日本大腸肛門病学会雑誌
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60 巻, 4 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
総説
  • ―基礎から臨床へ―
    高木 都
    2007 年60 巻4 号 p. 191-197
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
    統合的機能である排便反射は主として直腸―直腸収縮反射と直腸―内肛門括約筋弛緩反射より引きおこされている. 直腸の適度な加圧伸展は, 伸展部位の収縮反射とそれと同期した内肛門括約筋の弛緩反射をおこす. 両反射は, (1) 骨盤神経を介する仙髄レベルの促進反射, (2) 結腸神経を介する腰髄レベルの抑制反射および (3) 壁内神経系を介する内反射によって制御されている. これらの反射は (4) 求心路を骨盤神経とする橋排便反射中枢を介する腰髄での結腸神経活動の抑制機構で制御されている. 直腸における糞便の貯留には腰髄レベルの抑制反射が関与し, 排便時にはこの抑制反射の脱抑制が鍵となる. これらの反射経路の可塑性は, 外反射経路が損傷されても内反射のみで十分な排便機能が発現することや, 内反射経路が損傷されても, 無傷群と同程度まで回復するという高木らの実験結果によって立証された. その可塑性を利用した肛門機能温存のための新治療法をはじめとしていくつかの可能性を示唆した.
  • 竹田 明彦, 小山 勇, 島田 英昭, 落合 武徳
    2007 年60 巻4 号 p. 198-204
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
    p53遺伝子は核内転写調節因子として多彩な機能を有し, 大腸発癌や初期腫瘍進展に重要な役割を演じる. 癌患者では変異型p53蛋白の蓄積にともない, 血清中にp53抗体が出現しELISA法により測定が可能となる. 今回血清p53抗体測定用の国産キットを開発し, 大腸癌278例 (原発 : 258, 再発 : 20) における有用性を検討した. (1) 血清p53抗体の陽性率は32.4%で, CEA (36.5%) とほぼ同程度である. (2) 臨床病理学的所見や他の腫瘍マーカーとの相関性がない. (3) 早期段階 (Stage : 0/I/II) における陽性率はCEAを有意に凌駕する. (4) 陽性例では治癒切除後, 速やかに陰性化し手術的根治度と有意な相関関係を認める. (5) 術前陽性例では有意に抗癌剤感受性が低下した. 大腸癌に対する血清p53抗体検出は簡便かつ非侵襲的で繰り返して測定可能な検査法であり, 早期診断, 治療効果の判定, 術後のモニタリングなどに広く有用である.
原著
  • 宇都宮 高賢, 柴田 興彦, 菊田 信一, 堀地 義広, 川野 豊一, 八尾 隆史
    2007 年60 巻4 号 p. 205-212
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
    目的, 対象と方法 : 一次口を別にする瘻管を2本以上をもつ痔瘻33例 (男性31人, 女性2人) 瘻管総数67本について瘻管を完全切除し, その組織像を検索した. 結果 : 多発性痔瘻では外括約筋を貫く肛門管に対し放射状に直走する瘻管, 組織型では瘻管形成型 (37/67) が多く, 一次口の位置では6時位 (18/67) に多かった. 瘻管内に肛門腺を認める症例は49% (33/67) であり, IV型痔瘻はなかった. 瘻管組織の特徴は, 膿瘍併存型痔瘻でも脂肪組織内に炎症細胞の浸潤を認めるものの, 膿瘍を強く形成する症例はなかった. 瘻管形成型, 膿瘍併存型痔瘻にみられる肛門腺は分葉型 (20/33) を多く認めた. 円柱上皮と移行上皮で構成される管壁では腺管破壊像と粘液産生能を認めたが, 扁平上皮化生で構成される肛門腺は, 管壁の破壊像, 粘液産生能はなく, 管壁周囲の炎症は軽度あるいは消退していた. 結論 : 多発性痔瘻の瘻管は, 炎症性細胞の浸潤は弱く, 肛門腺の関与する割合は半数以下であり, 肛門腺は感染に弱いが扁平上皮に化生するため炎症は消退しやすいと推測された.
  • 安部 達也, 鉢呂 芳一, 国本 正雄
    2007 年60 巻4 号 p. 213-217
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
    目的 : 新しい内痔核硬化療法剤である硫酸アルミニウムカリウム・タンニン酸注射液 (Aluminium potasium tannic acid : 以下ALTA) と結紮切除術 (Ligation and excision : 以下LE) の治療成績を比較した. 対象 : 2005年4月から2006年3月の間に3カ所以上の内痔核に対してALTA単独で治療を行った276例と, 同様に3カ所以上LEのみで治療を行った138例. 結果 : 術後鎮痛剤 (ロキソプロフェンナトリウム1回2錠) 使用率はALTAでは術当日7%, 翌日7%, 翌々日3%. LEではそれぞれ69%, 67%, 60%であった. 術後在院日数はALTAが3.69日, LEが13.7日. 術後偶発症はALTAでは2.5%, LEでは12%に認めた (p<0.01). 再発はALTA9例, LEは1例に認めた. 結論 : ALTAはLEに較べて入院日数, 術後疼痛および偶発症が少なくQOLの点で格段に優れていた. 今後満足できる長期成績が得られれば内痔核に対するスタンダード治療となりうる.
