日本大腸肛門病学会雑誌
Online ISSN : 1882-9619
Print ISSN : 0047-1801
ISSN-L : 0047-1801
75 巻, 8 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
総説
  • 角田 明良
    2022 年 75 巻 8 号 p. 371-378
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/28
    ジャーナル フリー

    小腸瘤は直腸前壁と膣後壁の間に生じた腹膜を随伴するヘルニアで,ヘルニア内容は主に小腸である.子宮摘出術の既往のある高齢の女性に多く,直腸重積,直腸瘤,直腸脱,会陰下垂などの解剖異常が高頻度に合併する.小腸瘤に特徴的な症状は骨盤底の圧迫感,脱出感,擬似便意,下腹部痛などである.排便困難を呈する例も多いが,原因は小腸瘤に合併する解剖異常のためと考えられる.確定診断は排便造影などの画像診断による.手術は小腸瘤に特徴的な症状が,患者のQOLを損なう場合に考慮する.術式の選択は低侵襲な腹腔鏡手術が望ましい.中でもlaparoscopic ventral rectopexyは小腸瘤に高頻度に合併する直腸脱,直腸重積,直腸瘤を同時に修復可能な合理的術式と思われる.

原著
  • 永吉 絹子, 三渕 晴香, 渡邊 歓, 久野 恭子, 田村 公二, 佐田 政史, 水内 祐介, 永井 俊太郎, 中村 雅史
    2022 年 75 巻 8 号 p. 379-386
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/28
    ジャーナル フリー

    【背景】当科では脾弯曲部結腸癌に対して空腸曲外側からの腸間膜背側授動を先行する定型手技を行っている.解剖学的検討から中枢郭清の至適範囲を考察し,本定型手技の安全性を検証する.【方法】2008~2020年までに外科治療を施行した脾弯曲部結腸癌50例を腫瘍局在で分け流入血管とリンパ節分布を比較した.定型化前後(前;32例,後;18例)に分けて短期手術成績・長期予後も比較検討した.【結果】横行結腸主座の腫瘍は主流入血管が多岐にわたっていた(中結腸動脈左枝のみ;26.3%,左結腸動脈(LCA)のみ;15.8%,2本以上;54.1%).下行結腸主座の腫瘍では69.2%がLCA単独で栄養されていた.定型化後は手術時間が有意に短縮していた(277分vs. 345分,P=0.03).術後合併症に差はなかった.【結語】脾弯曲部結腸癌手術における定型手技と血管解剖の理解に基づく中枢郭清は安全な手術操作を可能とする.

症例報告
  • 平田 伸也, 服部 公博, 村瀬 佑介, 田尻下 敏弘, 栃井 航也
    2022 年 75 巻 8 号 p. 387-392
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/28
    ジャーナル フリー

    症例は81歳男性,急激な腹痛を訴え受診した.腹部造影CTで右側結腸間膜内に早期相で造影される3cm大の動脈瘤を疑う所見を指摘された.上腸間膜動脈領域の動脈瘤破裂を疑い腹部血管造影検査を行った.回結腸動脈枝からの血管外漏出を認めた.コイルとヒストアクリル®を用いて塞栓止血され,施行後6日目に退院した.退院6ヵ月後に,腹痛で救急外来を受診した.腹部造影CTで腫瘤は5cm大に増大し造影効果を認めた.動脈瘤の再破裂を疑い緊急手術を行った.開腹すると腹腔内出血はなく,回盲部に暗赤色の鶏卵大腫瘤を認めた.回盲部切除術を施行し,経過は良好で11日目に退院された.病理組織学的検査では悪性リンパ腫と診断され,血液内科で加療中である.今回われわれは回結腸動脈瘤破裂と鑑別が困難であった悪性リンパ腫の1例を経験した.動脈瘤破裂を疑いTAE後6ヵ月で増大し手術を行った症例について若干の文献的考察を加え報告する.

