日本大腸肛門病学会雑誌
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67 巻, 6 号
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原著
  • 山名 哲郎, 高尾 良彦, 吉岡 和彦, 味村 俊樹, 角田 明良, 勝野 秀稔, 前田 耕太郎
    2014 年 67 巻 6 号 p. 371-379
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/31
    ジャーナル フリー
    【はじめに】便失禁はQOLに大きな影響を及ぼす排便障害の一つであるが,これまで有効な治療法が確立されていないのが現状である.仙骨神経刺激療法は便失禁に対する有効性が認められ,欧州では1994年から,米国でも2011年に承認され使用されている.本邦でも本治療法の導入が望まれ,このたび承認申請にむけた前向き多施設共同研究を行ったのでその結果を報告する.
    【方法】便失禁の頻度が週2回を超える患者を仙骨神経刺激療法の適応とし,各施設の治験審査委員会の承認を得た上で,インフォームドコンセントのもとに治験を行った.最初に仙骨神経刺激用のリード埋め込みを行い,体外式刺激装置による2週間の試験刺激で50%以上の症状改善を認めた症例に,体内埋め込み型刺激装置(InterStim II,米国Medtronic社)を留置した.便失禁の症状は患者自身による排便日誌をもとに評価した.肛門内圧検査は術前および術後1ヵ月,3ヵ月,6ヵ月の時点で施行した.術前と比較して便失禁回数/週が50%以上減少した場合に治療有効と判定した.
    【結果】2011年1月から11月の間に治験に参加した22人の患者にリード埋め込み術を施行した.便失禁の原因は不明(特発性)10例,直腸術後8例,分娩外傷2例,その他2例であった.試験刺激による症状改善が50%未満であった直腸癌術後の1例はリードを抜去,症状改善が50%以上であった21例(男性9例,女性12例,平均年齢66.6歳)に刺激装置の埋め込みを行った.術後6ヵ月のフォローアップの時点で85.7%の症例が治療有効と判定された.平均便失禁回数/週は術前が14.9回,術後6ヵ月が3.1回と有意に減少した(p=0.0135).肛門内圧検査では術前の肛門管最大静止圧の平均値が28.4mmHg,術後6ヵ月の平均値が39.1mmHgと有意に上昇した(p=0.0026).リード埋め込みおよび刺激装置埋め込みによる重篤な合併症は認められなかった.
    【結語】便失禁に対する仙骨神経刺激療法は安全で有効な治療法である.
  • 小山 文一, 藤井 久男, 中島 祥介, 杉田 昭, 荒木 俊光, 池内 浩基, 大毛 宏喜, 中村 利夫, 根津 理一郎, 橋本 可成, ...
    2014 年 67 巻 6 号 p. 380-389
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/31
    ジャーナル フリー
    厚生労働科学研究 難治性疾患克服研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班の外科系関連施設と日本大腸肛門病学会肛門科専門医の勤務する病院に潰瘍性大腸炎に合併した肛門病変に関するアンケート調査を行った.研究班外科系施設で2,932例,肛門科施設で2,365例の潰瘍性大腸炎が集計され,肛門病変合併率はそれぞれ8.6%,21.4%であった.病変の内容については,研究班外科系施設では瘻孔・膿瘍が多く,術前病変の52.5%,術後病変の73.3%を占めた.一方,肛門科施設では,術前では痔核が多く(55.7%),術後では瘻孔・膿瘍が多かった(55.3%).瘻孔・膿瘍は,いったん発症すると潰瘍性大腸炎根治術後にも再燃する恐れがある.また女性の直腸膣瘻が研究班外科系施設で1.1%にみられており,女性患者の下部直腸・肛門前壁に強度の炎症がみられる場合には,特に注意が必要である.潰瘍性大腸炎における肛門病変は決して稀な病態ではなく,その存在を念頭においた日常診療が大切である.
症例報告
  • 今田 慎也, 真貝 竜史, 末田 聖倫, 能浦 真吾, 大植 雅之
    2014 年 67 巻 6 号 p. 390-395
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/31
    ジャーナル フリー
    症例は62歳の男性で,上行結腸癌に対して2010年12月に右半結腸切除術を施行した.術後イレウスに対して小腸ストーマを造設し,2011年11月にストーマ閉鎖術を施行した.ストーマ閉鎖術後に再度イレウスを発症し,減圧処置およびステロイド治療を開始した.その後,イレウスは改善したが,腹部単純X線写真で右側腹部および骨盤内に気腫性変化を認めた.腹部造影CTでは,右半結腸切除の吻合部および60歳時に直腸癌に対して施行した直腸前方切除術の吻合部を中心に腸管壁に沿う壁内ガスを認め,腹腔内遊離ガスも認めた.2度の大腸癌術後の吻合部を中心に発生した腸管嚢腫性気腫症と診断したが,腹膜刺激症状などの腹部所見は認めなかったため,ステロイドを中止し経過観察とした.その後も腹部所見の増悪は認めず,フォローの画像でも腸管気腫は消失した.腸管嚢腫性気腫症の成因として術後の吻合部が成因となった報告は非常にまれである.
