日本大腸肛門病学会雑誌
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63 巻, 7 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
原著
  • 長谷川 潤, 瀧井 康公
    2010 年 63 巻 7 号 p. 399-406
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/02
    ジャーナル フリー
    目的:大腸粘膜下浸潤癌(以下,sm癌)の追加手術を行う基準として深達度の相対値分類,絶対値分類の有用性を比較検討した.方法:当院で外科切除が行われたsm大腸癌156例(進行多発癌は除く)を対象.I型を隆起型,II型を表面型とし,相対値分類,絶対値分類の深達度ごとに脈管侵襲,リンパ節転移を比較検討した.結果:隆起型97例,表面型59例.リンパ節転移陽性率は表面型は深達度で差はなく,隆起型は相対値分類のsm1とsm3に有意差を認め絶対値分類で有意差なし.表面型,隆起型とも浸潤実測値はリンパ節転移の有無で有意差なし.リンパ節転移陽性例の浸潤実測最小値は表面型500μm,隆起型400μm.考察:リンパ節転移の危険率の予測に隆起型は相対値分類が有用,リンパ節転移の安全域という観点で絶対値分類が有用.追加切除の適応は相対値分類と絶対値分類の双方を考慮して決定することが必要と考えられる.
  • 衣笠 哲史, 赤木 由人, 室谷 健太, 牛島 正貴, 白土 一太郎, 吉田 武史, 龍 泰彦, 白水 和雄
    2010 年 63 巻 7 号 p. 407-414
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/02
    ジャーナル フリー
    目的:潰瘍性大腸炎(以下UC)の手術症例について統計学的手法にて癌合併の危険因子,白血球除去療法の指標因子などを検討した.対象と方法:2001年から2009年までにUCの診断で手術施行された39症例.検討項目は患者背景・手術適応・術後合併症などとした.また,樹形モデルも加えて統計学的検討を行った.結果:手術は待機手術30例,緊急手術9例であり,その適応は難治例24例,大腸癌合併6例,大量出血3例,急性腹膜炎1例などであった.術後合併症は16例に認め,緊急手術症例で重篤な合併症が多い傾向を認めた.樹形モデルを含めた解析では,白血球除去療法施行群で癌合併症例の割合は低く,その治療群でも罹病期間が133カ月を超えた場合は癌合併の疑いが強まることが示唆された.考察:今回の解析結果よりUC症例の癌合併の危険因子が明らかとなり,白血球除去療法の指標因子を含め手術時期を決める一つの指針になり得ると考えられた.
臨床研究
  • 矢野 孝明, 松田 保秀, 浅野 道雄, 川上 和彦, 中井 勝彦, 木村 浩三, 野中 雅彦, 田中 荘一, 石丸 啓, 田島 雄介
    2010 年 63 巻 7 号 p. 415-418
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/02
    ジャーナル フリー
    目的:肛門周囲膿瘍に対して,より有用な切開排膿を求めて(1)麻酔方法,(2)ドレーン挿入の有無,(3)その種類や(4)留置期間について調べ,それらが臨床的な結果(再発の有無)に影響を及ぼすかどうかを検討した.対象:当院で低位筋間型肛門周囲膿瘍と診断され,切開排膿を初めて施行した131例を対象とした.結果:全131例中,再発した症例は45例であり,再発せずに治癒した症例は86例であった.(1)~(4)のうち,(1),(2),(4)では有意差が認められず,(3)のみで有意差を認めた.つまり,ドレーン留置症例のうちソフトドレーンVSハードドレーンで比較検討したところ,ハードドレーンの方が有意に再発しにくい結果となった.結論:低位筋間型肛門周囲膿瘍に対する切開排膿では,麻酔方法やドレーンの有無は再発に影響しないことが示唆された.
症例報告
  • 田中 花林, 芹澤 宏, 首村 智久, 森永 正二郎, 常松 令, 中野 雅, 樋口 肇, 渡辺 憲明, 熊谷 直樹, 土本 寛二, 日比 ...
