肛門管癌は,進行度が予後やQOLに大きく影響するため早期診断が重要である.当院で診断した肛門管の悪性腫瘍47例を対象に確定診断までの経過と問題点を検討した.主訴は出血21例,肛門痛20例,腫瘤17例,排便障害4例,腹部症状3例,かゆみ2例で,病悩期間は16例が6ヵ月以上であった.組織診断は腺癌22例,扁平上皮癌18例,基底細胞癌と悪性黒色腫が2例,内分泌細胞癌とPaget病と悪性リンパ腫1例であった.確定診断の診断法は,直腸肛門診24例,内視鏡検査10例,麻酔下診察9例,手術標本病理4例であった.8例は確定診断に1ヵ月以上要した.組織型別に検討すると,腺癌の多くは潰瘍を伴う腫瘤性病変であり,初診の直腸肛門診で診断可能であった.一方,扁平上皮癌は多彩な肉眼所見を呈し,確定診断が遅くなる傾向を認めた.肛門管悪性腫瘍の早期診断のためには常に悪性疾患を念頭に置いた直腸肛門診察が必要で,非定型的な所見を認めた場合は積極的に組織生検,内視鏡検査,麻酔下の診察を行うべきである.
症例は65歳,男性.下血を主訴に当院を受診した.腹部CTで直腸に腸管の嵌入像がみられ,下部消化管内視鏡検査で直腸S状部に腫瘍を認めたため,直腸癌による腸重積が疑われた.直腸癌による腸重積症と診断したが,腸閉塞を呈していなかったため待機的手術の方針となった.術中,直腸を愛護的に直線化し鈍的に圧迫することで自然整復が可能であり,高位前方切除術を腹腔鏡下に施行した.術後は経過良好であり,術後11日目に退院した.直腸癌による腸重積症は稀な疾患ではあるが日常診療で遭遇しうるので文献的考察を交えて報告する.
症例は56歳男性.膿瘍形成性虫垂炎の診断で入院し,保存加療を行い症状は軽快した.下部消化管内視鏡検査と経過観察を勧めたが,行われなかった.2年6ヵ月後,腹痛を主訴に再受診した.CT検査で回盲部が一塊となり小腸閉塞の所見,腹膜播種も認めた.一元的に保存加療を行った虫垂炎に虫垂癌が合併していたと想定された.下部消化管内視鏡検査の虫垂開口部生検結果は低分化腺癌だった.審査腹腔鏡で腹膜播種を認め,回盲部は腹壁へ浸潤しており,人工肛門造設術を施行した.手術後,FOLFOX+BEV療法で加療し,1年以上生存している.
虫垂癌は比較的稀だが,待機的虫垂切除術を施行した複雑性虫垂炎の成人患者の5-11%が虫垂腫瘍だったとの報告がある.複雑性急性虫垂炎症例に関しては保存加療後に早期手術を積極的に検討すべきであり,手術を希望しない際も悪性疾患の可能性を念頭においたフォローアップが必要である.
乳頭状汗腺腫は性成熟期女性の外陰部に好発する比較的稀な良性腫瘍である.特に肛門部症例は本邦の報告は少なく,乳頭状汗腺腫の3症例を報告する.症例1:47歳女性.主訴は,10年前から自覚していた肛門部腫瘤の増大.肛門右前側方部に陥凹を伴う境界明瞭な10mm大の腫瘤を認め切除生検を施行した.症例2:37歳女性.主訴は3年前からの肛門部腫瘤.1年前から疼痛も出現したため受診.肛門部右後方に3mm大の糜爛を伴う腫瘤を認め切除生検を施行した.症例3:50歳女性.主訴は6ヵ月前からの肛門部腫瘤.肛門左側に9mm大の隆起性病変を認め切除生検を施行した.すべての症例で病理組織学的に乳頭状汗腺腫と診断した.本疾患は典型的な所見が少なく鑑別が困難なこともある.稀ではあるが腫瘍内の腺癌発生の報告もあり,同部位の腫瘤には本疾患の存在を認識し,疑う場合は腫瘤の完全な摘出と組織学的検討が望ましい.