手術後の感染予防を目的として周術期に抗菌薬の予防投与が行われているが, それらの有効性や安全性についての比較検討は未だ不十分である。そこで作用機序がユニークなホスホマイシン (FOM) に注目し, 術後感染予防の目的で使用された場合の臨床効果を, セフメタゾール (CMZ) とフロモキセフ (FMOX) を対照薬とし, prospectiveに比較検討した。
今回の調査は, 抗菌薬が日常的に周術期に使用されている実態下において, それら抗菌薬の感染予防効果を比較する方法とした。すなわち, 消化器外科の待機手術のうち, FOMの抗菌スペクトルから上部消化管手術及び肝・胆道手術を対象とし, 術後感染症発症の有無を検討した。抗菌薬の投与は, 手術時と翌日朝の投与を含め最低24時間カバーは必須とし, 術後1日目 (手術実施翌日) からは, 施設の実情に合わせ1日2-3回投与とし, 原則手術当日を含めて4日間までとした。
その結果, 解析対象症例162例 (FOM群68例, CMZ群52例, FMOX群42例) における臨床効果 (有効率) は各々86.8%, 73.1%, 83.3%で, 3群間に有意差はなく, FOMはCMZ及びFMOXと同等の術後感染予防効果を示した。また, 手術部位別有効率は, 上部消化管手術では各々70% (14/20例), 58.8% (10117例), 70% (14/20例), 肝・胆道手術では93.8% (45148例), 80.0% (28/35例), 95.5% (21/22例) で, いずれの手術部位においても3群間に有意差は認められなかった。一方, 副作用はFOM群, CMZ群では認められず, FMOX群で3例 (発現率7.0%, p=0.0151: Fisherの直接確率) に認められた。
以上の結果より, FOMの術後感染予防薬としての有用性が確認された。現在, 術後感染予防薬としては, 第一世代, 第二世代のセフェム系薬が多用されているが, こうした薬剤の偏用による耐性菌の増加を防ぐためにも交叉耐性のない抗菌薬選択の幅を広げる必要があるが, FOMはその有力な候補となり得ると考えられる。
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