  • 田中 玲子, 宮崎 道彦
    2014 年 67 巻 6 号 p. 396-401
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/31
    ジャーナル フリー
    症例は81歳,男性.平成17年より関節リウマチ(RA)に対してメトトレキセート(MTX)で治療していた.経過中抗ガラクトース欠損抗体(CARF)が著増したため,MTXを一旦中止.その後MTXを再開したが,血便が出現し精査で潰瘍性大腸炎(UC)直腸炎型と診断した.ベタメタゾン坐薬とメサラジン経口治療を開始したが自己中断し,約3ヵ月後症状増悪し入院となった.UCは全大腸炎型に移行していた.しかしメサラジン,プレドニゾロン(PSL)内服では改善しないため転院となった.白血球除去療法を施行するが奏効せず,インフリキシマブ(IFX)を投薬し寛解導入に成功した.本症例は,RAのMTXによる治療中にUCを発症し難治性であった.少量長期のMTXがUCの発症に関与したと考えられ,RAにUCが合併する病因に薬剤による腸管免疫寛容の破綻の可能性が示唆された.
  • 賀来 佳子, 光辻 理顕, 田中 智子, 岩崎 武, 島田 悦司, 藤田 昌幸
    2014 年 67 巻 6 号 p. 402-407
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/31
    ジャーナル フリー
    症例は62歳の女性.2011年3月腹部膨満感を主訴に近医を受診した.便潜血陽性,CEAの上昇,腹水貯留を指摘され当科紹介となった.腹部CT上,多量の腹水,S状結腸の壁肥厚,左卵巣多房性嚢胞性病変を認めた.大腸内視鏡検査ではS状結腸に2型腫瘍を認め,生検ではGroup5(tub1)と診断され,S状結腸癌と腹膜偽粘液腫の診断で4月に手術を施行した.腹腔内には4.5kgのゼラチン状腹水が充満し,S状結腸癌は後腹膜に直接浸潤していた.卵巣,子宮漿膜面,大網にもゼリー状物質が散在していた.S状結腸切除,子宮および両側付属器摘出,大網切除,虫垂切除を行った.病理組織検査で粘液産生の亢進したmucinous adenocarcinomaが主体で,S状結腸原発の腹膜偽粘液腫と考えられた.術後は,全身化学療法を施行したが,術後11ヵ月のPET/CTで腹膜播種を認めた.他院で腹膜切除術を行い現在生存中である.S状結腸癌原発の腹膜偽粘液腫は稀であるため報告した.
  • 白畑 敦, 佐藤 純人, 松本 匡史, 石田 康男
    2014 年 67 巻 6 号 p. 408-412
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/31
    ジャーナル フリー
    症例は70歳,男性.下血を主訴に当院を受診した.直腸癌による出血と診断し,また癌性腸閉塞を認めたため横行結腸に双孔式人工肛門造設術を施行した.術後1日目に大量下血を認め出血性ショック状態でoncologic emergencyに陥った.内視鏡止血は困難であり,初期治療にて循環動態安定後に血管造影検査を施行した.造影で腫瘍内に上直腸動脈が蛇行し径9.7mmの仮性動脈瘤を認めた.腫瘍による上直腸動脈の破綻による出血と診断し,動脈塞栓術を施行した.術後経過は良好で退院し,外来化学療法を行った.
  • 柴田 佳久
    2014 年 67 巻 6 号 p. 413-417
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/31
    ジャーナル フリー
    会陰部に発生する嚢胞性腫瘤にはdevelopmental cystsがある.まれだが骨盤から仙尾骨付近に発生する滑膜包炎の報告もある.今回疼痛を伴う腫瘤として発生し,一時消退の後に摘出した尾骨部滑膜嚢胞を経験した.亀背の80歳代女性.圧痛を伴う5cm径の会陰部腫瘤として受診.臀部正中の皮下epidermoid cystとして手術予定としたが自然縮小したため本人の希望により経過観察となる.その2年後再増大がみられたことから尾骨合併摘出術を施行した.病理組織学的に尾骨部の滑膜嚢胞と診断した.術後2年を経て再発をみていない.滑膜嚢胞(滑膜包炎)は整形外科領域で体幹や四肢での発生報告がみられるが,会陰部(尾骨)発生はまれであり,完全摘出の必要性を含め考察する.
  • 馬場 裕信, 松山 貴俊, 高橋 英徳, 岡崎 聡, 小林 宏寿, 杉原 健一
    2014 年 67 巻 6 号 p. 418-421
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/31
    ジャーナル フリー
    患者は38歳,女性.健康診断で骨盤内の腫瘤を指摘され当院に紹介された.CT・MRIにて仙尾骨前面に約8cmの嚢胞性腫瘤を認め,背側においては仙尾骨が一部欠損していた.仙骨前面嚢胞性腫瘤の診断で,腹腔鏡補助下に直腸と嚢胞壁の剥離を先行し,経仙骨的に尾骨も含め腫瘤を摘出した.病理組織学的検査では,未分化成分を認めず成熟嚢胞奇形腫と診断された.成人仙尾部奇形腫は比較的稀な疾患であり,悪性転化や再発の報告もあることから経仙骨的アプローチが一般である.本疾患に対する確立した術式はないが,完全切除・整容性・安全性を考慮した場合,本法は有用な術式であると考えられた.
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