Cefteram pivoxil (CFTM-PI) はCephem環の7位Acyl側鎖にAminothiazol基を導入した抗菌活性を有するCefteram (CFTM) の4位のカルボン酸をPivaloyloxymethyl基でエステル化し吸収を良好にした経口用Cephem系抗生物質である。本剤は経口投与後, 腸管から吸収され, 腸管壁のエステラーゼにより加水分解を受け, 活性体としてのCFTMは体液中に存在する。本邦ではその錠剤はすでに発売されているが, 小児用として新しく細粒が製剤化された。
そこで, 当科で臨床材料から分離した保存株と本剤投与症例からの分離株, すなわちグラム陽性球菌では
Staphylococcus aureus11株,
Streptococcus pyogenes85株,
Streptococcus agalactiae16株,
Streptococcus pneumoniae4株, グラム陰性桿菌では
Haemophilus influenzae11 株,
Bordetella pertussis11株,
Escherichia coli9株,
Proteus mirabilisと
Morganella morganii各1株, 計149株の接種菌量10
6cfu/mlに対し, 保存株ではCFTM, Cephalexin (CEX), Cefaclor (CCL), Ampicillin (ABPC), Erythromycin (EM) の5薬剤, CFTM-PI 投与症例からの分離株ではCFTM, CEX, CCL, ABPC, Methicillin, Cloxacillinの6薬剤についての薬剤感受性試験を実施, 8歳3ヵ月から10歳10ヵ月の男児9例中各3例に本剤の細粒を各々1.5, 3.0, 6.0mg/kg, 食後30分に経口投与し, Bioassay法でCFTMの血清中濃度, 尿中濃度及び回収率を測定, 3.0mg/kg投与群では高速液体クロマトグラフィー (HPLC) 法で主な代謝物であるT-2525Aの尿中濃度と回収率を測定, 1生月から11歳6ヵ月の咽頭炎22例, 扁桃炎12例, 急性気管支炎3例, 肺炎11例, 胸膜炎1例, 猩紅熱28例, 急性化膿性中耳炎16例, 膿痂疹13例, 膿瘍2例, 化膿性リンパ節炎1例, 尿路感染症33例, 計142例に本剤の細粒を1回平均投与量3.3mg/kgを1日3回か4回 (3回は133例, 4 回は9例) で, 平均8日間投与し, その臨床効果, 細菌学的効果及び副作用と臨床検査値への影響を検討したところ, 次のような結果を得た。
1. 薬剤感受性試験ではグラム陽性球菌中CFTM-PIを投与した症例から分離のS. aureus11 株に対するCFTMのMICは1株以外は3.13μg/mlか6.25μg/mlで, CEXのMICに類似し, 他の4薬剤のMICよりやや大か大を示した。
S. pyogenesの保存株50株ではCFTM のMIC90は0.025μg/mlで, ABPCに次ぐ優れたMICを示し, 他の3薬剤のMICより小であった。CFTM-PIを投与した症例から分離の35株に対するCFTMのMIC90は0.025μg/ml以下で, 保存株に対するMICと同じで, ABPCのMICとも同等を示し, 他の4薬剤のMICより小であった。
S. agalactiaeの保存株16株に対するCFTMのMIC
90ほ0.05μg/mlで, 他の4薬剤のMICより小であった。CFTM-PIを投与した症例から分離の
S. pneumoniae4 株に対するCFTMのMICはすべての株が0.025μg/ml以下か0.05μg/mlを示し, ABPCのMICとほぼ同等で, 他の4薬剤のMICより小であった。
グラム陰性桿菌中CFTM-PIを投与した症例から分離の
H. influenzae11株に対するCFTM のMIC
90は0.025μg/ml以下で, 他の5薬剤より優れたMICを示した。
B. pertussisの保存株11株に対するCFTMのMIC
90は0.78μg/mlで, EMに次ぐMICで, 他の3薬剤のMICより小を示す傾向にあった。CFTM-PIを投与した症例から分離の
E. coli9株に対するCFTMのMICは全株が0.20μg/mlか0.39μg/mlで, 他の5薬剤のMICより小であった。CFTM-PIを投与した症例から分離のP. mirabili5とM. morganii各1株に対する CFTMのMICはそれぞれ1.56μg/ml, 0.39μg/mlで, 両株共に他の5薬剤のMICより小であった。
2. CFTM-PI細粒1.5mg/kgと3.0mg/kg投与群におけるCFTMの平均血清中濃度はいずれも投与3時間後, 6.0mg/kg投与群では投与4時間後に最高濃度を示し, 各々0.62, 1.25, 2.18μg/mlで, 3投与量群間にDose responseがみられた。平均半減期はそれぞれ0.98, 1.24, 1.28時間であった。平均濃度曲線下面績 (AUC) は各々2.39, 5.36, 10.0μg・hr/mlで, 血清中濃度と同じく3投与量群間にDose responseが認められた。
3. 血清中濃度を測定した同一の症例における平均尿中濃度は1.5mg/kg投与群では投与後 4~6時間, 3.0mg/kgと6.0mg/kg投与群では投与後2~4時間が最も高い濃度で, それぞれ 27.9, 83.0, 156.0μg/mlと投与量にみあった濃度を示し, 投与後8時間までの平均回収率は各々18.9, 20.2, 16.3%であった。
4. CFTM-PIの主な代謝物であるT-2525Aの尿中濃度を3.0mg/kg投与の3例について HPLC法で測定したところ, いずれも投与後2~4時間が最高濃度を示し, 平均2.16μg/mlで, Bioassay法での尿中CFTM濃度との割合は平均2.6%であった。投与後8時間までの平均回収率は0.45%で, Bioassay法による尿中CFTMの回収率との割合は平均2.2%であった。
5. 臨床効果は142例中136例が有効以上で, 有効率は95.8%と優れた成績を示した。
6. 細菌学的効果は81株について判定でき, 全株が陰性化し, 消失率は100%と非常に優れた成績であった。
7. 副作用は掻痒を伴った発疹が1例0.7%, 下痢が2例1.4%に出現した。本剤の服薬状況では服用を嫌った症例が1例0.7%にみられた。
8. 臨床検査値では好酸球増多が87例中8例9.2%, GOTの軽度異常上昇が44例中1例 2.3%に出現した。
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