キノロンカルボン酸系の経口用合成抗菌剤であるNorfloxacin (NFLX) を23歳から29歳, 体重57~88kg, 平均64.7kgの健康男性6例に本剤100mgの錠剤を2個すなわち200mgを朝食後に1回投与し, 投与5日後までの糞便中及び尿中の濃度と回収率を測定し, 種々の条件下でNFLX, 場合によつてはCiprofloxacin (CPFX) の添加試験を実施し, その際の濃度と回収率を検討し, わずか1回だけの投与であったが, 副作用と臨床検査値への影響についてもチェックしたところ, 次のような結果が得られた。
1.6例の糞便中濃度は投与24時間後まで, すなわち1日後までの糞便で5例, 2日後の糞便で1例が最高濃度を示し, 平均では1日後が最高値で137.1μg/g, 以後漸減し, 5日後までの回収率は2.32~36.90%とばらつきがみられ, 平均13.83%であつた。
2.同じ6例における尿中濃度はいずれも1日後までの尿がピーク値を示し, 平均51.46μg/mlで, 以後漸減し, 5日後までの回収率は11.15~46.44%で, 糞便と同様にばらついた。
3.症例ごとに糞便中及び尿中回収率を加えてみると13.47~76.88%とばらつきがみられ, 平均回収率は42.24%であった。
4.糞便中と尿中の回収率を加えても, 全例の回収率は低率であつたことから前述の糞便中及び尿中排泄を測定した1例にNFLXを無添加と同剤を125,500, 2,000μg/gになるように添加し, 混和による処理で回収率を測定したところ, 48.7~57.8%と低下がみられた。しかし, 処理条件として混和とホモジネートによる回収率について検討したが両者に差はなく, 同系薬剤のCPFXでも糞便添加時の回収率はNFLXと同様に低下した。そこで糞便中の菌種で最も多い菌数の一。つである
Bacteroides fragilisをGAM broth 1.0ml中10
10 cells存在下で, NFLXが50μg/mlになるように調整し, 35℃ で6時間後, 18時間後に残存率を測定したところ, それぞれ76.4, 66.2%とわずかながら低下し, GAM brothだけに本剤を添加して直後に測定した実測値を100として, 35℃ 中で6時間後及び18時間後の残存率をみると各々85.8, 74.4%と低下がみられ,
B.fragilisは糞便中のNFLX濃度にメカニズムは不明であるが, ある程度の影響を与え, 温度も経時的にみた場合わずかながら影響することが推定された。
5.糞便中及び尿中排泄を測定した6例から前述の添加回収試験を検討した2例を除き4例におけるNFLX投与前の糞便を対象として症例ごとの糞便につきNFLXの濃度が200,800μg/gになるように調整し, 処理条件は混和で, 各々の回収率を測定したところ, 設定濃度200μg/gでは50.0~56.5%, 800μg/gでは52.4~61.6%域を示し低率であつた。その原因は糞便自体の影響も推定されるが, 前述のとおり
B.fragilisの関与, そして経時的なある程度の温度も影響していると考えられた。
6.6例に200mgを1回だけの投与であったが副作用は1例に腹痛と下痢が出現し, 臨床検査値では検査した範囲内において異常値を示した例はなかつた。
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