肛門および直腸に悪性黒色腫が原発することは稀であり,本邦では,1929年の江崎の報告以来,60例が報告されているにすぎない.
肛門痛と肛門出血を主訴として来院した65歳の女性に,直腸癌の診断により腹会陰式直腸切断術を施行し,病理組織学的に肛門直腸移行部原発の悪性黒色腫であった自験例を提示する.
肛門直腸悪性黒色腫の本邦60例について文献的に検討した.好発部位は,歯状線近傍の後壁で,組織学的には肛門直腸移行部であった.大きさは,2~5cmが最も多い.潰瘍形成は81.5%にみられた.60歳代に最も多く,平均60,0歳であった.男18例:女42例.症状では,出血48例,便秘17例,疼痛14例,腫瘤14例が多い.転移は,鼠径,直腸周囲などのリンパ節と,肝,肺などの臓器に多い。5年生存率10.7%で,平均生存期間17.5カ月であった.死因は,悪液質,転移再発巣よりの出血が多かった.
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