    2010 年 63 巻 7 号 p. 419-425
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/02
    ジャーナル フリー
    症例は38歳男性.生来健康で,特記すべき家族歴なし.34歳時,自覚症状はなかったが検診で便潜血反応陽性を指摘された.内視鏡検査で胃・大腸ともに数ミリから1cm大の100個以上のポリープ病変がみとめられた.大腸病変の1個に腺癌が認められ内視鏡での定期観察を受けていたが,38歳時腹部腫瘤,腹部膨満感を自覚するようになり,CTで径28cmの巨大な腹腔内腫瘤が確認された.開腹にて腫瘍および回腸・十二指腸・膵一部合併切除,右半結腸切除,上腸間膜動脈再建術を施行し,病理組織学的に腸間膜デスモイド腫瘍(線維腫症)と診断された.また,入院時の血液検査にてAPC遺伝子の変異が確認された.術後は内視鏡および画像検査にて経過観察しているが5年以上経過するも再発はみとめられていない.本症例は経過中に腸間膜デスモイド腫瘍を合併し,APC遺伝子異常が確認された孤発性Gardner症候群で興味深い症例と考えられた.
  • 大澤 智徳, 隈元 謙介, 竹内 幾也, 石畝 亨, 幡野 哲, 天野 邦彦, 横山 勝, 桑原 公亀, 石橋 敬一郎, 岩間 毅夫, 芳賀 ...
    2010 年 63 巻 7 号 p. 426-433
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/02
    ジャーナル フリー
    甲状腺乳頭癌を合併した家族性大腸腺腫症の1例を経験したので,臨床所見と遺伝子検索結果について,文献的考察を加えて報告する.症例は32歳,女性.28歳時に家族性大腸腺腫症と診断され,前医で定期的な経過観察を受けていた.S状結腸の有茎性ポリープに癌化が認められたため,当科を紹介された.大腸切除前のスクリーニング検査として行った頸部の超音波およびCTで甲状腺左葉に径8mm大の腫瘤性病変を認めた.細胞診の結果,乳頭癌と診断された.大腸全摘術の2カ月後に甲状腺亜全摘術が施行された.組織学的にはcribriform-morula variant of papillary thyroid carcinomaであった.末梢血と甲状腺組織からDNAおよびRNAを抽出し,APC 遺伝子変異を検索したところ,生殖細胞系列としてcodon 1179 TATAGTTTA→TAの7bp deletion,甲状腺癌の体細胞性変異としてcodon 607のTGT→GTのT deletionが検出され,APC 遺伝子変異のtwo-hitにより発生した甲状腺癌と考えられた.
  • 藤本 浩一, 大西 始, 山本 康久, 大西 長久, 大西 信行, 大西 博
    2010 年 63 巻 7 号 p. 434-439
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/02
    ジャーナル フリー
    症例は44歳女性で,2000年に発症した潰瘍性大腸炎にて,5-ASA 750mg/日・プレドニン10mg/日の内服により経過観察中であった.軽度の貧血はあるものの,寛解導入が得られており,炎症症状は認めなかった.難病疾患申請のための定期検査で,大腸内視鏡検査を行ったところ,大腸粘膜は寛解状態にあった.下行結腸の炎症性ポリープと共に,S状結腸には径20mm大の有茎性腫瘍(Ip)がみられ,いずれも内視鏡的に切除し,術後も問題なく経過した.S状結腸ポリープは,病理組織学的に毛細血管腫と判明した.本症は稀な疾患のため,術中念頭になく,適確な鑑別もしえぬまま内視鏡的切除を行ったことをふまえ,若干の考察を加え報告する.
  • 指山 浩志, 辻仲 康伸, 浜畑 幸弘, 松尾 恵五, 堤 修, 中島 康雄, 高瀬 康雄, 赤木 一成, 新井 健広, 星野 敏彦, 南 ...
    2010 年 63 巻 7 号 p. 440-443
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/02
    ジャーナル フリー
    症例は53歳の男性.工事現場のコンクリートから突出した鉄筋の上に座り受傷した.その後肛門痛があったが軽度であったため3週間放置し,症状悪化後近医を受診,外傷性直腸損傷による直腸周囲膿瘍の診断にて当院紹介入院となった.入院時は肛門痛著明で歩行困難であり,脱水状態であった.直腸指診では直腸後壁側に半周性の直腸壁欠損があり,外傷性直腸穿孔の診断で,双口式人工肛門を造設し,直腸周囲膿瘍のドレナージ術を施行した.未治療の糖尿病があり,膿瘍の改善が不良で治療に難渋したが,直腸穿孔部が閉鎖していることを確認の上,術後7カ月後人工肛門を閉鎖した.杙創性直腸穿孔は通常受傷後直ちに治療される場合が多いが,経肛門的な直腸損傷の場合,症状が乏しい場合があり,本症例のように受診が遅れることがある.受診の遅延は治療の難渋につながり,合併症の頻度を高めるため,早期の診断,治療が予後の改善には重要である.
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