神経障害に関しては3ヵ月投与群で少ないことから,治療効果とのバランスを考えることが重要である.MSI-H大腸癌は比較的予後良好でありフッ化ピリミジン単独療法による手術単独群に対する術後補助化学療法の優越性は示されておらず,ゲノム解析の結果を評価した上での治療法の選択が望まれる.がん細胞においてBRAF V600E,KRAS,PIK3CAの遺伝子変異解析やMSIのステータスなど遺伝子発現レベルをみることやliquid biopsyに関する研究も行われており,治療選択にあたっては,効果とバランスを考慮して再発リスクに応じた治療が望まれる.

  • 品川 貴秀, 園田 洋史, 吉岡 佑一郎, 永井 雄三, 阿部 真也, 松崎 裕幸, 横山 雄一郎, 江本 成伸, 室野 浩司, 佐々木 和 ...
    2022 年 75 巻 10 号 p. 473-477
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/28
    ジャーナル フリー

    潰瘍性大腸炎(UC)に代表される炎症性腸疾患では,腸管粘膜の慢性炎症性変化を背景に,大腸癌の発生リスクが上昇することが知られている.このUC関連大腸癌(CAC)の発生は,慢性炎症に伴う種々のサイトカインやフリーラジカルによる酸化ストレスにより生じる様々なジェネティック・エピジェネティックな変化の蓄積が原因となることが知られており,その発癌経路は“dysplasia-carcinoma sequence”と呼ばれる.これは通常の散発性大腸癌における“adenoma-carcinoma sequence”とは対照的に,早期にTP53変異や,MSI,CpGアイランドのメチル化などが生じ発癌に至るモデルであり,APC遺伝子変異やKRAS変異の寄与は少ないという点が特徴的である.その病態に関しては未だ不明な点も多いが,近年徐々に原因遺伝子が明らかになってきており,今後の臨床応用が期待される.

  • 山本 晃, 大北 喜基, 今岡 裕基, 志村 匡信, 川村 幹雄, 問山 裕二
    2022 年 75 巻 10 号 p. 478-486
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/28
    ジャーナル フリー

    潰瘍性大腸炎(UC)症例は大腸癌発生リスクが報告されており,UC関連大腸癌(UC-CRC)として知られ,発癌様式の違いから散発性大腸癌と区別される.UC-CRCの問題点は,若年発症および予後不良,診断困難性にあり,早期発見および診断の一助となるマーカーの開発は重要な課題である.時間依存的,空間依存的な発癌リスクを反映した内視鏡サーベイランスが行われているが,形態的な変化から前癌病変を捉えることは困難な場合がある.形態的変化を生じる以前から,前癌病変としての分子生物学な変化を生じる現象はfield effectとして知られ,発癌素地としての空間的な変化を反映する可能性がある.さらに,UCに特徴的な直腸から連続する持続性炎症は,epigenetic driftと呼ばれるエピゲノム変化の蓄積を直腸優位に引き起こす可能性があり,発癌素地としての時間的変化を反映する可能性がある.これらの現象を掛け合わせ,かつ癌特異的な変化を評価できる方法を開発することが,UC-CRC診断およびサーベイランスに有益な新たな診断マーカーの開発につながる可能性がある.本稿では,既知の分子生物学的観点からのUC-CRC診断バイオマーカーと当科の新たなサーベイランス法の開発研究につき概説する.

編集後記
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