症例報告
  • ―本邦報告例の検討―
    大倉 隆介, 石津 寛之, 岡田 邦明, 益子 博幸, 三木 敏嗣, 近藤 征文
    2007 年60 巻4 号 p. 218-223
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
    我々は, 腸重積をきたして肛門より脱出したS状結腸癌の1例を経験した. 症例は88歳男性. 残胃癌・S状結腸癌を指摘されていたが, 高齢のため手術を希望せず経過観察中であった. 2006年2月, 排便時に肛門から結腸が脱出し, 近医を受診した. 徒手整復不可能なため, 当院に救急搬送された. 来院時, 肛門より結腸が脱出しその先端部に腫瘍を認めた. S状結腸癌を先進部とする腸重積症と診断し, 緊急手術を施行した. 腹腔側より腸管を牽引し, また会陰より圧迫しながら整復したが, 腫瘍の両側に高度のうっ血を認めたため, これを含め十分な距離を取ってS状結腸切除術を行った. 病理組織学的所見は, S, Is型, 42×64mm, 高分化腺癌 (carcinoma in adenoma), pSM3, ly0, v0, pN0, Stage Iであった. 術後経過は良好で, 術後20日目に退院となった.
  • 栗原 聰元, 船橋 公彦, 後藤 友彦, 小池 淳一, 岡本 康介, 齋藤 直康, 越野 秀行, 龍 雅峰, 塩川 洋之, 牛込 充則, 新 ...
    2007 年60 巻4 号 p. 224-228
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
    症例は52歳男性. 繰り返す深部の直腸肛門周囲膿瘍に対して他院にて合計3回の切開排膿術と人工肛門造設術を受けた.
    今回, ゼリー状の排泄物が認められたため当院紹介, 入院となった. 諸検査からIII+IV型の痔瘻と診断, 生検ではGroup 3と癌の確定診断に至らなかったが肛門部の疼痛と2次口よりゼリー状の分泌物を認め癌化の可能性を強く疑った. 治療は, 再発を繰り返し複雑化した本症例の治療の難しさ, 患者の精神的・身体的苦悩の訴えとQOL低下を考慮し十分なICのもとに最終的に腹仙骨式直腸切断術を施行した. 組織学的には炎症細胞浸潤と著しい線維化を認めるのみで, 悪性所見は認めなかった. 痔瘻の治療は肛門機能の温存を図るべきであるが, 難治性で複雑化した痔瘻ではその病態から時として困難な場合もあり, 治療法の選択にあたっては患者の社会的背景を考慮して慎重に行う必要がある.
  • 内本 和晃, 小山 文一, 長尾 美津男, 井上 隆, 藤井 久男, 向川 智英, 中川 正, 児島 祐, 大槻 憲一, 中村 信治, 小林 ...
    2007 年60 巻4 号 p. 229-233
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
    患者は50歳代の男性. 近医にて直腸S状部進行癌と, 下部直腸前壁の壁不整を指摘され当科紹介となった. 内視鏡的には二つの病変間は3.5cmあり, 下部直腸病変はII型pitを呈し, 生検にてfibromuscular obliterationが検出された. 癌性狭窄による排便困難からいきみを誘発し, 二次的に生じた粘膜脱症候群を疑った. しかし, 当院での生検では下部直腸病変の一部にGroup 5が検出された. 下部直腸病変が癌である場合には直腸切断術を考慮する必要がある. 確定診断を得るためにEMRを行った. EMRの組織像では粘膜下層を中心に中分化腺癌が検出され, 直腸S状部癌の肛門側壁内進展と診断した. このため直腸切断術を行い, 病巣を遺残させることなく切除した.
    本症例はMPS様を呈した直腸S状部癌壁内進展巣を術前診断し, 適切な手術術式を選択しえた貴重な症例であった.
  • 安岡 利恵, 森田 修司, 門谷 洋一
    2007 年60 巻4 号 p. 234-238
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
    痔核の治療に使用した軟膏が原因と考えられる直腸Oleogranulomaの2例を経験したので報告する. 症例1 : 74歳, 男性. III度の内痔核に対し約半年間軟膏を使用した. 腹膜透析が施行されており, 急激な貧血の進行および便潜血陽性を認めたため上部・下部消化管内視鏡検査を施行した. 直腸粘膜下腫瘤が見られ, その周囲からの出血が著明なため経肛門的に切除した. 症例2 : 79歳, 男性. 全周性IV度の内外痔核に対し約3週間軟膏を使用した. 痛み等の症状の改善乏しく, かつ一部腫瘤形成を認めたため結紮切除を施行した. いずれも病理学的所見は直腸Oleogranulomaであった. 軟膏の副作用としての直腸Oleogranulomaは稀な疾患である. 確定診断に至れば軟膏の使用を中止し, 経過観察で軽快するといわれているが, 今回報告した2例は, 出血や嵌頓痔核による痛みが出現したため手術が施行され確定診断がなされた.
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