  • 石丸 和英, 中﨑 隆行, 安倍 邦子
    2022 年 75 巻 8 号 p. 393-398
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/28
    ジャーナル フリー

    症例は66歳女性.肺癌の治療中に施行したPET-CTで,虫垂根部にFDG集積を認めた.下部内視鏡検査で虫垂口に粘膜下隆起と発赤を認め,造影CTで同部位に造影効果を伴う壁肥厚を認めた.虫垂腫瘍を疑い腹腔鏡下回盲部切除術を施行した.切除標本では虫垂根部を中心に壁肥厚を認め,病理組織学的には,裂孔形成と全層性炎症,類上皮細胞性肉芽腫を認め,虫垂クローン病と診断した.虫垂Crohn病は稀であり,多くが急性虫垂炎と術前に診断され,術前診断は困難である.今回無症状で発見された虫垂Crohn病の1例を経験したため文献的考察を加え報告する.

  • 小松﨑 修平, 福沢 淳也, 川松 夏実, 永田 千草, 野﨑 礼史
    2022 年 75 巻 8 号 p. 399-402
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/28
    ジャーナル フリー

    症例は46歳,女性.腹痛精査のCTで穿孔性虫垂炎,回盲部周囲膿瘍と診断され,52日後に待機的腹腔鏡下虫垂切除術を施行した.病理診断で虫垂杯細胞カルチノイド(以下,GCC)の診断となった.漿膜面や外科的剥離面への露出,口側断端陽性が否定し得ず,初回手術から27日後に追加切除として腹腔鏡下回盲部切除術を施行した.骨盤腔内と右横隔膜下に腹膜結節を認め,小骨盤腔の結節を切除した.病理診断では,残存虫垂にもGCCが認められ,腹膜結節は虫垂GCCの腹膜播種であった.遠隔腹膜への播種転移のためStageIVcの診断で,SOX療法を開始した.現在は術後16ヵ月,無増悪生存中である.

    虫垂GCCは虫垂炎手術で予期せず診断に至ることが多い.追加切除の基準や,有効な化学療法にはまだ定まった見解がなく,更なる症例の蓄積が希求される.

  • 大熊 誠尚, 小菅 誠, 高田 直樹, 山澤 海人, 岡本 敦子, 中野 貴文, 今泉 佑太, 江藤 誠一郎, 菅野 宏, 武田 泰裕, 衛 ...
    2022 年 75 巻 8 号 p. 403-408
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/28
    ジャーナル フリー

    症例は70歳代,男性.既往歴に2型糖尿病,左脳梗塞,高血圧症,脂質異常症があり前医通院中に血便を認めた.下部消化管内視鏡検査にて,直腸S状部癌と診断された.術前精査目的で施行したCT検査で腹部大動脈の閉塞を認めたことからLeriche症候群と診断され,精査加療目的で当院紹介となった.

    当院にて行った精査にて骨盤内臓器や下肢にsystemic-systemic pathwayやvisceral-visceral pathwayと呼ばれる腹壁や体幹の側副血行路を介した血流を認めた.これらの側副血行路を損傷した際には腸管虚血や下肢虚血といった重大な術後合併症が起こることが予想された.今回,われわれは術前,術中に詳細な血流評価を行うことで,側副血行路を損傷することなく直腸S状部癌に対して安全に腹腔鏡下Hartmann手術を施行可能であったので文献的考察を加え報告する.

  • 萩原 千恵, 筒井 敦子, 中西 亮, 長田 宏巳, 杉谷 雅彦, 内藤 剛
    2022 年 75 巻 8 号 p. 409-414
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/28
    ジャーナル フリー

    症例は80歳男性.健診で腫瘍マーカー上昇を指摘され当院を受診した.下部消化管内視鏡検査で上行結腸に0-IIa病変を認め,生検でadenocarcinoma(por/sig)が検出された.CT検査では多数の回盲部リンパ節腫大を認め,上行結腸癌cT1bN2bM0と診断して腹腔鏡下回盲部切除術を施行した.切除組織の漿膜下層に20mm大の腫瘤を認めたが,同部位は粘液癌の転移により腫大したリンパ節であった.追加切り出しで転移巣近くの上行結腸に1.5mm大の小さな印環細胞癌病巣が認められ,上行結腸癌pT3(Ly)N2bM0の診断とした.CAPOXによる補助化学療法後に傍大動脈リンパ節転移・腹膜播種再発を認めたが,FTD/TPIに変更した後は腹膜播種が縮小し腫瘍マーカーが正常化した.大腸の印環細胞癌は稀で難治例が多いが,今回再発後の治療が奏効した症例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.

編集後記
feedback
Top